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閑話 ムースの日記(一部抜粋)

 〇月△日 (一部抜粋)


 今朝の献立はマスターの好きな甘い卵焼きです。

 ヤードやスーラといったダンジョンの仲間達は、「肉、肉がいい」と言ってきますが、以前朝食で厚切りステーキを出したとき、「さすがに朝からこれは腹がもたれるね」とマスターが言いましたので、それ以降朝食でいがもたれるような肉料理は出さなくなりました。

 仲間達はブーブーと不満を漏らしますが、知った事ではありません。

 全てはマスター優先です。

 それに「マスターは朝食ではどんなものが食べたいですか?」と尋ね、「う~、卵焼きかな。甘い卵焼きに醤油をかけて食べたいかな」と答えていただきました。

 醤油?というのは無知な私では知りませんでしたので、朝食に出せません。ですのでせめて甘い卵焼きだけでも作りたいと思いす。

 あぁ、マスターが今日も美味しそうに私が作った料理を食べて下さいます。

 食べ終わった後に笑顔で「ごちそうさま、美味しかったよ」とまで言っていただきました。

 醤油も準備できない私に、勿体無いお言葉です。

 明日もマスターに278回目の「美味しかった」ともらえるように、最高の甘い卵焼きを作りあげましょう。






 〇月◇日 (一部抜粋)


 以前マスターの部屋を掃除させていただこうと思い、部屋に入る許可を求めた時、「そ、掃除!?少し、ほんの少しでいいから待ってて、片付けるから、少し部屋が汚いから片付けるから」「いえマスターそこは気にしなくても構いません。むしろ汚れているならばそれを綺麗にしますので、マスターが自ら掃除する必要はありませんよ」「あるから。男には自分の汚れを自分で片付ける必要があるから、お願いだから少しだけ待ってくれ」、マスターがそう叫び土下座までされました。

 マスターに土下座などという行為をさせるなんて、メイドとして失格です。

 すぐさま頭を下げ、非礼を詫び、部屋の前でマスターが片付け終わるまで待っていました。

 それ以降、自分の部屋以外は許可なく入ってはいけないというルールが厳命されました。


 ……マスターの部屋には、一体何があるというのでしょう。


 気になります。

 愛するマスターの事は何でも知りたいのです。

 いつかマスターが私の事を心から信頼し、許可がなくても自由に部屋を出入りできるようになる、それが一つの目標です。



 それと、今日マスターが目の前で土下座されたとき、なぜか少しだけ背中の産毛が逆立つ、そんな快感が走りました。

 私には嗜虐趣味は無かったはずなのですが?

 今度マスターに、女王様という存在をどう思いますか?と聞いてみる必要があるかもしれません。






 ☓月◎日 (一部抜粋)


 ダンジョンの状況をつぶさにうかがっていたマスターですが、侵入者を始末した後、緊張が解けたのでしょう、そのまま座っていた椅子の背もたれにもたれかかるように寝てしまいました。

 このままでは風邪をひいてしまいます。

 そう思い上に大きめなタオルケットを羽織ってもらおうと近づいたとき、目に飛び込んできたのです。

 あどけないマスターの寝顔が!

 もう、なんて言えばいいのでしょう。真剣な顔でダンジョン内の戦いを見ている凛々しい顔も素敵ですが、この穏やかな子供の様な寝顔も素敵すぎます。

 あまりの素晴らしさに、タオルケットを羽織らせるのも忘れしばし光悦とした表情で、マスターの寝顔に見入ってしまいました。


 後から聞いたのですが、マスターの寝顔を見いっていた私の様子を目撃したスーラ曰く、至近距離でしかも無表情でじっとマスターの顔を見続けているその姿に、なぜか恐怖を覚えたそうです。

 …………そうですか、無表情でしたか。

 私としてはほっぺたがとろけるのではないかと心配するほど、デレデレに光悦していたのですが……。

 まだまだ感情が上手く表情に出ないようです。



 ちなみにその光景を見たスーラには、「さっき見た事は他言無用ですよ」と笑顔でいえば、激しく首を上下に動かしわかっていただけました。

 こういう時に浮かべる笑顔だけは、なぜか上手く作れるようになったのですよね。なぜでしょう?






 ☓月△日 (一部抜粋)


 スラりんと戯れる時のあの子共みたいにはしゃいだ笑顔。

 無邪気に子供ように笑顔を見せるその姿に、私は見ているだけで胸が高鳴ってしまいます。

 本音を言えば、その笑顔をもっと私に向けて欲しいのですが、贅沢は言いません。

 傍で見ているだけで私は十分に幸せになるのですから、マスターが幸せならば私も幸せ、それで十分なのです。


 ただし、あの小賢しい蛇娘(メーサ)に笑顔を見せるのは少し、えぇ、ほんの少し我慢が必要です。

 マスターがダンジョンの仲間に笑顔を見せるのは知っています。ですが蛇娘(メーサ)め、あどけない振りして、マスターに抱きついたりして、うらや…、いえはしたない。

 その上マスターに笑顔を向けられるとチラリと、マスターに気づかれないようにこちらを向くと、勝ち誇るかのようにドヤ顔を後ろに控える私にしてくるのです。


 殺すぞ、この毒舌蛇娘が。


 そろそろ我慢の限界のようですし、影でこっそり始末してマスターを悲しませないように、一度、拳を交えてじっくりと教育する必要がありそうです。(以下メーサに対する教育の仕方について、12ページにわたり書いてあるが、口を憚られる内容のため省略)






