弟より、兄へ。
兄さん、いや、ここは口語で兄ちゃんと呼んどこう。やっぱ現実離れした話をするときは、兄ちゃんって呼んだ方がしっくりくるんだ。
最初がハロウィンの晩だったから、丸二日と半日ってところか。そんな時間で裁ききれるほど、幽霊は少なくなかったと思うんだが。きっと、本当に狩って送られたような奴も多いんだろうな。
ああ、この調子じゃ私怨によるただの陰口になるだろうから話を変えよう。昨日、俺は兄ちゃんを見たよ。神社の奥から出て来るところを、手水舎から。この手紙が届かないことを祈って書く。あん時の兄ちゃん、すっげぇアホな面してた。もし届いてたらこの部分黒く塗りつぶしといてくれ。読む前に。無理だな。だが敢えて書いたまま放置しておく。兄ちゃんも姉ちゃんも『なんとなく』という理由で納得してくれると信じてる。
俺らは四月にこの町のアパートに越してきたんだけどさ、幽霊の多さにびっくりした。それから、邪険に扱っても寄ってくる犬みたいな関西弁の幽霊が居たんだけど、そいつの呑気さ無知っぷり、加えて馬鹿なところにまた驚いた。でも何より、そいつの記憶のごちゃ混ぜっぷりが不自然だってのが印象的だったよ。アレは三歩も歩けば物を忘れる。そのくせ、突然何か月も前の事を詳しく思い出すこともあったんだ。会ったばかりのころは正常だったのに、この数か月の内に、そんな風に変わってった。
兄ちゃん、それから、姉ちゃんも。盆に帰ってくることはできないのか。
それとも、俺らの事忘れちまってんのか。
それか、単純に幽霊の規則に倣って姿を出さないようにしてるだけなのか。
とっくに冥界に逝っちまってるって選択肢はねぇよ。もう見ちまったからな。
別に、もうどれでもいい。とりあえずこの世界に居ることは分かった。俺らが言いたいのはな。
とっとと冥界逝け。
『とっとと冥界逝け‼』
大事なことだから二回言ったぞ。とっとと逝って帰ってこい。父さんは俺か光の子供として生まれ変わってくることを期待してるようだが正直俺は嫌だ。兄ちゃんが息子とか何か嫌だ。内心が複雑なことになる気がする。
結局それだよ。俺わざわざ手紙とかまどろっこしい方法取ってまで言いたいことはそれなんだよ。いいからとっとと人間の輪に還ってこい。想像してみろ。死んだ兄ちゃんを四年も経ってから見かけた俺の気持ち。俺いまあの時の兄ちゃんの年越えてんの。ギリギリ、一歳、越えてるわけ。同い年の兄ちゃんとか、違和感しか感じないわけ。それから、俺悪くないのに申し訳ない気分になる。生きてるだけで申し訳ない気分になるのとか、もう一時の病み期だけで十分だから。
文の構造とか何も考えないで書いてるが、まあ兄ちゃん姉ちゃんならわかるだろ。言いたいことは。
だが敢えてもう一度言う。とっとと冥界逝って早くこっち還ってこい。……そんだけ。




