五月下旬 その隙から、町
オールセリフです。
「よぉ、ホウチ。元気してるかい?」
「ああ……私は。貴方も元気そうで何より」
「嘘吐け。儀礼とは言え、よく言うねぇ。無理して下手に出なくても良いんだぜ?」
「この状態を保てているのは貴方のお陰。無理はしておりませぬ」
「ほぉ。そりゃあ良かった。俺ぁどこ行っても嫌われ者なんでね。座らせてもらうぜ」
「彼は貴方の事を慕っている様子でございましたが」
「うん……? ああ、ジャイズンの事かい? 前に連れて来た?」
「いえ、その青年ではなく……チーニル殿でございます」
「あの猫か。あいつぁただただ俺の事が怖いだけよ。お前さんにも分かるだろう?」
「……ええ、失礼ながら」
「ああ、ああ、かまわねぇさ。俺ぁどこ行っても怖がられるのが常なんでね。むしろ、怖がられなくなっちゃぁお終いさ。…………さて、まあ、俺の話はひとまず横に置くとして。最近どうだい、この辺の様子は?」
「何も。怯えていた幽霊も、今ではもう安心して過ごせているようで、平和な物です」
「お前さんの願いは全て叶ったって訳かい」
「いいえ、私の願いは、これが全世界に広がることでございますゆえ」
「贅沢だねぇ。それもこれも、この状態で何が起こるか分からん限りはどうしようもねぇさ」
「幽霊も、妖怪も、伸び伸びと平和的に暮らしております。これ以上良いことがありましょうか?」
「生物はどうした?」
「今のところ、調和は取れております」
「ふぅん……これから先が気になるな。喜べホウチ、お前の楽園はまだ保ったままで居れそうだぜ」
「ありがたき幸せにございます」
「これから先は知ったこっちゃねぇが。おい、チーニル、居るかい?」
「ニッ」
「お前から見てこの町はどうだい」
「退屈です、とってもとっても。暇で暇で、寝てるしかねぇです」
「まるで本物の猫だな。ふむ。平和は性に合わねぇか」
「うっかり霊殺さないように気ぃ付けてんです。ストレス発散してぇですな」
「彼が一番不安なのですが」
「そうだな。監察員にお守り頼むわけにもいかねぇし……」
「我はガキじゃねぇです。堪える位はできます」
「暇なんだろう? 楽しく働け、楽しく。そうだな、1人、本物のガキを連れて来てやろう。そうすりゃお前も退屈しないで済むだろう?」
「ガキのお守りを我にしろと」
「ガキはガキでも怪物のガキさ。お前とは相性いいと思うがね。まあ、次来るときに連れて来てやるさ。それまでは大人しく眠ってな」
「……そのような恐ろしげな者を増やすと仰るか」
「不満かい? 大丈夫さ、ちゃんと聞き分けの出来る子だ。たしか」
「『たしか』⁉」
「俺も数度しか会ってないんでね。ほら、前回連れて来た男が居たろ。アレの息子だ。もう十になるはずだから、流石に聞き分けはできるだろうて」
「むぅ……」
「まあ、今度会ってみるだけ会ってみろ。親よりは大人しい」
「彼は鹿を喰らういらっしゃいましたが」
「奴等だって生きてるんだ。そりゃ自然の摂理さ。肉食だから、木の実や草じゃ駄目なんだ」
「はぁ……」
「さて、俺はそろそろお暇するとしようかね。チーニル、監察員の所へ行くが、お前も来るかい?」
「遠慮するです。では、また一月の後。そのガキ、楽しみにしてますぜ」
「じゃあな、アマノホウチ。また一月後」
「はっ」
「ああ、……奇妙な土地だねぇ――」




