7日 弱は強を見たら逃げましょう。
「っぎゃぁああああああ‼」
「うるさい鹿。何、どし……」
うちの目の前を、茶色くてでっかい牡鹿が猛スピードで横切って行った。めっちゃ風来た。ギリギリ踏まれんかったけど、踏まれたら痛いじゃすまなさそうやった。
で、その後からその鹿よりもスピードを出して小さい影が二つ過った。……えっと、赤いのと黒いの。赤いのは大体小中学生程度、黒いのは猫程度。やったんやと思う。後姿がそうだったから。キーヴァとチーニルやん。何、何で追いかけられてんの、あの鹿。
神社の裏の木のところで鹿が急に蹲った。え、何、こけたん⁉ あ、違う。どっかで見たで。忍法や! 狸退きや! 追いかけられてる時に蹲って、相手が自分につまずいてる隙に反対側に逃げる奴!
……いや、無理やったけどな。キーヴァは鹿の後ろギリギリで跳んで、木の枝掴んでその上に乗った。チーニルはぶつかったけど、ぶつかっただけで終わった。
詰んだな。
鹿、終わたな。
「レイちゃ、助けてよ!」
『あれっ?』
鹿が内に向かって叫ぶと、キーヴァとチーニルが目をぱちくりさせて固まった。
「おいキヴ……」
「コイツ、幽霊だった。残念」
キーヴァの手が鹿をすり抜けて地面触ってる。あれ? 幽霊とか妖怪とか同士やったらぶつかるのになぁ……なんでやろ。
「そうだよ僕幽霊だよ!」
「何、何なん。自分何したん?」
「何もしてないよ」
……ふーん。
「なんでそんな疑いの目向けるの⁉」
「いや、だって、自分演技得意なんちゃうん」
「いや、得意って程じゃ」
褒めてへんわ。なんで照れんねん。
「何で追いかけられてたんよ」
「だから知らないんだよ」
「何で追いかけたん?」
「肉とか皮とか角とか骨とか売ろうと思って」
……恐ろしいなおい。何サバイバルっぽいことしとんねん。買いよし。
「そろそろお腹も空いて来たし、ねぇチーニル?」
「それは知らん」
相変わらずドライやなチーニル。でも可愛いで! そんなところも可愛いで! っていうか猫やったら何でもウェルカムやけどさ、うち!
「……今日は蝉でいいや。今から探すのも面倒だし。チーニル、蝉って旨い?」
跳んで来た蝉鷲掴みにすんな! ほんでそのまま食うな!
「羽は取るのが無難らしい。後、人間だと生はちょいと臭いらしい」
「うん、イマイチ。外はいらない。中身だけでいいや」
殻取ろうとすんな! ほじるな!
「……レイちゃ、知り合い?」
今まで呆然としてたらしい、今更鹿が聞いてきた。
「……一応、ある意味、何でか」
「んー、やっぱり肉は骨のある奴らが一番。チーニル、あげる」
「美味いのに」
「三日前の猪、手元に残しとくべきだったなぁ」
いや、そんなん残してても腐るやろ。夏やぞ今。
「後の祭りさ。んぐ、んぐ。ぷはっ」
「鹿、大丈夫か?」
「うん。たぶん。……あのさぁレイちゃ」
「何や」
目ぇ逝ってるで自分。ホンマに大丈夫か。
「今思い出したけどさ」
「うん」
「三日前に僕が見たのこの子たちだ」
「……何のこっちゃ」
「ほら、川の湧いてるところ行ったでしょ。着いてから、僕レイちゃから離れたでしょ」
そやったっけ。話しかけようかどうしようか悩みまくってたから何も覚えてへん。
「その時、僕、獣食べてる獣見たんだ。っていうか、目が光ってたから獣だと思ったんだけど。アレ、この子だ」
え、嘘、キーヴァの目って光んの? 何それ見たい。猫みたいな感じ?
「レイちゃ、僕逃げていい?」
「おん。うちもちょっと怖なって来た」
主に、キーヴァがたった今捕まえた鳥の末路が。




