30日 平、和……だね?
「おや、レイちゃん、こんにちは」
「あ、こんにちはぁ。……えーっと……神主さん」
「アケヤマ トシユキ、ですよ」
「あはは……すんません」
「いえいえ」
優しいわぁこの人。顔も細長くてにこにこしてて優しそうな感じやもんな。中身が外見に現れてる例か。
レイですー。神社に瞑想しに来ました。嘘です。何かここ落ち着くんよね。あー、空も青いし。木漏れ日気持ちえぇし。平和やわぁ……。あ、鳥さえずってる。カァー、カァー、これさえずり違たな。ホケキョケキョケキョ、これさえずりでえぇんかいな。なかなか大きい鳴き声やけど。あれ、急に途絶え……あれ、なんや悲鳴みたいな声に……
……あら猫ちゃん。ウグイスくわえてどこ行くの。
あかん、全然平和ちゃうかったわ。弱肉強食の世界やわ。つか強いなアンタ。ばぐっ。あ、ちょー待って、グロいわ。グロいのあかんって、無理やって。こんなかわいい顔して。いや、結構獣の顔やったわぁ黒猫ちゃん。黒っていうのがまたな、ワルっぽいわ。ガチで魔女の使い魔やってたんちゃうん。
「おやおや、せっかく綺麗にしたところなのに」
あれ、神主さん慣れてはるくない? いや、ちょっと顔困った感じになってるけど。よくあることなんかなぁ……。
「ちゃんと森に返してあげるんですよ」
「フン」
鼻鳴らした⁉ 反抗期か‼ そっぽ向くのがそれっぽい! ……可愛ぇわぁ。そんなところも可愛ぇわぁ。てか、シルエット綺麗やなこの子。山ん中とか走り回ってるからか? いや、走り回ってるかどうかは知らんけど。
あ、どっか行っちゃった。屑とか何も残さんと行った。
「なぁなぁ、あの子って、アケヤマさんが飼ってはるんですか?」
「飼うだなんて、そんな恐れ多いことできませんよ」
「あれ? あの子猫ちゃうんですか?」
「ええ、妖怪か何かの類だと思います」
「へぇー。あんな可愛ぇのに」
「あの光景見た後に可愛いという単語が出てくるとは……」
「あの光景は忘れてん! 忘れんねん!」
嫌な記憶は末梢や!
「あはは。なるほど」
「あー、平和やわぁ」
カラス鳴いてるけどな。
拝殿裏の芋も順調に育っとるみたいやし。木がさわさわ言うとるし。
「そういや、爺ちゃ……神様とマリーちゃんはどっか行ってはるんですか?」
「マリーちゃんは山へヤマモモを取りに」
なんでちょっと桃太郎風味な語り口調? 山で桃取るって、爺さん婆さんの役割一人でこなしてもーとるやん。
「爺様は本殿にいらっしゃいますよ」
あ、アケヤマさんも爺ちゃんのコトそういう風に呼んではるんやな。神主がそれでえぇんやろか。
「本殿、閉まってんなぁ……いつも開けてはりません?」
「お客様がいらっしゃるとかで」
「ふぅん……あれ? 普通逆ちゃう? 外の景色とか見ながら話さん? 森やねんし、景色は綺麗やろ?」
「裏は開いていますよ。表は……まあ、拝殿の裏が見えてしまうと、お芋がね……」
「あー……」
それは確かに見苦しいわ。
いや、床にちゃぶ台がくっつけてある本殿って時点で詰んでるくない? せめて座卓とか。確かあのちゃぶ台の足、折りたたみ式やったで。もうたためへんけど。……思えば思うほど、何しとんねん爺ちゃん。
あ、さっきの黒猫ちゃん。戻ってきた。本殿の壁すり抜けて中へ……おぉ、ホンマに猫ちゃうかった。何なんやろ。猫のおばけってったらアレやんな、猫又。しっぽ二本あるやつ。でもあの子しっぽ一本やったしなぁ……
「そういえば、お芋が取れたら焼き芋をしたいと爺様が仰っていましたよ。レイちゃんもご一緒しませんか」
「マジすか! 喜んで! って言うかもう、小躍りして食いますよ!」
「落ち着いて食べてくださいね。火傷しますよ」
「はーい」
「もしマリーちゃんが真似して焚火に落ちたりしたら……」
言いながらゾッとしたらしいな。そんなら言わんときよ。箒落ちましたよー。
「お芋さんできるの楽しみやわぁ。アケヤマさんは焼き芋好きですか?」
「ええ、昔からよく食べていましたよ」
にっこり。
あ、結構簡単に気持ち切り替わるんやな。




