クーデン・ルード
「クーシ...」
「やっと反応しやがったな?手間かけさせやがってよ」
金属のように冷たい指がカンタレラの頬に食い込む。声の主は長い耳に、人とは思えないほど白い肌、引きずる長さのロングヘア。その特徴はクーシャからもらった図鑑に載っていた「クーデン・ルード」に酷似していた。
「さあ、あんたの声をもっと聞かせな?
...っと?ひどい呪いだな...命の根本から蝕む、かなり上位の呪いだ」
「あ、あ...う」
片手でカンタレラを持ち上げ、ぐいっと黒い斑点に顔を近づけた。カンタレラはうまく声が出せない。それどころか指一歩を動かすのにも苦労するほど体が麻痺している。
「ああ、悪い。私の即席契約で話せないんだったな。今解除してやる。あ、それと私はクーデンだ。聞いたことがあるかもな、なんせ...」
「3日で1000人殺した大罪人だから?」
カンタレラの言葉を聞きクーデンは細く垂れた目を若干見開きニヤリと笑う。薄い唇から鋭い犬歯が顔を覗かせた。
「私に詳しいな?まあ確かに私は有名人、悪い意味でな。だが、誰かの悪は誰かの善だ。現に私はお前にとって善だ」
歯を見せニタニタ笑いながらクーデンは言った。カンタレラは不思議とその言葉は嘘ではないような気がした。数瞬の沈黙の後夜風にのって、鉄臭い匂いが漂う。
「感じるか?終焉の香りだ。お前は私がいなければ死んでいた。ここから数分のところに賊が群れていたのだよ」
「あなたが殺したの?」
「ああ、もちろん」
至極当然のこと、そうとでも言うようにクーデンは答える。細い目から覗くドス黒い瞳がカンタレラを穴が開くほど見つめた。
「私のことも殺そうとしてたくせに...用が済んだなら私はもう行くから。助けてくれたのは感謝してる」
「待て待て、行くってどこにだ?その体じゃもう一歩と動けないだろ?まだ若いんだしに急ぐ必要はない」
どこまでが嘘で本当なのかカンタレラにはわからなかったが敵意はなさそうに思えた。そしてカンタレラは気づく。さっきよりも明らかに体が重い。立っているのもやっとなほどだ。
「今から行く場所は十中八九、解呪だろ?それなら私に任せろ。お前の呪い正直興味があるんだ。その辺の呪術師では到底扱えないレベルの呪術だからな」
「私は...悪人の助けなんて...ゲホッ」
まあまあと宥めるようにクーデンは逃げるカンタレラの額に手を置いた。クーデンの手は死体のように冷たい。
「単なる好奇心だ。施しじゃあない。勝手にやってるだけ、それに...」
クーデンはそういうとカンタレラをギュッと抱きしめた。冷たい肌がカンタレラに触れ体の緊張がほぐれた。
(ひんやりしてる...)
「これでお前は逃げられない。私に"やられてるんだ"」
重かった体は徐々に軽くなる。額に当てていた手がぼんやりと光り、じわじわ黒い斑点を薄く消していった。斑点は吸い込まれるように消えて、まだカンタレラの白い肌が見えるようになる。月の明かりが肌を照らす。静まり返った夜の道は神秘的な雰囲気を醸し出している。
「終わったぞ。かなり精度の良い呪術だった。まあ私にかかれば解呪など造作もないけどな」
「アッ...あのッ」
「なんだ?お礼はいいぞ。これは好奇心であって...」
「息が!吸えッ!ないッ!」
カンタレラの視界は触り心地の良い肌色で覆い尽くされている。カンタレラはクーデンの胸に押しつぶされてまともに呼吸ができていなかったのだ。
「おっと失敬失敬。君があまりにも小さいものだからねえ」
少し浮いていた足が地面につく。クーデンはニヤリと笑って魔法を唱え小さな手鏡を作り出した。
「ほら見てみろ。顔の痣も綺麗さっぱり無くなったぞ。私もいい経験ができた。ちゃんとお家に帰れるかい?」
「帰れるよ!じゃ...あ、えっと」
「なんだ?私と離れるのが寂しいのか?」
もじもじしているカンタレラの目線に合わせるようにクーデンは屈んだ。さっきまで真っ暗だったはずの空がほんのり赤みを帯びてきた。気付けばもう朝日が昇る時刻なっていたのだ。
「えっと、最初酷いこと言ってごめんなさい」
「ほえ?」
唐突なカンタレラの発言にクーデンは間抜けた声を出した。クーデンは数秒硬直した後に口元を手で覆った。
「お嬢ちゃん、やっぱり一緒にお家まで帰ろう!ここら辺は危ないからね!うんそうしよう!」
そう言うとクーデンはカンタレラの手を握ってニンマリと笑った。カンタレラはどこか恐怖を感じたが命の恩人をぞんざいに扱うわけにはいかないと渋々クーデンの手を受け入れる。
「よーし行くぞ!...っと?まずいしゃがめ!」




