14日 オブラートに包んでみよう
「うふふ~」
「嬉しそやな、姉ちゃん」
「うん、嬉しいんだもの」
「ふーん? どしたん」
「もうすぐお盆休みだから」
……ふーん。……うん?
「お盆って、八月ちゃうかった?」
「そうよ? あと一か月!」
「なかなか長いぞ」
「一か月なんかすぐよ。月曜日に『あー、学校行かなきゃー』とか思いながら行って、金曜日に『休みだー!』ってなるまで、そんなに時間かからないでしょ?」
「いや、わからんわ」
「あら?」
…………沈黙。
「どっちにしても、たったの四週間じゃない!」
「長いやん」
「お盆早く来ないかなー」
スルーしたな、姉ちゃん。
「お盆何するん?」
「実家に帰ってー、友達と遊んでー」
普通か。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんにも会える……かも、しれないな。会えるよね」
「お兄ちゃん一緒に住んでるやん」
「もう一人居るの」
「へー。イケメン?」
「一緒に住んでる方のお兄ちゃんに比べたら、イケメンかな?」
「マジか」
うちの知ってるお兄ちゃんも中々イケメンやぞ。第一印象イケメンやぞ。
「ひでー」
「あ、おはようお兄ちゃん」
「はよ。……いや、早くねぇけどな」
ただいまの時間、AM7:50……ちょー待って、休日に起きる時間にしちゃ十分早ない? え、うちがおかしかったん⁉ 休日12時まで寝るとかダメですか⁉
「ホットケーキあるよ」
「ん。サンキューな」
「ねぇねぇお兄ちゃん、一か月ってすぐだよね?」
自分はまだ引きずってんのかい!
「すぐだな」
「うそん⁉」
「何、急にどした?」
「レイちゃんとね、一か月の速さについて話してたの」
「ああ……レイ、夏休みってさ、過ぎるの早くね?」
「めっちゃ早い! もっと長くしてほしいよな、夏休み」
「まあ俺らは二か月あるけど」
「大学生ずっこいわ!」
「それでも気持ち短いぜ。な、一ヶ月とかすぐだろ?」
うーん……そー、かも、いや、そうか……?
「で、何でまた一か月の話?」
「あと一ヶ月でお盆だから!」
「なる。帰ってくるかなー、兄ちゃんら。…………おい」
「何ー?」
「今、とんでもねぇこと思い出したんだけど、言っていいか?」
「どうぞ?」
「……俺ら今年、命日に帰るの忘れてた」
え。ちょー待って? 兄ちゃんら、死なはったん?
「あ‼」
「……やっべー。しっかりすっかり完璧忘れてた」
「お母さんたちも教えてくれたっていいのにー」
「あれだろ、『便りが無いのは無事な証……」
「それ立場逆よお兄ちゃん」
「ま、いっか」
「えぇのん⁉ っていうかちょー待って、兄ちゃん死んだん?」
「へ? だから盆に帰ってくるかなーって言ってたんじゃん」
「そういう意味⁉」
「まあ、去年も一昨年も帰って来なかったんだけどね」
「そっか……」
見えるのもえぇ事ばっかや無いんやな。死んだ人に会えたり話したりできるけど、居ないのもわかったら……ちょい、悲しなぁ。
「今年は帰ってきたらえぇな!」
「ああ。今度こそ兄ちゃんに百マス計算で勝ちてぇ」
「何なんその地味な勝負」
頭よさそうな悪そうな。てか百マス計算とか、懐かしっ。
「こないだお姉ちゃんが好きそうな本見つけたの」
「へぇ、どんなん?」
「人を驚かす714の方法」
「なんなんその微妙な数字」
っていうか、好きそうな本が『人を驚かす』って。お姉ちゃん何しとん。
「もう買ってあるのよ」
「何やってんだお前……」
「そしたら私がはまっちゃったのよね。早く読み切っておかなきゃ」
「…………俺の寝間着と布団に血糊つけたのはテメェか」
やったんかい‼ しかも怖っ⁉ 血糊とかどっから持ってきてん!
「そうそう、何にも反応してくれないから忘れてた」
「一瞬昨日の行動振り返ったわ馬鹿野郎」
「え、なんで? なんで昨日の行動振り返るん?」
「誰か殺したかと思って」
「うふふー、驚いたでしょ?」
「あの染み取れるのか?」
「食紅の赤と緑よ。洗えば落ちるわ」
「……どっから血糊の作り方とか学んできたんだ」
「その本に載ってたの」
「悪趣味だな」
「お姉ちゃん好きそうでしょ?」
ホンマにどんなお姉ちゃんやねん。
「好きそうだけど。しばらく何が起こるか注意しとかなきゃまずそうだな」
「あら、どうして?」
「また絶対なんかやるだろテメ」
「あらー、別に何もしないわよー。別にお兄ちゃんが今食べてるホットケーキにカエルの足なんか入れてないわよー?」
えぐっ‼ ちょ、やることキッツ‼
「…………………………嘘だな」
めっちゃ間ぁあったで今。何、ありえるって事?
「知らぬが仏よー、ね、レイちゃん」
「いや知らんけど」
とりあえず、アパートの前に死んだカエルが居ないことを願っとくわ。




