クーシャ
クーデンに頭を抑えられカンタレラは地面に伏せた。その瞬間風を切り紫色の光を放つ何かがすぐ後ろの木に突き刺さる。
「これは...?」
短剣だ。銀のエングレーブが美しく光を反射する両刃のダガー。それは、人を殺すためではなく守るために作られていた。
「お嬢様から離れろ...!薄汚い売女が!」
「誰が売女だ。お前こそ拾ってもらうまでは豚貴族にご奉仕...」
クーデンの言葉を掻き消すように木に突き刺さっていた短剣がクーデンに飛んでいった。カンタレラは頭を抑えられたままで周囲の状況が理解できない。
「今の今まで気づかなかったよ。だがお前を見て思い出した。この子についてもな」
クーデンの声がカンタレラの耳に深く響く。紫色に光る短剣は魔力をバチバチと激らせながら宙を舞う。
「昔っから変わらないなお前は。視野が狭くて短気で、身の程知らず」
「黙れ...!」
短剣は凄まじいスピードで乱撃を繰り返す。全てが致命的な一撃。一度のミスが命を奪いかねない状況でクーデンは平気な顔で話を続けた。
「亜人であるお前をこの子は受け入れてくれた。そんな大切な人をすら守れないお前に何ができるんだろうな」
「...もういい」
「いいや良くない」
短剣の持ち主の声が少しずつ近づいてくる。朝靄に包まれた世界がだんだんとはっきりしてきた。オレンジ色の光が差し3人の影を作った。
「お前はこの子に相応しくない。私ならこの子を幸せにできる。呪いだってこの通りさ」
カンタレラはただ話を聞き続けるしかなかった。短剣の持ち主にももうとっくに気づいているのに声を出せなかった。
「会えてよかったよ、クーシャ。お前の仕事はもう終わった。大人しく休め」
短剣の持ち主、クーシャは何も言わない。地面に一粒滴が落ちる。じんわりと地に吸い込まれてその雫は一つのシミになった。
「嫌だ...私からお嬢様を取らないでくれ。頼むよ」
鼻を啜る音が聞こえる。落ちた雫は涙だったと遅れてカンタレラは気づいた。
「口を慎め、汚れた呪術師め」




