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増えるダンジョンの住人達

「それじゃあ呼ぶよ、『ホッピングスネーク』『ウットカゲ』『ポイズンスネーク』それぞれ6匹ずつ召喚」


 万魔事典に手を置き呼び出す魔獣の名前を呼ぶ。

 いつもと同じように床に光り輝く陣が現れるが、その陣はいつもよりも大分小さい。

 そして陣が消えた床には、先ほど呼び出した魔獣たちがそこにいた。


 ホッピングスネークは名前の通り飛び跳ねながら獲物を狙うのが特徴の蛇だ。

 木から飛び降り、地面に当たると体をバネのようにして飛び跳ねるそうだ。


 ウットカゲはその体の色が木と同じ茶色の保護色になっているトカゲだ。

 体長が手の平サイズと小さいが、それでも魔獣でありその唾液には麻痺毒が含まれている。(麻痺毒と言ってもそこまで強力では無く、一、二時間指先がしびれる程度の麻痺毒だそうだ)


 そしてポイズンスネーク、緑と紫の光沢な鱗を持った名前の通り毒を持っている蛇だ。




 呼び出した魔獣たちはそわそわと体を動かすが、こちらを襲う気配は無い。

 それに安心して、黒は彼等の住み家となるダンジョンの扉を開ける。


 「この先密林になってるから好きに住んでいいよ。

 それで獲物がいたら皆で協力して狩ってね」


 その言葉に魔獣たちはシャーと鳴き、ダンジョンに姿を消していく。

 全ての魔獣がダンジョンに消えると、黒は再び万魔事典を開く。


 「他にも何か呼ぶ気か?」

 「うん、さっきの魔獣達じゃ決定打に掛けるからね。

 彼らより少し強い魔獣を少し呼ぶよ」


 先ほど呼び出した魔獣達はあくまで奇襲や毒など、相手を削ることが目的の魔獣達だ。

 弱い相手なら彼らだけでも倒すことが出来るだろうが、相手が強いと彼らだけでは荷が重いだろう。

 万魔事典を開き、先ほどよりも強い魔獣を呼ぶ。


 「『アナコンダイ』『ビックスパイダー』『マッドアリゲーター』をそれぞれ召喚」


 先程の魔獣達が現れた以上の光り輝く陣が現れる。

 そして現れたのは、それぞれ1メートルは超えるであろう強大な魔獣達。


 アナコンダイは、巨大な蛇。

 ビックスパイダーは、強大な蜘蛛。

 マッドアリゲーターは、強大な鰐。

 それぞれ毒などの特殊なものは持っていないが、それぞれがその巨体を生かしで獲物を仕留めていく魔獣だ。


 そんな魔獣が目の前に現れると、さすがにわかっていても思わずビビってしまう。

 それがわかったのだろう。


 「安心しろ主、こいつ等が危害を加えようとしたら俺が守ってやるから」


 さりげなく庇うように前に出たヤードの姿に思わず安心感を覚える。

 そしてそんな彼に対して、守ってもらう責任を感じ、何とか彼らに指示を出す。


 「俺のダンジョンにようこそ。

 まだプロジェクトが始まっていないから、敵はいないけど君達にはそれぞれ各密林で侵入者を相手してもらいたい。

 もちろん狩りの仕方は君たちの自由で構わない。

 ただし、俺の指示を出したときは絶対に聞いてくれ。

 これは君たちの命を無駄に失わせないためだ」


 魔獣は魔族と比べ知能が低いとされているが、それでもDDMになった者の声には答えるぐらいの知能はある。

 呼び出した魔獣達は、俺の言葉にゆっくりと頭を下げ理解を示す。

 それを見て、俺はまたダンジョンの扉を開く。


 「さぁ、ここから先が君たちの住む場所になるダンジョンだよ。

 先にほかの魔獣達もいるけど、喧嘩はほどほどに皆仲良くしてね」


 そうしてアナコンダイ達もダンジョンに姿を消していく。






 「あとは少し様子を見てから魔獣達を増やしていくかな」


 急に魔獣達を増やしても、今度は魔獣同士で縄張り争いなどが起こる可能性がある。

 それを考えれば、今は様子を見て徐々にダンジョンの大きさと共に魔獣を増やしていくのがいいだろう。


 「そうだな。まだ少し心もとないがまだプロジェクト開始まで日にちがある。あせってミスをするよりも慎重ぐらいの方が丁度いいだろう」


 ヤードも俺の意見に賛成してくれる。


 「私もマスターの考えに賛同します」


 ムースも賛成。

 ただし彼女の場合俺の意見には全て賛成する気がするが……。


 「ところでマスターひとつよろしいでしょうか?」

 「どうした?」

 「さきほどのアナコンダイ達には喧嘩しないようにと言われましたので心配はしておりませんが、最初に送ったホッピングスネーク達は大丈夫でしょうか?」

 「心配ないと思うよ。

 まだ縄張り争いするほどの数はいないし、数もそこまでいないからね」


 一緒に呼び出したから、彼等も一応敵ではないとわかっているだろう。


