22日 乾杯に理由はいらない
「ひくっ」
「お? しゃっくりか、マリーちゃん」
「なの。ひくっ」
辛そうやな……。しゃっくりを止めるんやったら、びっくりさせるんが有名よな!
「わっ!」
「……なんな、ひくっ、の?」
なんか、凄い可哀そうな人見る目で見られた。
「……びっくりしたら、しゃっくりって止まるんやで」
「マリーさん、びっくりしなかったの」
うん、分かってるー……。
「乾杯っ」
『乾杯ー!』
「うぉっ⁉」
何、めっちゃ『乾杯』が山に響いてるで。かんぱぁーい。ぁんぱーぃ、ぱーぃ、ぁーぃ。……ちょっと山に向かって『やっほー』って言いたくなった。
「兄様、びっくりしすぎなの」
「自分もしゃっくり止まったやん。びっくりしたんやん」
「違うの。息止めたら止まるって、ジュジュくんが言ってたの」
……ほんまか。ホンマやな? え、何、びっくりしたん、うちだけ?
「レイ兄様、今の、なんなの?」
「乾杯やろ?」
「かんぱい?」
「そうそう。何か特別なときとかに、手にコップもって、みんなで『かんぱーい』言いながらコップカツーンってやってー……」
「よくわからないの」
……説明下手ってか。
「だからマリーさん、かんぱいしたいの!」
ホンマにわからへんかったんか? めっちゃ目ぇ輝いてるくない?
「トシユキさんトシユキさん、かんぱいしたいの!」
あ、社務所の方行ってもた。待って待って。
「何かおめでたいことでもあったんですか?」
追い付いたら、アケヤマさんが『にっこり』と『なんで?』を足して二で割ったような表情して聞いてきた。器用な顔やな。
「いや、別に無いっすよ。なんか……」
「あるの! マリーさん、乾杯を知ったの!」
マリーちゃんが乾杯を知った記念に乾杯か。あ、えぇんちゃう? うちもついでに何かもらえるやん!
「レイちゃん、なんと言いかけました?」
「へ、あ、いや、何か、話してたら山ん方からかんぱーいって聞こえてきただけで」
って正直に言ったらアカンやん。言っちゃったやん。ちょ、マリーちゃん、あの、乾杯ダメになったわけちゃうから、まだ泣かんといて。そんな、涙溜まった瞳でうちのこと見んといて。
「そうですか……今、お茶かお水しかありませんが、それでもよろしいでしょうか」
「ありがとうなの!」
「ありがとうございまーっす!」
「エンドウさーん」
エンドウさん、何かしっかり馴染んどるな神社に。お手伝いさんでもやってんのか、このノリやと。
「はーい!」
あれ? エンドウさんの声、うちの後ろから聞こえたぞ。
「すみません、ちょっと、お夕飯の買い出しに」
「ちょー待って⁉ 今お昼間! 真昼間!」
「あ、こんにちは。そうですね」
「その時間に買い物行ってたん⁉」
「この時間、スーパーの店員さんが転寝してることがあるんです」
……あかんやろそれ。
「大丈夫ですよ、ちゃんとお金は置いてきましたから。以前コンビニでバイトしてましたので」
お、おぉ……そか。それならえぇんか。いや、よくないやろ。防犯カメラに凄いモン映ったやろ、絶対。
「あ、エンドウさん。お帰りなさい。ちょうどよかった」
「はい?」
「みんなでかんぱいするの!」
氷入り麦茶でな。めっちゃ涼し気やなぁ……。
「たくさん居た方賑やかですから」
「まあ! いいですね。何の乾杯ですか?」
「マリーさんが乾杯を知った乾杯なの!」
訳分からんけど、そんな戸惑った顔せんとスルーや、スルー。
「じゃあマリーちゃん、どうぞ」
「乾杯なのー!」
『かんぱーい!』
で、ホンマに何の乾杯なんやろ。




