29日 同レべルなんですね
「リノー、元気してる?」
あ、元気してはりますね。ピアノの椅子に座って吹奏楽部さんの演奏を聞いてる。膝の上には下敷を挟んだ分厚い楽譜があって、手にはシャーペン。聞きながら楽譜に何か色々書込んで……もう完全に吹部の一員やな。
ってことは、練習終わるまで話しかけたらアカン感じ? と思った矢先に曲が終わった。タイミングバッチリか。うち凄いな。
「どうでしたか?」
尋ねられてから、最初にちょろちょろっと書き足した楽譜をピアノの上に。指揮をしてた先生がそれを順番に読んでいく。
「すごいなリノ。指導してんのん?」
「そんな大層な物じゃない。気になったところに、少し口出ししただけ……今日はどうしたの?」
そんな綺麗な背筋でこっち見ながら「今日はどうしたの?」とか言われたらお医者さん思い出すんやけど。あ、リノ似合うかも、お医者さん。
「いや、近くまで来たからな。この後ダイ爺の所にも行こうかなぁ思うてんねんけど、リノ、どう?」
「ダイ爺?」
「ほら、体育館の。バスケやってる幽霊。めっちゃ態度デカい」
「……ああ、あの馬鹿な」
「そうそう……って馬鹿呼ばわり!?」
つい認めてもうたやん! その通り過ぎて!
「昨日も屋根から落ちてたの。何回落ちたら気がすむのかしら」
「一回とちゃうんやな……。ここ、体育館見えるのん?」
「いいえ」
「あれ? ひょっとして、音楽室から出れるようなった?」
「吹奏楽部の人に憑りついたら、出られた。今は校内なら動けるわ……ほら」
リノが手を伸ばしたら、壁を通り抜けて隣の部屋に。おぉ、ホンマや。
「ほんじゃ、あれからダイ爺と会うたりしたん?」
「ええ。たまに見かけた」
「それ会うたって言わんやろ……」
『見かけた』て。校内の数少ない幽霊仲間やん。いや、うちも仲間見つけても中々会いに行ったり来られたりせんけども。
「そうね。でも、波長が合うとは思えないから」
「ふーん……」
いや、まあ、合いそうには無いしなぁ。
「……ぃ……」
「んぉ?」
「なに?」
「いや、何か、声……」
「……-ぃ」
何処やろ。吹部さんでは無いな。
何処か分からない時は上から見るべし、屋上に飛んでみた。
ほんま、流石やで高い場所。一発で分かったわ。体育館の上や。
「レェーイ! ふぅ。やっと気付いた」
「ダイ爺ー! 何ー⁉」
「いや、こっち来いよ!」
「しゃーないなぁ。リノも行こっ」
「え」
問答無用ー。手首掴んで飛び降りて、体育館の上に着地! でやぁ。
……いや、別に落ちひんねんけどな。普通にふわーっと移動するだけやねんけどな。
「よ。お、リノじゃん」
「こんにちは」
めっちゃ他人行儀……。あ、他人か。いや、他幽霊? どっちにしても温度差感じるわぁ……。
「どしたん?」
「いや、校舎に入って行くの見えたからさ。呼んでみた」
「出て来るとか思ってへんかった?」
「正直びっくりしてる」
どやー。びっくりしたやろー。
……ぜんっぜんびっくりしてる顔ちゃうやんけ!
「だから別に用はねぇ!」
「威張んなっ‼ 胸張るな!」
「じゃあ、私戻るわ」
「あー、待て待て待て待て。リノ、お前って普段何処居んの?」
「ダイ爺、何するつもりや」
「お前俺を何だと思ってんだ?」
馬鹿。
「あ、そんなら別に言っても大丈夫か」
忘れるやろ。
「本気で何だと思ってんだ⁉ 何考えた‼」
「馬鹿って考えた」
「うわー、お前も馬鹿そうじゃねぇかよ。あん? 中学のテストの最高点言ってみろ!」
「58!」
「っしゃぁ、俺勝ったー。俺は最高62だ‼」
「……どんぐりの背比べ」
おいリノ、ぽそっと何言うた?
「4点しか差ぁ無いやんけ!」
「バーカ、受験ではなぁ、その4点が合否を分けんだよっ!」
「うちらどこで受験とかすんねん! 知らんわっ! どうでもえぇわ! 今現在が一番大事や! 過去も未来も関係ないねん!」
「お。言ったな? おいリノ、何か問題出してくれ。早く正確に答えた方が勝ちな」
おー、やったろやないけ。ダイ爺には負けとないわ。
……リノってどんな問題出すんやろ。やっぱ音楽か?
「硫化水素の臭いは」
ぽつりと呟かれた。
……あれ、今の問題? リューカスイソの臭いは何でしょうって問題? え、どう言う事? 臭いって? って、リューカスイソってなんやったっけ?
隣でダイ爺もポカンとした顔してる! あかん、回答者どっちもなんのこっちゃわかってへん!
「……腐った卵のような臭いがする気体は?」
お……諦められた。
「あぁあああ何だっけそれぇ! 理科の実験でやったぞ! タカサキが怒られてたぞ! 何だっけぇっ!」
「誰やねんタカサキって!」
「中学ん時の友達! あぁあああ何だっけあれ! 先生が何か、嗅がせようとしてたような……」
「ちょっと待って、この気体、毒性よ」
「そうそれ! それで、誰かに止められてたんだよ! あぁああ、アレ誰だったっけぇ! 可愛かったんだけど!」
「問題考えろや! ズレとるぞ!」
のた打ち回るな! そんな悔しいんか‼
「はぁ……。硫化水素よ。一度言ったでしょう?」
なっ……ここでまさかのリューカスイソ再登場⁉
「今度実験があったら、二人も一緒に見ておいたら?」
そうします……。
勝負にならんな、これは。




