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1日 歌ってないで

 …………………………見ちゃった。

 見ちゃった。

 爺ちゃんのお客。

 本殿から、黒いもやもやが出てきたんよ。んっと、もやもやって言うか……何というか……黒いでっかい布がばっさぁ出てきた感じでな。その周りが、もやっとぼやけてた。

 でっかい言うても、うち二人分とかいうレベルちゃうで? 本殿よりもでっかいねんで? どうやって入ってたん? あれか、伸び縮み可能なんか。妖怪ならあり得るな。

 ……あかんわ。やっぱ怖いわ。こんなこと言ってもまだ体動かんわ。空が白み始めたころから日が傾き始めた今になっても動けへん。うわー、頭は随分復活したんにな、あっはははは気絶でけへんとか辛すぎるわ。笑えへん。誰か助けて。

 ちょ、ホンマに嫌やねんけど。うち山ん中居たからさ。しかも木ぃの上居ったからさ。だぁれも見つけてくれへんし。幽霊になってから金縛りに会うってどういうこと。しかも暗いし。何か風すごくて木もめっちゃざわざわ言いよるし。あかんあかんあかん助けてー! これからまたどんどん暗なっていくんやで⁉ どんな拷問⁉ ほんでこれなんで体動かへんの⁉ 何でまだもやもやのでっかい幻覚見えるん⁉

「テルテル坊主ーテル坊主ー、あーした天気にしておくれー」

「明日雨だってさ。By天気予報」

「……そーれーでーもー曇ぉーって、泣ーいてーたーらー」

 ちょいちょいちょいちょいちょー待って! 向こうの方で歌歌い始めた奴! なんでそんな不気味な雰囲気の曲歌うわけ! もうちょっと明るいの無いんか!

「そーなぁたーのー首をーちょーんと切ーるーぞー」

 いぃいいいいやぁあああああ‼ もういや! 勘弁! 背筋凍りっぱなし! 助けてホンマにもぉー!

「君、日本の童謡好きだよねー。次から次へとよく出てくるもんだ。さっすがオタク」

「その曲を全部知ってるおめもどうかと思うがな」

 あ、オタクはスルーなんやな。

「あたしー? あたしは昔住んでたからねぇ。さすがにある程度知ってるよ。そうそう聞いてよ、六歳から十五歳まで義務教育ってあるの知ってるでしょ? あの教育の中に音楽が教科として入ってんだよこの国。すごくない? 今だからこそ思うよ、うん。あたしが知ってんのはほとんどこれで習ったんだから」

「音楽の授業……⁉ 日本の⁉」

「いやま、外国の曲も習うんだけどね。まぁ、大体日本の曲よ。滝廉太郎とか、山田耕作とか、中田喜直とか……」

「すっげぇえええええ‼」

 ……普通やん。何興奮してはんの。っていうか、女の人の声の言った人々誰。タキレンさんとかヤマダさんとか。知り合い?

「こら、手を動かす」

 ほんで、何の作業してはんの。

「シルさん、習った歌片っ端から歌ってくれ‼」

「え、どうせ知ってんじゃないの?」

「いやーでも、オイラが知ってんのなんか独学だし……正直ちょいと不安な歌詞もいろいろあったりして」

「ふーん。でもさ知ってる? 童謡って、作られた時と歌詞違ったりカットされたりしてるようなのあるんだってよ? だからあたしが知ってるのは正しいかどうかわかんないわけでーとか言ってみたけどまぁいいや。あたしの友達に童謡博士居たからネタはいっぱいあるんだ。どれがいいかな。あぁ、そういや今日から九月なんだってね。九月って長月だったよねー。まあ歌には関係ないんだけどさ。秋の歌いっぱいあるけど、どんなの知ってる?」

 よー喋るなシル。

 ほんで、うちには気付いてくれへんのな。

 ……まだ黒い幻覚見えてます。まだ体動きません。……気絶できるってすごい素晴らしいことなんだね、まる

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