事故処理
ビルー=アサヒ=キーリン視点
「以上がダンジョンでの出来事です」
「そうか……」
ダンジョンから帰ってきたコウラの報告に、私はそう返事をする以外言葉が続かなかった。
私だけでは無い、現在この部屋には私やコウラ以外にも三人の人間がおり、その三人全員が私と同じように、迂闊に口を開けない状態になっていた。
魔道具造りの第一人者にして、領内の商業ギルドを束ねるスィデラス=ハンマード。
荒くれ者の冒険者達をまとめ、仕事を斡旋する冒険者ギルドのアサヒ支部長アヴェンチェア=ノリッジ。
私の息子で次期領主、現在は王国の第三近衛部隊に所属しているドライ=アサヒ=キーリン。
少々のことでは動じない三人がそんな状態になる、コウラの報告はそれほど衝撃的なものだったのだ。
その性格のせいで上役には煙たがられるが、領内で一番の実力を持つと言われるコウラを隊長にし、金目当ての隊員や協調性が無い者も多くいたが、その実なかなかの実力者がそろった部隊、そしてダンジョンに入る際には、魔道具造りの名家ハンマードの店からさまざまな魔道具を持っていった。
領内近郊に現れる魔獣程度ならば、問題なく倒せる人員に装備。
それでもダンジョンに挑むには足りなかった。
「私の力不足です。申し訳ありません」
言葉が続かない私に、コウラが深く頭を下げる。
下げた頭からは失った仲間への深い後悔の気持ちが表れ、部屋の空気が重くなる。
「頭を上げろコウラ。今回の件はお前一人の責任ではない。
お前達の部隊にダンジョンに潜るように指示を出した私だ。責任の一端は私にもある。
すまなかった」
周りからの声に押され、早急にダンジョンに挑むように命令を出した。
領内の他の事案との兼ね合いのため、満足な経費を払うことができなかった。
色々な手を打てたはずなのに、どこかダンジョン侵攻を楽観視しすぎていた。
その結果がこれだ。
二名の隊員が殉職。
書類で名前だけは知っていたが、それだけで顔も知らない。
だが自分の出した命令で死んだという事実が、胸に重くのしかかる。
「父上もコウラもそこまで落ち込まないで下さい」
私の謝罪でさらに重くなりそうだった部屋の空気を、何とか払拭しようと息子が口を開く。
「確かに二人にも非があり、亡くなられた二人には申し訳なく思います。
ですが結果的にこうしてコウラさんの部隊は、父の最初の命令を忠実に果たし宝を持って帰ってきたじゃないですか。
今回はそれで良しとしましょう。
任務を果たした。
そう思い胸を張らないと、亡くなった二人に申し訳ないし、浮かばれないですよ」
確かにその通りだ。
私が命令したのだ、『確実に生きて宝を持って帰ってこい。たとえ多くの犠牲が出たとしても』、そして彼等はその命令をちゃんと果たした。
だとしたら私がすべきは落ち込むのではなく、彼等のためにも次の事、持って帰ってきた宝をどう領内のために上手く利用するか考えることだ。
「そうじゃな。
おいクソジャリ、お前もいつまで辛気臭い面しておる。
お前さん達は仲間の仇を討つんじゃろう?ならそんな面しておらんで、まっすぐ前を見据えとかんか!」
同席していたハンマード殿もコウラにそう叱咤を飛ばす。
その叱咤に、コウラは下げていた頭を上げる。
「うるせいよクソジジイ。
いわれなくてもそれぐらいわかってるよ」
まだその顔には後悔の念が残っているが、それでもいつもの口調が出るのを見ればコウラも、次に進みだしたのだろう。
部屋の重い空気が払拭され、気持ちが前を向きだした所で、領主としてこれからについて話し合う。
「コウラ、再びダンジョンに挑むのにどれくらいかかりそうだ?」
「難しい所だな。
一番重傷だったウーロンの怪我が治るのに3カ月はかかるし、再びダンジョンに挑むとなると、今以上に強くなって無けりゃいけないからな。
その時間も合わせても最低半年は時間が必要になる」
「半年か」
彼らがダンジョンから帰ってきたとき街は一時騒然となった。
深い傷を負った者はすぐさま治療のため病院に運ばれた。そして比較的傷の浅いものは隊舎で治療をしていたのだが、疲れボロボロで顔色も悪いのにその目だけは戦意に燃えている。
ダンジョンで何があったのか聞こうと集まった街の人達は、そんな隊員の姿を見て近寄ることもできず、遠くから様子を窺うことしかできなかった。
「まぁ、あくまで最低レベルの話だがな。
本気であのダンジョンに挑もうと考えるなら、さらに一年は時間が欲しい」
いくら戦意が高くても、実力はそう簡単には上がらない。
