戦利品を整理しよう
「無事……、とはいかなかったけど何とか倒せたな」
モニターでダンジョンの様子を見ていた黒はそう言って椅子に背中を預けるようにして座りこむ。
体には何かが入ってくる感覚があった。
多分これが今殺した侵入者たちのDPなのだろう。
今まで野生の動物を殺したときには感じなかったが、それは体に入ってくるDPの量が微々たるものだったから気付かなかっただけなのかもしれない。
実際にステータス画面を開いて確認するとDPが800ほど増えていた。
「今程度の奴が800なら結構楽だな」
見ていた限り、あの程度の侵入者ならばそこまで怖くはないだろう。
今回はヤードに無茶をさせたが、次からは上手くみんなで連携し罠にはめれば誰も怪我をせずに侵入者を倒せると思う。
それを何回か繰り返してDPを徐々に増やし、それでダンジョンを強化する。それがこれからの目標になってくる。
「マスターただ今戻りました」
これからのことを色々と考えていると、ムースが部屋に帰ってきた。
彼女にはヤードに回復薬を持って行ってもらったのだ。
「お帰り、ごめんねわざわざ行ってもらって」
「いえ、お気になさらず」
「それでヤードは何か言ってた?」
直接行かなかったのは、今のヤードならきっと俺と顔を合わせ辛いと思ったからだ。
「『次は行動で示す』とのことです」
「なるほど、なら俺は楽しみに待ってることにするよ」
今回のことを受けてヤードがそう判断したのなら、俺は信じるだけだ。
だが、ヤードの答えにムースは少し不満気味だ。
「『次』があると楽観視していませんか?
もしかしたら『次』なんて無いのかもしれませんのに」
ムースの言う通り、もし次の侵入者が今の奴らより断然強かったら元も子もないだろう。
だが、ヤードはそう言う未来も含めて『次は行動で示す』と言ったのだ。
「男がそう言ったのなら信じてやろうよ」
「私は女なので、その男同士で通じる信頼は分かりません。
……ですが、あいつは義の文字を背負っていますから、一応は信じていますよ」
そうムースは一気に言う。
なぜかこの二人は妙に相性が悪い気がする。
一度二人に聞いてみたら、二人とも苦虫を噛み潰したような顔をしたから間違いないだろう。
二人とも「初対面での出来事が尾を引いているからな……」や、「私より後にマスターに出会っているのに、私以上にマスターと親しげに話をしているのですよ。気を許せるはず無いじゃないですか」と小声でつぶやいたために原因は聞き取れなかったが、とにかく二人には仲良くしてもらいたいと思う。
それからしばらくムースが入れてくれたお茶を飲みながら今後のダンジョンについて計画を練っていると大部屋の扉をノックして誰かが訪ねてくる。
それに反応して俺が席を立とうとするよりも早く、いつの間にか移動したムースが扉を開け通路にいる誰かと会話を始める。
ああいう行動を見るとムースは本当にメイドとしてのスキルが高いと思う。
しばらく会話したあと、ムースは通路側にいる誰かから荷物を受け取るとそれを俺の前にある机の上に置く。
「今の誰だったの?」
「ゴンラとスラりんですよ。
ゴンラはいまだにこの部屋には入れませんので、扉の前までこの荷物を持ってきたそうです」
大部屋にトラウマを持っているゴンラは、この部屋に入ることができない。
それでもダンジョンでは普通に生活できるので何も問題ないし、何か用がある場合はさっきのように扉をノックして用事を伝えるようにしている。
「ゴンラは自分の仕事が終わった報告と、先程の侵入者の持ち物を持ってきたそうです」
確かに目の前にある荷物の中には先程見た侵入者が使っていた斧などが見て取れる。
あとは彼等の着ていた衣服に鞄、それとわずかだが丸や四角い金属数種類ある。
俺はそのうちの一つの金属を掴み取りその感触を確認する。
「これは…、お金でいいのかな?」
「はい、人間達が使っている通貨ですね。
マスターが今手に持っているのが銅銭で、一番価値が低い通貨です」
ムースの説明によると通貨は丸いのが銭で四角いのが貨と呼ばれ、一番低いのが銅、次が銀、その上が金、一番上が白金となるそうだ。
銭が100枚で貨となり、貨が100枚集まると次の通貨の銭に上がる。
「こいつが持っていたお金が銀銭36枚、銅貨78枚に銅銭45枚」
「その場合367845通貨ですね」
