閑話 頑張れ、ゴンラ君!!
はじめまして、おらゴンラっていいます。
昨日からこちらのダンジョンに住むことになったゴブリンです。
12人兄弟の6番目に生まれたおらは、他の兄弟達と違い戦うのが得意じゃないせいで、いつも兄弟達から馬鹿にされていました。
ゴブリンの食事風景なんてどこも同じようなもので兄弟達がおかずを取り合いするけど、おらの兄弟達はいつもおらのおかずを一番初に狙ってきます。
兄弟曰く、「簡単に盗れるから」だそうです。
悔しくて何とか取り返そうとするんですが、兄のパンチやキック、弟の頭突きに箸での眼潰しによってあえなく撃沈します。
(ちなみに箸で眼潰しした弟は、その後父に「箸で汚いもん触るな!」って言われ殴られていました。
それを見て少し気持ちがスッとしてたら、起こられてムシャクシャしている弟におもいっきり蹴られました)
そんな兄弟達ですが意外と優しいから嫌いじゃないです。
おかずを獲りに狩りに出るとちゃんとおらのことを守ってくれます。
いつも囮にされているような気がしますが気のせいです。
三回に一回、獲物を狙った矢がおらをかすめていくのも気のせいです。
突然出てきた灰色大熊が出たときも、みんな狙われたおらを助けるために、助けを呼びに行ってくれました。
…………もしかして全員逃げたんじゃ?
そう思ったけど、二日後ちゃんとみんな来てくれたから気のせいでした。
(なぜかあの時、兄弟達はおらに合うとまるで幽霊に合ったみたいな顔だったな~)
そんな優しい兄弟達と日々過ごしていると、ある日大変なことが起こりました。
偉大なるクラウン様からのプロジェク発表。
それを聞いた長年寝たきりになっていたジイ様は、勢いよく飛び起きるとすぐに万魔事典に登録に向かいました。
なにやら「布団の上で死んでたまるか!!わしはまだやれるぞー!!!」と叫ぶジイ様を見ておらたち一家も黙っていられません、皆勢いよく登録しに行きました。
(ジイ様登録会場に着く前に、体力切れで動けなくなったから運ぶの大変だな~)
それから村の中から何人か呼び出されて行きました。
そんな光景を見ながら、おらは勢いで万魔事典に登録したけど、戦闘は得意じゃないから呼ばないで欲しいと思ってました。
(でも、おらがそう思うといつも逆の方に行くんだよな~)
そして今日もおかずを兄弟に盗られたおらは、こっそり隠していた木の実で空腹を癒そうと、隠し場所である裏の木の影まで行くと、突然足元に光り輝く陣が現れました。
「えっ?召喚?」
せめて隠してある木の実を一口だけ、そう思い殻を剥くための石器のナイフを掴んだ所で呼び出されました。
呼び出された場所にはおらの他にもゴブリンが二人に、黒髪の男性と銀髪のメイドさんがいました。
突然の召喚と、木の実を食べれなかったショックから茫然としてたおらは、いきなり顔面を殴られました。
悲鳴を上げておらは床に転げ回りました。
(痛い~、痛いよ~。
それに鼻と口に血が広がってなんだか息もしずらくなっ…て……)
激痛が走っていたのですが、後からだんだん何も考えられなくなってそのまま意識が飛んでしまいました。
目が覚めたらおらは知らない布団で寝ていました。
こんなフカフカで気持ち良い布団で寝たことなど今までなかったので、もう一度寝ようとしましたが、その前に声がかかりました。
「よう、目が覚めたかい」
声をかけたのはおらと同じゴブリンとは思えないほど貫禄を持ったゴブリンでした。
彼は自分のことをヤードと名乗り、なぜおらがここにいるのか説明してくれました。
「出合い頭の不幸ってわけだな。まぁこれに関しては呼び出した主を恨むなよ。
主はお前さんのためにわざわざ効果の高い回復薬を使ってくれたんだからな」
もともと恨む気なんかなかったのですが、『効果の高い回復薬を使ってくれた』、その言葉でおらはあるじ様を恨む気なんてまったくというほどなくなりました。
(おらみたいなゴブリンにそんな優しくしてくれるなんて)
今までそんな優しくされたことが無かったので、感激して眼から大量涙が出てきました。
「お、おい、大丈夫か?」
突然泣き出したおらを見てヤードさんが、慌てて声をかけてきましたが、今はそれに答えている暇はありません。
一刻も早くあるじ様に感謝の言葉を述べなければ。
そう思い布団から飛び出し、外に出ようと扉を開けました。
ですが―、
おらの足はドアを開けた先、つまり呼び出された大部屋を見るなりガクガクと震え、一歩も動けなくなってしまいました。
(なっ、なんだこれ?)
