閑話 食事事情
珍味ほどおいしいといいますが、
何事にも限度があるようです
朝起き自室から出ようとしたとき、大部屋から声が聞こえてきたので思わずその場で会話に耳を傾けてしまった。
「しっかし、主がカウフロッグの肉を食べないとはな」
「おいしいでござるにな」
「メーサも大好きなの」
「仕方ありません。マスターが食べないというならカウフロッグを食卓に出すことはありません」
「え~、マしゅターが食べないだけで別にメーサ達は食べていいと思うの」
「駄目です。
マスターは私達との食事を楽しんでいるのですよ。
それなのにマスターだけ別のものを食べるなんて一緒に食事をする意味がないではありませんか」
ムースは俺がみんなで食事をしている理由をわかっているようだ。
「う~、でも~」
「でももくももありません」
いまだ未練が残るメーサに、ムースがピシャリという。
少し厳しいようだが、俺もカウフロッグは食べたくない。
ここはかわいそうだけどメーサには我慢してもらおう。
俺がそう思ったとき、突然メーサに援護が入る。
「ま~ムース、そう言うな。
お前だってカウフロッグの肉食べたいだろう?」
「マスターが食べないなら、私も食べません!」
「本当にそれでいいのか?
あのジュウシーな噛み応え、あふれ出る肉汁、口の中で動く筋繊維を我慢できるのか?」
「………我慢できますとも」
あれムース、今の間は何?
「カウフロッグ肉で作ったハンバーグなんかは、あれはまた普通の肉と違った美味しさがあるよな~」
「そうでござるな、某は揚げ物の良いと思うでござるよ」
「メーサは踊り食いがいいの。
あの喉で暴れる感触と、胃の中で溶けていく触感が堪らないの」
「で、ムース本当に我慢できるのか?」
「………………………少しマスターの食事環境を考える必要があるかもしれませんね」
おいっーーー!!!
何考え変えてるんだよ!
「そうだろう、そうだろう。
よし、っとなればどうやって主にカウフロッグを食べてもらうか考えようぜ」
「そもそもなんで主殿はカウフロッグを食べないのでしょう?」
「マスターはあの見かけが駄目とおっしゃてましたが」
「え~うそ、あの可愛い見かけがいいのに」
可愛いくないから。
俺のいた世界ではカエルを食べるって躊躇するから。
「まぁそれは異世界から来た主と俺達との価値観の違いだな。
メーサだって、いきなりプディルックヴァルボを喰えって言われたら困るだろう?」
「えっ、いや、あんなのメーサ食べられない。逆に食べられちゃうよ」
プディルックヴァルボって何?
あの食欲旺盛なメーサが食べるの嫌がってる?
って言うか逆に食べられるって、一体どんな動物なの?
「確かにアレを食べろと言われたら困りますね。
一応はライフ77珍味の一つなのですが……」
「そうでござるな。見かけがあれですからな~、まったくどうやったらあんな植物が生まれるのやら」
「メーサ本当に嫌なの。あんな舌を出しながら二足歩行する金と蛍光紫の二色の縞模様している植物なんか食べたくないの!」
動物でもなかった!
確かにメーサの言った通りの植物なら俺も食べたくない。
「だろう。つまり今の主はそんな気持ちなわけだ。
それを解決するためには、主が食べても平気なラインを知ることが大事になってくるわけだ」
「普通の動物の肉は大丈夫なようですから、まず最初にレッドスコーピオンでも食べてもらいますか?」
レッドスコーピオンは真っ赤な蠍みたいな魔獣だ。
蠍と違うのは足が4本だけで尻尾が2本あるところだ。
まぁこれなら食べれるだろう。
「レッドスコーピオンでござるか、主殿はビッグスパイダーを見ても平気だったでござるから意外に平気ではなかろうか?」
「たしかにな、主は意外に虫系は食えそうだからな~」
いや確かに急を要すれば食べるけど、好き好んでは食べないよ!
「それならブラッドヒルなんてどうなの。
あれならおやつ感覚で食べれると思うの」
ブラッドヒルは吸血蛭だ。
ただし大きさは子供の手ほどの大きさもあり、色もその名の通り血のように赤い。
「あれはおいしいですからね。
噛み潰す時のあのプチプチ感がいいですね」
「でしょう!でしょう!
メーサはあのプチプチ感と一緒に出る悲鳴も好きなの!」
やめてーーーーーーーー!!!!!
なんで食事に悲鳴が入るの!
いらないから、悲鳴とかいらないから!
その後も次々と出てくる魔族の食事事情に俺は扉の前で項垂れてしまった。
カウフロッグなんてまだ良い方だったのか……。
まさかあんなものまであるだなんて。
俺あんなの絶対食べれないよ。
みんなの話を聞き、カウフロッグだけは何とか食べそれで勘弁してもらおうと、朝っぱらから、今までで一番の覚悟を決めるのであった。
オマケ
話がある程度終わりかけた時、突然ムースが突飛なことを言い出した。
「せっかくなので私が裸になりその上に食事を乗せて食べてもらいますか。
我がホムンクルス当主によるとこれをすると男の方なら喜んで食べていただけるとのことですし。
…………………私ごと召し上がってくれるとのことですし」
最後の言葉は小さくつぶやかれて聞こえなかったが、その前半の言葉を聞いただけでヤードとスーラは引いてします。
ムースのしようとしていることは、ある意味男の夢の一つではあるが、それは夢だからいいのであって本当にしようとする人を前にすると引いてします。
なんて言うか思いがかなり『重い』。
そうなムースにメーサが笑顔で告げる。
「無理しない方がいいの。
年老いた体に見せた所でマしゅターは喜ばないの。
ついでに料理も勿体ないの」
料理が勿体無いという発言は至極もっともだが、その前の年老いた体という言葉はあきらかに必要ない。
ここでもメーサの『毒舌』が発揮される。
「そんなことするくらいならメーサが裸で『私を食べて』って直接言った方が効果できで、マしゅターもきっと喜ぶの。
だって、男の人は若い子の方が好きって言うもの」
自信満々に胸を張りそう言うメーサを、無表情だったムースが鼻で笑う。
「『私を食べて』ですか、一体あなたのどこにそんな食べるとこがあるというのですかね?」
ムースはメーサのうっすいというかまったくない胸を見ながら言う。
「食べるとこも無い、食指も動かないような体を見せようなんて滑稽以外なんでもないですよ。
これだから発想が幼い者の考えは笑えます」
「熟れすぎでヨボヨボの体の人に言われたくないの」
「ヨボヨボではありませんよ。
私の体は常にマスターにふさわしい完璧さを誇ってます」
「メーサだって同じなの、若くてピチピチのナイスバディなの」
二人は笑顔と無表情で睨みあう。
それを距離を取ったヤードとスーラが眺める。
「止めないでござるか?」
「止められるのか?」
「無理でござる」
ああなった二人を止められるのは主しかいない。
まぁこれも惚れられた責任というやつだ。
そう言う風に全て主に丸投げする。
「なんというか、それでいいのでござろうか?」
「いいんだよ。
恋愛なんて、当事者以外は煮ても焼いても食えないんだから。
精々美味しそうに食われるのを周りは楽しく見るだけだ」
そう言われなるほどスーラがうなずく。
主が起きてくるまでしばらくこのままだろう。
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