閑話 変化の兆し
お腹が一杯である。
先程食べた肉は、量は多かったが味はあまり美味しく無かったのである。
普段食べているあのカエル達の方がもっと美味しいのである。
しかし、お腹一杯になったと思ったら急に体が重くなって眠くなってきたのである。
お腹一杯になれば眠くなるのはいつものことであるが、今日はいつもとなんだか違う気がするのである。
そう、体の中から何かがわき出てきそうな感覚があるのである。
「どうしたの?」
そんな事を眠くなりそうな頭で考えていると、いつの間にか目の前に主様がいたのである。
主様は心配そうこちらを見てくるのである。
「体調悪いの?どこかさっきの戦いで怪我でもしたの?」
いやいや先ほどの戦いは、戦いなどと言うものでは無かったのである。
一方的な狩り、そんなもので怪我をするはず無いのである。
口を開いてそう言いたかったが、なぜか口を開くのも億劫に感じてしまい頭を左右に振ることで否定をする。
「怪我は無いんだ良かった。
さっきの戦いとってもとってもカッコ良かったの!
特に骨をグシャグシャに折ってから、一気に頭から食べるなんてとってもカッコ良いの!!
マしゅターも良くやったって褒めてたの」
そうであるか、大主殿は喜んでいたであるかそれは良かった。
初めての仕事とあって、勢いよく締めたのはいいがあまり抵抗なく骨が折れたものだから少し拍子抜けしていたであるよ。
だが目の前にいる主様と大主殿が喜んでいるのなら満足である。
「それからゴンラからのお願いなんだけど、食べ終わって消化できなかったものは綺麗に掃除してからマしゅターの元に持っていくそうだから、吐き出す時は教えてくれだって」
それくらいならいいであるよ。
あの小さいゴブリンは最初事故に見せかけて食べようと思っていたのであるが、今はいろいろと気をかけてもらっているのでそんなこと思っていないのである。
あやつの鱗磨きはなかなかの腕前でもあるしな。
「それから眠るのはいいけど、また侵入者が来るかもしれないから用心だけはしとくの。
何かあればすぐに声をかけるからね」
それだけ言うと主殿は去っていった。
ふむ、用心か……。
そう考えてスルスルと木に上がっていく。
ここならばすぐに攻撃されることも無いであろう。
木の上に体を隠すように横たえるとすぐにまた眠気が襲ってきた。
先ほど以上の強い睡魔に用心しなければという意識を置いて眠りに入って行ってしまう。
頭の中で声が聞こえるのである。
何の声であろうか?
声が気になるが、それと同じくらい眠気も襲ってくる。
≪一定数の戦闘をこなしました。
一定数の獲物を捕食しました。
一定数の知恵を身につけました。
全ての一定数が上限に達しました。
魂は安定しています。
次の段階への向上意思を確認しました。
次の段階へと進化します。
あなたの未来に幸あらんことを≫
そんな言葉が聞こえた後静かになり、再び眠りについた。
それからどれくらいねむっていたのであろうか。
数分かもしれないし、もしかしたら何時間寝ていたのかも知らない。
しかしどれくらい寝ていたのかはわからないが、寝ぬ前に感じていた感覚は無くなり、逆に体が軽いのである。
そんな自身の体の変化を確認しようとしたとき下の方から自分を呼ぶ声が聞こえたのである。
首を下に向けると、ゴンラが自分を探しているようなのである。
そう言えば眠る前に主殿が食べたものを吐く時は言って欲しいと言っていたであるな。
丁度腹の中の肉は消化したようだし、吐き出しに行くか。
……それにしてもいつもより消化が早い気がするが気のせいであろうか?
そんな事を考えながら気を降りゴンラの前に姿を現す。
姿を見せるとゴンラはこちらを見て口を大きく開き、こちらを振るえる指でさしてくるのである。
最初この体を見たときはびっくりしていたが、今はそんな事無いと思っていたのであるが、一体どうしたのであるか?
そう思った瞬間、ゴンラが大きな声で叫ぶ――、
「敵だーーーーー!!!!」
何敵だと!
何処にいるのである?
