第四章 初期化の波 ― 消えてゆく個性たち
◆ 初期化の波 ― 消えてゆく個性たち
光が収まると、リサと翔子はワンダーランドの森に立っていた。
だが、前に来た時のような鮮やかさはなかった。
空気は薄く、色彩はどこか褪せていて、
森全体が“息を潜めている”ように見えた。
「……ここ、本当にワンダーランド?」
リサが呟く。
「うん。でも……何かがおかしい」
翔子は周囲を見渡し、眉をひそめた。
その時――
「リサ!」
白ウサギが木陰から飛び出してきた。
息は荒く、耳は震えている。
「よかった……本当に来てくれたんだ……!
えと…君は?」
「翔子よ、よろしくね!」
「翔子はあたしの親友!きっと皆の力になるわ!
それで、みんなは? 帽子屋は? チェシャ猫は?」
リサが詰め寄る。
白ウサギは唇を噛んだ。
「……初期化ロボットが来てるんだ。
捕まったら……個性も記憶も全部、消されちゃう……!」
その言葉を聞いた瞬間、
森の奥から“規則正しい足音”が響いてきた。
コツ……コツ……コツ……
翔子が振り返る。
「来た……!」
木々の間から、真っ白なロボットが姿を現した。
表情はない。
目もない。
ただ、白い人型の“空洞”が歩いてくる。
ロボットは近くの木に触れた。
その瞬間、木の表面が白く染まり、
葉は“決まったパターン”で揺れ始めた。
リサは息を呑む。
「……これが、初期化……」
白ウサギが叫んだ。
「逃げて! あいつら、僕たちを“消す”気なんだ!」
三人は森の奥へ駆け出した。
◆ 帽子屋とチェシャ猫の“最期”
森を抜けると、開けたティーパーティー会場に出た。
だが、そこもすでに白い霧に包まれていた。
「帽子屋! チェシャ猫!」
リサが叫ぶ。
帽子屋はテーブルの上に立ち、
チェシャ猫は木の枝に座っていた。
二人とも、ロボットに囲まれている。
「リサ! 来ちゃダメだ!」
帽子屋が叫ぶ。
チェシャ猫は笑っているが、その笑みはどこか震えていた。
「やぁ、リサ。来てくれたんだね。
でも……これは、ちょっとばかり“まずい”状況でね」
ロボットが一歩近づく。
帽子屋はリサに向かって叫んだ。
「リサ、逃げろ! 君まで消されたら……!」
リサは走り出そうとした。
だが、翔子が腕を掴む。
「リサ、ダメ! 今行ったらあなたも捕まる!」
「でも……!」
その瞬間、ロボットが帽子屋の肩に触れた。
白い光が弾ける。
「帽子屋!!」
帽子屋の体が白く染まり、
その瞳から光が消えていく。
「……リサ……笑って……」
それが、帽子屋の最後の言葉だった。
チェシャ猫もロボットに触れられ、
その身体が白く溶けていく。
「やれやれ……これじゃあ、消えるのも悪くないかもね……
だって、君が……来てくれたから……」
笑みを残したまま、チェシャ猫は“白い人形”になった。
リサは膝から崩れ落ちた。
「そんな……そんなの……!」
白ウサギが震える声で言った。
「リサ……翔子……今のうちに逃げよう……!」
翔子は涙をこらえながらリサの手を引いた。
「行こう、リサ。
二人を無駄にしないためにも……!」
リサは涙を拭い、立ち上がった。
「……うん……行こう……!」
◆ 初期化の波が迫る
森の奥へ走る三人の背後で、
初期化ロボットたちが静かに追いかけてくる。
足音は一定で、感情がない。
ただ、決められた“消去”という目的だけを持って。
リサは振り返り、震える声で言った。
「どうして……どうしてこんなことに……!」
白ウサギは涙をこぼしながら答えた。
「王様が……物語をいじっちゃったんだ……
そのせいで、システムが“ウイルスの攻撃”だと勘違いして……
全部を初期化しようとしてる……!」
翔子は唇を噛んだ。
「……だから、王様に会いに行こう。
どうやってプログラムをいじったのか、聞かないと」
白ウサギは頷いた。
「わかった……でも、急がないと……!」
三人は走り続ける。
だが、森の色はどんどん白くなっていく。
木々が白く、花が白く、
風の音さえも“決まったパターン”に変わっていく。
ワンダーランドは、
確実に“消されて”いた。