突然襲った自分の体の変化に驚いてしまいます。
「どうしたんだ、突然止まって」
背後からヤードさんが声をかけてきます。
それはそうでしょう。
いきなり勢いよく外に出ようとしたおらが、ドアを開けたとたん動かなくなったのですから。
「ヤードさん、おらの足が動きません」
振り返ってそう言うと、ヤードさんは顎に手を当てしばらく何かを考えると、おらの目を塞ぎます。
「これでどうだ」
(どうだって聞かれても、ただ目をふさがれただけじゃ…)
そう思ったのですが、いつの間にか足の震えは止まっており、自由に足が動くようになっていました。
「動きます」
「そうかなら、少し歩いてみろ」
言われた通りおらは歩き出しました。
そして五歩ほど足を進めたとき、ヤードさんが塞いでいた手を外します。
その瞬間、おらの足はまた動かなくなりました。
それだけじゃないです。
今度は腰が抜け、全身がぶるぶると震えます。
ここは怖い。
逃げたくて仕方ないのに、体が動かず逃げることもできない。
頭の中がパニックになりそうになった時、またヤードさんが目を塞いでくれました。
するとさっきまで震えがパッと治まりました。
「こいつは完全にこの部屋がトラウマになってるな……」
ヤードさんのつぶやきに、何が起きているのか分からないおらでも、嫌な予感を感じました。
その後、目隠しされた状態で何とか部屋まで帰ってきたおらにヤードさんはおらのこの状態について説明してくれました。
おらはどうやら殴られたショックであの部屋が怖くなったんだそうです。
(どうしよう、このままおらこの部屋から出られないのかな…)
そう考えると寂しくなって下を向いてしまいます。
そんなとき一人の女性がドアを開け部屋に入ってきます。
「ヤード、ゴンラは目を覚ましましたか」
銀髪のメイドさん、同じダンジョンで働くムースさんだそうです。
「あぁ、目は覚めてんだけどな、ちょっと問題があってな」
「問題ですか?」
ヤードさんがそう言ってムースさんにおらの状態について説明します。
ムースさんは黙って最後まで聞き、しばらく考えた後おらに聞いてきます。
「ゴンラ、あなた狩りはできますか?」
「狩りですか?一応できますがそこまで上手くないです」
囮役として頑張ってきたせいで、狩りの腕前はそこまで上手くない。
「そうですか、では木の実や果物の採集はできますか?」
「それなら得意です」
いつもおかずを盗られていたから、空腹を満たすために自分でこっそりと集めて食べていたので自信がある。
「でしたら問題などありません。
ゴンラあなたは今日からダンジョンで寝泊まりしなさい」
「へっ?ダンジョンでですか?」
「そうです。幸いにも昨日マスターがダンジョンのいくつかの部屋を密林に変えましたので、一先ず食べるものはあると思います。
これならば、大部屋が怖くて入れなくても大丈夫でしょう」
大部屋にいなくていいのならおらとしても助かる。
ムースさんの言葉におらは何度もうなずき同意する。
「ではヤード、ダンジョンまではあなたが誘導してあげて下さい」
「誘導って、ダンジョンはすぐそこだろう?」
「すぐそこですが、ダンジョンに行くためには大部屋を通る必要があるでしょう。
目をつむっていれば平気とのことですので、あなたは手を引いて誘導してあげなさい」
「そう言うことか、わかった」
話がまとまったようで、おらは早速ダンジョンに向かうために立ちあがる。
「ゴンラ、あなたのことは私がマスターに話しておきますので安心してダンジョンで生活して下さい。
そして、ダンジョン生活をいきなり一人でするのは心細いと思うのでこの子も連れて行きなさい」
その言葉を合図にムースさんの背後から一匹のスライムが飛び跳ねながら出てくる。
「この子の名前は「スラりん」だそうです。
一応あなたの先輩ですので、大事にしてあげて下さい。
そう……、マスターを誘惑できないように、あなたのことが大切であなたから離れたくなくなるくらいに大事にしてあげて下さい」
無表情なのにその目だけは雄弁にゴンラに言う。
「マスターにそのスライムを近づけさせるな」
おらはトラウマが出た以上に体を震わせながら何度も何度もうなずいた。
それを横で見ていたヤードさんがポツリと「嬢ちゃんは、スラりんを遠ざけるためにゴンラをダンジョンに住まわしたんじゃ……」と呟いたが、おらの耳には入ってこなかった。
そして、現在おらはスラりん先輩と一緒にダンジョンを探索しています。
スラりん先輩に最初さん付けで呼ぼうとしたのですが、先輩だそうなので「スラりん先輩」と呼ぶと、嬉しかったのか何度も何度も飛び跳ねていました。それからはずっとおらはスラりん先輩と呼んでます。
ダンジョンの中は通路などは石造りですが、部屋の中はムースさんの言った通り密林になってます。
「これはすごいっす」
まだ他の生き物はいないそうなので安心して食べ物を探せます。
木の実の他にも湿気が強いのか、キノコ類も豊富です。
「これなら飢える心配も無いですね」
おらは次々に食べ物を集めていきます。
途中食べられないキノコもありましたが、それは綺麗にスルーしました。
前に一度食べたら、おらの記憶にはないのですが裸になって一日中踊っていたと兄弟達が教えてくれました。
……もう二度と食べません。
でもスラりん先輩はおらのスルーしたキノコをどんどん食べていきます。
毒とか平気なのでしょうか?
とにかく食べ物はあるし、今のところおらを襲う生き物が居ないここはまさに天国です。
このままのんびりとここで過ごせたらいいのに、そう思いながらおらは満腹になったのでスラりん先輩の柔らかい体を枕に(横になったらスラりん先輩がスルリと枕になってくれました)寝ることにしました。
なにが出来るか分からないけど、これからもがんばっていきますよ主様。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
評価やブックマーク、感想など頂けると嬉しいです。




