第七章 新しいワンダーランドの創造 ― 二人の力
◆ 新しいワンダーランドの創造 ― 二人の力
初期化ロボットが静止した部屋は、
まるで時間そのものが止まったように静かだった。
白い壁。
白い床。
白い天井。
白い空気。
ワンダーランドは、ほとんど“死んで”いた。
リサはハリネズミを抱きしめたまま、
その場に膝をついた。
「……遅かった……
みんな……ごめん……」
白ウサギは震える声で言った。
「リサ……君のせいじゃないよ……
誰のせいでも……」
翔子はゆっくりと立ち上がり、
手に持った隠し端末を見つめた。
その画面には、
ワンダーランドの“真っ白な地図”が表示されている。
「……99%初期化済み……
復旧は……不可能……」
白ウサギは顔を覆った。
「そんな……そんなの……!」
リサは涙を拭い、
翔子の方を見た。
「翔子……どうにか……ならないの……?」
翔子はしばらく黙っていた。
だが、次の瞬間、
その瞳に強い光が宿った。
「……復旧が無理なら……
上書きすればいいんじゃない?」
リサは目を見開いた。
「……上書き……?」
翔子は端末を掲げた。
「この端末は、王様が物語を書き換えた時に使ったもの。
つまり、“世界を編集できる”ってこと。
初期化で消されたなら……
私たちが新しく書き直せばいい」
白ウサギは呆然とした。
「で、でも……そんなこと……」
翔子は微笑んだ。
「できるよ。
だって、私には「不思議の国のアリス」がどういう世界感で書かれていたかの知識がある。
そして――」
翔子はリサの手を取った。
「リサには、デジタルワンダーランドの“記憶”がある」
リサの胸が熱くなる。
「……私の……?」
「うん。
リサが見た景色、聞いた声、触れた温度……
全部、リサの中に残ってる。
私の知識とリサの記憶で、デジタルワンダーランドを上書きするの!
二人なら……できる」
リサは涙をこぼしながら頷いた。
「……うん……やろう……!」
白ウサギは震える声で言った。
「リサ……翔子……
君たちが……ワンダーランドを……?」
翔子は笑った。
「そう。
今度は、私たちが“物語の創造者”になる」
◆ 世界が“書き換わる”瞬間
翔子が端末に触れると、
白い世界に小さな光の粒が生まれた。
リサは目を閉じ、
胸の奥にある“ワンダーランドの記憶”を思い出す。
帽子屋の笑い声。
チェシャ猫の不思議な微笑み。
白ウサギの慌ただしい足音。
女王の豪快な声。
森の匂い。
花の色。
空の青さ。
そのすべてが、
光となって溢れ出した。
翔子はその光を端末で“形”にしていく。
「先ずは、私の知っているルイス・キャロルが書いた原書版、日本語訳版、フランス語版を入力…アリスが初めて飲んだ薬の瓶のラベルは…女王の庭のバラを赤く塗る刷毛の毛並みは…………
それから、森のデータ……再構築……
色彩パラメータ……リサの記憶に合わせて……
キャラクターの個性……リサの記憶から抽出……!」
白い世界に、色が戻り始めた。
緑の草が芽吹き、
木々が揺れ、
花が咲き、
風が吹き抜ける。
空が青く染まり、
雲が流れ、
光が差し込む。
白ウサギは涙を流した。
「……戻ってる……!
ワンダーランドが……戻ってる……!」
リサは胸に手を当てた。
「みんな……帰ってきて……!」
その声に応えるように、
光の中から影が現れた。
帽子屋。
チェシャ猫。
そして、他の住人たち。
帽子屋は目を開き、
リサを見て笑った。
「やぁ、リサ。
また会えたね」
チェシャ猫は木の上で尻尾を揺らした。
「ふふ……君は本当に、面白い子だね」
リサは涙をこぼしながら笑った。
「みんな……戻ったんだね……!」
住人たちは歓声を上げた。
「色が戻ってる!」
「森が息をしてる!」
「前より綺麗だ!」
「新しい仲間もいるぞ!」
新しいキャラクターたちも次々と姿を現す。
ネズミ。
鳥たち。
ドードー鳥。
トカゲのビル。
大きな子犬。
サカナとカエルの従僕。
公爵夫人。
料理人。
ネムリネズミ。
三月ウサギ。
手足の生えたトランプ兵。
代用ウミガメ。
グリフォン。
ハートのジャック。
その他諸々…
ワンダーランドは、
以前よりも“豊かで、鮮やかで、完璧な世界”へと生まれ変わっていた。
翔子は端末を閉じ、
深く息を吐いた。
「……できた……」
リサは翔子の手を握った。
「翔子……ありがとう……!」
翔子は微笑んだ。
「ううん。
これは二人で作った世界だよ」
白ウサギは二人に駆け寄り、
涙を流しながら抱きついた。
「リサ!翔子!
ありがとう……!
本当に……ありがとう……!」
その光景を見て、
ワンダーランドの住人たちは一斉に拍手を送った。
新しい物語が、
ここから始まる