新しい人員も欲しいし、装備もあと二段はあげたい。
そう考え最終的に自信を持ってあのダンジョンに挑めるのは、一年半後だと予想を立てる。
「それは……」
コウラの予想を聞き、納得はできたがさすがにそれだけの期間は無理がある。
ただでされドリンク隊には金がかかっている。一年半もの期間ダンジョンに入らずに部隊を維持するのは厳しいものがある。
何より間が悪すぎる。
「コウラ悪いけど、王国としてはそんなに時間をかけられないんだよ」
次期領主としてでは無く、王国の近衛騎士団の一員として息子が首を横に振る。
「なぜですか?」
「君がダンジョンに行っている間に状況が変わってね。
隣国、ノワール藩国の動きがどうもキナ臭くなってきたんだ」
ノワール藩国。
肥沃の大地を多く持つ王国とは違い、山々に囲まれ食物が育ちにくいノワール藩国は、常に周辺国家の土地を虎視眈々と隙を狙っている。
「王国が放っていた密偵が掴んだ情報だと、ノワール藩国にもダンジョンが複数出現して、そのうちの一つを攻略したそうだ」
「なんと!」
「そしてその攻略した者は、大神の言葉通り神より褒美として素晴らしい恩恵を授けられとのこと。
それがどんな恩恵だったのかわからないけど、攻略した者を組み入れたノワール藩国の軍が、国境に向けて軍を進軍させた」
「あやつらは、我が国と戦争を起こすつもりか!!」
「国の上層部はそう考えています」
「馬鹿者達が!!
今は人同士が争うよりも、魔族の侵略を阻止するためにダンジョンを攻略するときじゃろうが!!」
ハンマード殿の怒声に私も同意する。
だがそんなまっとうな考えなど、あの国の連中にとっては土地を奪うチャンスが来たとしかとらえないだろう。
「国は防衛のため第二近衛部隊を国境沿いに配置します」
「第二だけか?第三はどうした?」
第一近衛部隊は王を守るために王城から動けないにしても、第二近衛部隊だけで防衛で、残りの第三近衛部隊が動かないのはおかしい。
「第三近衛部隊は、王の勅命によりダンジョン攻略に動きます」
ノワール藩国を抑えるためには、その必要があるとして勅命が下されたのだ。
「実際ダンジョンを攻略できていないにしても、それまでの道中で新しいスキルや加護を得る者は多く、魔族と戦う事でスキルをより一層磨くことができるなどが確認できていますからね。
強くなるにはダンジョンに行くのが一番。
そう言い始める輩も出てきている始末ですから」
「確かにな、新人冒険者がダンジョンから帰ってくると、一皮むけた奴が多くいるからな」
冒険者ギルドでその変化を直に見たことがあるノリッジがそう言う。
「まぁダンジョンにいった奴の半分以上は帰ってこないんだ。
命懸けの場所にいれば、無理にでも強くなるわな」
強くなるにはそれだけの代償がいるというわけだ。
「ドライ殿事情はわかった」
息子から事情を聞いたコウラが時間をかけられないと理解する。
「だが、私達は強くなって再びあのダンジョンに挑まなければいけない」
「うん、それもわかってる。
それを踏まえて父に、アサヒ領領主ビルー=アサヒ=キーリンに提案があります」
息子が、父としてでは無く領主として私に提案を出す。
「なんだ」
「ドリンク隊全員を王国第三近衛部隊の下部組織として組み入れたいと思います」
なるほど、そうきたか。
「ドリンク隊の面々の戦闘力は高いですし、能力もあります。
何より一度ダンジョンに挑み戻ってきたという経験は大きいですので」
「確かにな。
だがドリンク隊は街の治安維持にもしていた。全員一度に引き抜かれたら治安維持に問題が出てしまう」
「わかっています。そこで下部組織にしておくのですよ。
アドバイザーとして数人だけ部隊に入ってもらう。それならなら何も問題ないでしょう」
それなら治安維持も問題ないだろう。
「それと下部組織に入りますので、隊費もこちらが全額…、とは言えませんので半分は出したいと思います」
それならこちらは何も問題ない。
あるとするならば、コウラの意志ぐらいだろう。
私はコウラに視線を向ける。
「それならば私も問題ありません」
コウラも同意した事で、私は領主としてドライの提案を受け入れる。
こうしてドリンク隊は新たに第三近衛部隊の下部組織となり、ウワバミダンジョン再戦のため力をつけていくのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回の話は少し納得できていないのであとで書きなおすと思います。