 〇月△日


 掃除、洗濯、料理はメイドの三大家事業務。

 ただ家事を終わらせるだけでは一流のメイドとは言えません。素早く、そして華麗に、美しくそれができてこそ一流のメイドなのです。

 ホムンクルス家の家訓にもこうあります。


 『華麗に仕事している、その後ろ姿に主様はグッとくる』


 一族の話では、一生懸命働いているその後ろ姿に胸打たれ、後ろから抱き締められそのまま結ばれた者もいるそうです。

 そんな話もあるせいか、ホムンクルス家のメイド達は家事に手を抜くというものはいません。

 私だって、そんなシュチエーション憧れてしまいます。

 最近気づいたのですが、マスターは私のうなじが気になるようで、背を見せたとき、私のうなじにマスターの視線を感じます。

 ……これはチャンスがあるのではないでしょうか?

 マスター、私はいつでも準備はできていますので、遠慮しなくていいですよ。






 △月☓日 (一部抜粋)


 マスターは、いつも私の作った料理を美味しそうに食べてくれます。

 最初料理をした時は、マスターのだけ特別に作り、他の仲間達には残P…、いえ手抜きの料理を出したら、「ご飯はみんな一緒のものを食べようと、じゃないと美味しくないよ」と言われてしまい、それからは献立はみんな一緒のものになっています。

 もちろんマスターの言葉には従いますが、マスターにはばれないようにこっそり隠し味として、私の愛情をたっぷりとマスターの料理に込めているのは秘密です。

 あぁ、マスターが私の作った料理を口に含み、美味しいと言っていただけます。それだけで私は天にも昇りそうな気持になってしまいます。

 今私の愛情込めた料理が、マスターの体の中に蓄積しているのです。

 そして私の愛が、血となり骨となりマスターの体を隅から隅へと行きわたる。

 いずれ、私の愛情がそれこそ骨の髄まで沁み渡った時、もう私の料理(アイ)以外口にできなくなるに違いありません。

 そのためにも、毎日美味しく食べていただけるように料理の腕を磨かなくては。






 ▽月◇日 (一部抜粋)


 マスターの衣類を洗濯しようとしたとき、ヤードが「定番な話しだが、まさかお前さん洗濯前にマスターの衣類の臭いと嗅いで無いよな?」とからかうように聞いてきました。

 まさかそんなストーカーまがいの事、一流のメイドであるこの私がするはず無いでしょう。


 「メイドとして仕事に誇りを持っているのに、そんな低俗な真似はしません!」


 とヤードにピッシッと言ってやりました。

 「そいつはすまなかったな」と悪びれた様子も無く軽く頭を下げ、ヤードは去って行きました。

 まったく、私がそんな低俗な真似をするはずないじゃないですか。

 洗濯物を持って洗い場につくと、マスターの衣類と私の衣類、そしてその他の二つに分けて生活魔法【洗浄(クリーン)】を開始します。

 生活魔法は主に家事のための魔法で、【洗浄(クリーン)】は水の球を作りだしその中に衣類入れると、渦を巻き洗濯物を綺麗にしてくれる魔法です。

 今私の衣類とマスターの衣類が一つの水球の中にあります。

 確かに私はマスターの衣類の臭いを嗅ぐといった低俗な真似はしません。

 私がしているのは、ただ一緒に洗濯をして私の衣類にマスターの臭いを染み込ませているだけです。

 本来の【洗浄(クリーン)】の生活魔法ならば、汚れだけでなく染みついた臭いも消えてしまうのですが、そこは主に仕えることを第一に考えるホムンクルス一族。

 しっかりと衣類の汚れを落とし綺麗にしつつ、匂いを一緒に洗っている衣類に染み込ませるなどお手のものです。

 初代が通常の【洗浄(クリーン)】魔法を改良し、開発したその効果に一族のものは歓声を上げて初代を讃えました。

 これで私の衣類には、マスターの匂いが……。

 そう思い、嬉しさのあまり周囲の警戒がおろそかになっていたのでしょう。


 「すみませんムースさん、洗濯もの出し忘れちゃって、これも一緒に洗ってもらっていいですか?」


 汚れた衣類を持ってきたゴンラが、私と洗濯中の衣類を見て固まります。


 「す、すいません。自分で洗います」


 慌ててその場を立ち去ろうとしますが、そうはいきません。

 背を向け慌ててその場を立ち去ろうとするゴンラの肩を、私は優しく掴みます。


 「ひっぃ」


 優しく肩を掴んだだけだというのに、ゴンラはまるでこの世の終わりの様な声を上げます。

 まったく、礼儀がなっていませんね。

 ここは一度、記憶を消すと同時に、礼儀作法もついでに叩きこんであげましょう。




 「ハイ、オラハナニモミテマセン。センタクモノハ、チャントジカンナイニダシマス」


 優しく諭してあげたらゴンラもずいぶん礼儀正しくなりました。

 目が少々死んだ魚みたいになっていますが、気にする必要も無いでしょう。

 諭している間に洗濯は終わったようです。

 あぁ、早く洗い終わった服を着たいです。

 マスターの匂いが染みついた服、それはまるでマスターに包まれているようです。

 なんて幸せなんでしょう。(以下マスターの匂いに関する記述が9ページにもわたり書いてあるので省略。)


最後までお読みいただきありがとうございます。

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