「それは多いのか?」
「普通の人の日当の場合銅貨が3枚から5枚ほどですし、パンの値段が1個50銅銭ほどですので、なかなか持っている方かと思われます」
本当に俺が疑問に思ったことをムースはスラスラ答えてくれる。
一度「よくそんなに知っているね」と言ったら、無表情に少しだけ得意気な雰囲気で「マスターのメイドですから」と返された。
「それとマスター、これは斧を持っていた男だけの荷物ですので、もう一人の方の荷物は含まれていないそうです」
「……まあ仕方ないよね」
もう一人の侵入者はアナコンダイに丸飲みされてしまったからな。
「メーサの言葉によると、1日経ったら食べられるのは全部消化して、食べられないのはその後全部吐き出すそうなので、吐きだしたものを掃除してからゴンラが持ってくるそうですので安心して下さい」
「あぁ…、そう」
何だが妙に生々しい話を聞いた気がする。
それに掃除して荷物を持ってきてもらっても、丸飲みされた男は腰巾着みたいな動きをしていたから対したものなど持っていないだろう。
男の鞄の中を開いてみると中にはロープや携帯食料、水に細い金属棒そして何か文字が書かれた金属でできたカードなどが雑多に入っていた。
俺はその金属のカードを見て思い当る物があった。
「これって冒険者カード?」
よくファンタジーなどで出てくる有名なカードだ。
これを見れば相手の情報が詳しくわかるかもしれない。
そんなファンタジー感たっぷりなものに出会って少しだけテンションが上がったが―、
「いえそれはただの身分証ですね」
無常ともいえるその答えを聞き、俺のテンションは一気に下がってしまった。
「…身分証?冒険者カードじゃなくて?」
「はい、この身分証を提示することで自身の身分を明らかにして街に入ったり、契約の時に信頼していただけるように見せたりして利用します。
それとマスター失礼ですが私冒険者カードと言う言葉は初めて聞きます」
どうやらこの世界には憧れの冒険者カードと言うのは存在しないらしい。
この世界の住人の多くは生まれた後に、証の神マキン様の神殿を訪れこの身分証を発行してもらうそうだ。
この身分証には名前と生まれた日、職業、犯罪歴、賞与歴、加護などの情報が書かれるらしい。
確かにそんな身分証があれば冒険者カードなんてわざわざ作る必要無ね。
ちなみに手に持った侵入者の身分証を見ると、
名 前:ハック(自称『剛腕のハック』)
生年月日:創造歴1035年土の月23日
職 業:冒険者 D+
犯罪歴 :無銭飲食31回、傷害53回
賞与歴 :
加 護:
となっていた。
他にも人によってさまざまなことが書かれるらしい。
………しかし自分で名乗っていた剛腕のハックって自称だったのか、改めてこう文字で見るとなんだか痛々しいな。
身分書を見終わった後は服と斧の処理だ。
「服の方は洗ってしまっておこう。
新しく来た仲間が着るかもしれないし、もし着なくてもムースが雑巾代わりに使えるでしょう」
「ありがとうございます」
出来るだけ使えるものは使っていかなくては。
最後は斧だが、これも今は使う当てが無いからしまっておくしかない。
荷物の処理が終わると次はみんなに新しい指示を飛ばす。
「みんなお疲れ、さっそくだけど次の準備に入ろう。
侵入者が入ってきたってことはこの場所が人々に知られたってことだ」
さっきの侵入者の身なりから見て偶然見かけて入ってきたのでは無いのははっきりしている。
おそらくこのダンジョンの場所はもう知られているのだろう。
次からは装備を整えた侵入者が続々来ると考えられる。
「ヤードは一旦下がって体を直すことに専念、メーサとスーラは交代で警戒と休憩を取ってくれ」
とりあえず今はこんな指示でいいだろう。
もし状況が悪ければすぐに新しい指示を飛ばせばいい。
「これから忙しくなりそうですねマスター」
「そうだね。でもこれも俺達が生きていくためだから仕方ないよ」
不安もあるが、はじめての戦闘を終えた今確かな手ごたえも感じている。
まだ油断はできないので後二、三人からは情報を得る必要があると思う。
まだまだ考えることにやることはいっぱいあるけれど、何も無かった先日までの一週間に比べたら大分ましだ。
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