19日 掃騒
「うわー、埃やっば」
「下の段とか、何コレ」
「ねーねー、ここって……やるよね、やっぱ」
「あ、ごめんちょっとこっち側来てー」
「あ、うん」
……やー、夏休みかぁ。
大人数の掃除見ると、学期末って感じするよな。って言っても、ここグラウンドのそばにある更衣室やけど。五人の女子のうち、三人が雑巾を持ってロッカーを拭き、一人が箒で掃き、残りの一人がモップで床を吹く。
モップって楽しいよな! こう、棒斜めに持つ感じで構えて、そんでそんで、思いっきり走るねん! このスピード感、わかる? 楽しいでぇ。あ、ただし、壁にぶつかったとき、棒がみぞおちに入らんように気ぃ付けてな。
「トーカちゃん」
「あーい?」
「この、ロッカーの一番下の段、あとで掃き出してくれない?」
「あーい」
ちなみに、箒担当はトーカ。今声をかけた子は知らん。ロッカーの中を拭いてる三人の内の一人で、なんかおっとりした感じの子。おっとりしてるから、とりあえずOちゃんってしとこ。
ほかにロッカーを吹いてるのは、スポーツ得意そうな大柄な子と(Oちゃんも大柄やけど)、トーカの友達の……えー、何やったっけ。笹の少女ハヅキちゃんや! ハヅキか。モップ担当してるのは緩くウェーブかかった髪の、これまた背の高い子。
……トーカとハヅキが小さく見えるわ。いや、実際小さいんか。
トーカは床が掃き終わって、部屋の中をぐるりと一周するような感じでおいてあるロッカーから埃を掻き出す。ロッカーに扉無いねんな、ここ。っていうか、アレやん。小学校の、教室の後ろに設置してある感じのロッカーやん。ランドセルピッタリやで、たぶん。ちょっと汚いけど。古いんやな……
「ねーねー、このロッカーさー、拭くの一番下の面だけでいいと思う?」
「え?」
「側面とか、奥とか、天板とか、拭かなくていいかなぁ」
「私ずっとそうしてるけど?」
「マジ? じゃあそうしよ!」
……スポーツ得意そうって言ったけど、意外と真面目な子やった。ロッカーの中全面拭くとか、うち絶対考えもせぇへん。
ハヅキに同じく。たぶん自分おんなじこと考えてたやろ?
「ペットボトルってどうしたらいい?」
モップの子が、どっからかスポーツ飲料のペットボトル持ってきた。ちぃ、空か。残ってへんのか。そらさすがに残らんやろうけども。
「ゴミ箱の隣に置いとこ。分けなきゃいけないし」
ふーん。ペットボトル特別扱いかぁ。あれか、リサイクルか。お前もフリースとかなんのか。頑張れよー。いや、頑張るのはリサイクル工場の人か。いや、機械か?
「あっ! ガム見つけた!」
ガムって。そんなん落ちてんの? ……小さっ。小指の先くらいやん。大目に見て人差し指の先くらい。
「ねーね、もらっていいかな?」
「やめなさい」
って、ハヅキに言われたくせにシャツのポケットん中入れるんやな、トーカ。
「終わったー!」
「こんなもん?」
「こんなもんでしょー」
「……あ。水道の所……」
一瞬沈黙してから、「まあいいじゃん!」と、スポーツ得意そうで意外と真面目な子が言った。別に真面目ちゃうかったわ、この子。
雑巾をそこでじゃーっと洗ってる間に、モップ&箒組はゴミ箱の中身を一つにまとめてる。なんでこの更衣室そんな広ないのにゴミ箱三つもあんねん。謎いわ。
「行こー」
トーカを先頭に、更衣室から上靴をはいてゾロゾロゾロ。あれ? 三人しか出て来ぉへんで。
「あれ? どしたの?」
「上靴が……」
「あー」
なんや。名前書くの忘れたか?
…………あ。
『鈴木』
『鈴木』
二人とも同じ名字やった。
しかも、もちろん上靴は同じ物で、汚れ具合も大差無い。サイズも同じで24.5㎝。しかも字体までめっちゃ似とる! 何やねんこの奇跡! いらん奇跡きた!
「履き心地は?」
それぞれ、目の前にあった上靴をはいてみて顔を見合わせた。
『……変わらない……』
マジか! アンタら実は双子ちゃうん! 顔は似てへんけど。
「こっちの上靴履いてみる?」
「うん、じゃあこっちの上靴履いてみて」
上靴を片方ずつ交換してみて、もう一回。
『あ、違う』
なんやねん! 正しい方はいてたんかい! そら履き心地変わらへんわな、そらそうやわな!
上靴騒動一件落着、チャイムが鳴って、掃除時間は無事終わりましたとさ。