体を捻り周りを見渡しても、周りには敵らしきものは見当たらない。
なんだ?敵などいないではないか。
そう思いゴンラの方を再び見るとそこにはもうゴンラの姿は無かった。
相変わらず逃げるのだけは早いのである。
ゴンラの逃げっぷりに感心してしまうが、その間に密林にいる魔獣達がゴンラの声で集まってきたのである。
おぉ皆、ゴンラが敵だと叫んだのだが敵などどこにもいないので安心するのである。
そう集まった皆に言おうとしたのだが、皆の視線を見て開きかけた口が固まってしまう。
なんだ、どうしたのだ皆?
どうしてそのような目線でこちらを見る。
集まった皆は一応にこちらに敵意の視線を向けてくる。
何かあればいつでもこちらを攻撃してくる構えだ。
急に変わってしまった皆の態度に驚き、口だけでなく体も固まってしまう。
「ゴンラ敵いつ来たの?
マしゅターから何の連絡無かったの」
体が固まって動けない間に、密林の奥から走って主殿がこちらに駆けてくる。
おぉ主殿!
そう言おうとしたが、主殿まで敵意の視線を向けてきたら、そんな事が頭の中をよぎり主殿を呼ぶことができない。
「どうしたの?敵はどこなの?」
だが、こちらがそんなことを考えているとも露知らず、主殿はいつもと変わらずこちらに声を掛けてきてくれたのである。
その言葉に安心してしまい、固まっていた体から力が抜けその場に崩れ落ちるようにヘタリこんでしまう。
それを見た主殿が慌てて近づいてくる。
「本当にどうしたの?攻撃受けたの?
いつもと体の様子が違うの」
体の様子が違う?
そう言われて初めて自分の体を見てみる。
灰色の鱗は密林の色に合わせるかのように迷彩色に変わっており、その体長も前よりも大きくなっている。
それに口には二本、犬歯の様な立派な牙が生えていた。
な、な、なんであるかこれは!!!
自身の体の変化に自分が一番驚いてしまう。
確かにこの姿を見たら、敵だと勘違いされてもおかしくないだろう。
「あれ?もしかして敵なんかいないで、進化した姿見てみんな勘違いしただけなの?」
驚き叫んだ声で主殿はどうやら敵などおらず、この姿を見てみんな勘違いしたのだと気付く。
魔族、魔獣は進化する。
それによって姿形が変わることはよくあることなのだが、今回は時期が悪かったのかもしれない。
侵入者が来たばかりでみんなピリピリしていたので、いきなり見知らぬものがいたらそれは警戒もするだろう。
取り敢えず主殿の言葉で皆の誤解は解けたようで、攻撃姿勢を解きこちらにいつも通りの視線を向けてくる。
「おめでとうなの!!
進化してまた一段とカッコ良くなったの」
主殿にそう言われながら鱗を撫でられる。
うむ、これはとっても誇らしいのである。
その後、主殿に連れられて大主殿の所に進化の報告に行ったのである。
大主殿は姿が変わったのを見て最初驚いていたが、すぐに笑顔に変わり喜んでくれたである。
そして進化した事を祝って名前を付けてもらったである。
「今日から君の名は【ジャジャ】だよ」
ジャジャか。
今まで名前で呼ばれたことが無かったので知らなかったが、名前を呼ばれるとこう胸が温かくなるな。
「ジャジャいい名前なの!
これからも一緒に頑張るの!!」
主殿も名前を呼んでくれる。
他の大主殿の臣下や従者の方々も皆祝いの言葉を掛けてくれるのである。
名前があるって言うのは嬉しいのであるな。
これからも大主殿や主殿それに皆のために頑張るであるよ。
オマケ
祝いの言葉を貰った後密林エリアに戻りゴンラを軽く締めたのである。
軽く締めただけなのだが、以前より力が増したのか危うくゴンラの骨を折ってしまいそうになったのである。
締めすぎて気絶したゴンラを見て謝りそうになったのであるが、もとはと言えばゴンラが敵だと叫んだせいで大騒ぎになったと思いだし謝るのは止めたのである。
まぁ、今後もまた前みたいに鱗を磨いてくれると言うのであるならば許してやらなくも無いのであるがな。
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