 「いえ、彼等に関しては心配しておりませんが、ゴンラは大丈夫でしょうか?」

 「えっ?」

 「先にダンジョンにいたゴンラは敵と間違えられませんか?」

 「……ゴンラーーーー!!!!!!」







 その後急いでダンジョンに入ると、ウットカゲに体を痺れさせられ、ポイズンスネークに何カ所も噛まれ、ホッピングスネークに踏みつけられるゴンラの姿があった。

 そして動けなくなったゴンラを守ろうとするスラりんの姿も。

 俺は急いで魔獣達にゴンラとスラりんが敵ではないと説明して攻撃を止めさせ、すぐにゴンラ達の治療に当たる。

 解毒薬に回復薬をしよう。

 ……何気にゴンラに対してDPを消費している気がする。

 治療が終わるとゴンラは元気になったが、今度はダンジョンが怖いとなったらどうしようと考えていたが。

 ゴンラはそれよりも傷だらけになりながら、自分を守ってくれたスラりんの姿に感激したらしく「スラりん先輩!!」と涙ながらに抱きついていた。

 いつの間にか二人の間には友情が結ばれているようだ。






 治療が終わり元気になった二人は、またダンジョンに戻っていった。

 今度は他の魔獣達と上手くやれるだろう。


 「いや~、うっかりしてたね」

 「いや主よ、今のは仕方ないだろう。

 いくらDDMの声がわかると言っても彼等は魔獣だ、意思疎通が足りないとこも出てくる。

 多分今回みたいなことはこれからも出てくるだろうよ」


 ヤードの言う通りだ。

 おおまかに指示したら、網目を抜けるようにミスをするし、細かく指示をすればがんじがらめになって指示した内容以外では動くことが出来ない。

 理想としては、おおまかな指示で細かいとこまで気を配れるのが理想なのだが、それは魔獣に求めるのは酷というものだろう。


 「難しいな」


 難しく考えたせいで甘いものが猛烈に欲しくなる。

 それを察したのかムースが甘味と飲み物をそっと差し出してくれる。


 「マスターあまり根を詰め過ぎないようにしてください。

 まだプロジェクトが始まってもいないのにそれでは、過労で倒れてしまいます」

 「そうだね。気をつけるよ」


 ムースの言葉に感謝して甘味を口にする。

 糖分が脳にいきわたり披露していた頭が癒されていく。

 おかげで一ついい案が浮かぶ。


 「……もう一人呼ぶかな」

 「これ以上魔獣を呼んでも仕方ないだろう」

 「呼ぶのは魔獣じゃないよ、魔族だよ。

 それも魔獣を操れる『魔獣使い』の技術のあるね」






 万魔事典の検索機能を使い目的に合う魔族を検索する。

 だが魔獣使いの技術を持つ魔物は少なく、いても消費するDPが馬鹿にならない。


 「いい案だと思ったんだけどな」

 「確かに魔獣使いが居れば指示を出したりするのは楽になるが、もともと魔獣使いってやつは魔族でも少ない希少技術だからな」


 獰猛な魔獣を操るのは難しいらしく、素質はもちろんのことある程度の力を持っていないと魔獣になめられるので、魔獣使いの技術を持つ者はDPが高くなるそうだ。


 「マスター、今ダンジョンにいる魔獣の大半でしたらおそらく『眷族使役』を持つものでしたら、言うことを聞かせられると思いますが」

 「『眷族使役』?」

 「はい、魔族の中には一定の魔獣を眷族として自由に操れるのです。魔獣使いの限定版だと思っていただければよろしいかと」

 「なるほど」


 それなら、万魔事典に乗っているかもしれない。

 検索を掛けてみると二つの種族が出てくる。

 一つはラミア族、もう一つがメドゥーサ族どちらも蛇を眷族使役出来る種族だ。


 「ラミア族とメドゥーサ族両方ともそれなりに力を持つ一族だな」

 「そうですね。私達一族の中にも彼等に仕えるものが居るほどの実力を持っているものもおります」


 二人の言葉で、呼び出せる二人の種族がかなり強いことを知る。


 「どっちも消費DPが最低500か……、どっちを選ぶか慎重に考えないとね」


 スキル欄を見るとラミア族は主に肉体的な能力が高く、メドゥーサ族は支援的な能力が高い。

 もちろん全員が全員そう言うわけではないが、そういうタイプが多い。

 俺のダンジョンに今必要なのは……。


 「メドゥーサ族かな」


 トリック系を主とする俺のダンジョンでは、まず支援系が必要となる。

 なので最初はメドゥーサ族を呼ぶことにする。




 出来るなら能力が高く、そして気が合う魔族が来ますようにと願いながら万魔事典で呼び出しを行う。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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