Invasion①
メガロストライカーで狭い路地を抜け、《マストタイプ》達を躱しながら反応がある場所まで走る。降り掛かる銃弾はアルゲンタヴィスフォンが身を挺して弾き飛ばす。紅葉は脇目も振らず向かう。
だがここで、《マストタイプ》の銃撃とは格の違う攻撃が襲い掛かる。
「っ!」
道路を焼きながら迫る熱線。住宅を焼き砕く無数のエネルギー弾。アルゲンタヴィスフォンで弾くことは危険と判断し、紅葉はメガロストライカーから飛び降りた。
着地と同時に降り注ぐ弾幕は、スライドしながら停車したメガロストライカーが防ぐ。立ち昇る白と黒の煙の向こう側に、空から影が降り立った。
「随分な歓迎ね。まるで近づかせたくないものがあるみたい」
「つまらん演技はやめろ。貴様らの正体は既に知っている」
朝顔はプラグローダーへ翼の一部を格納。紅葉の元へ迫っていく。
「ノアカンパニー。貴様らが元凶の事件のことは我も覚えているぞ。多くの人間を苦しめた罪は重い」
「そう。だからこの街の妙な結界を壊さなくちゃいけない。ここに囚われた人達を助けないとね」
「囚われた……囚われただと? ふふはははは!!面白い冗談が言えるじゃないか!」
朝顔が指差した先には、異様な笑みを浮かべながら日常の一瞬で時を止められた、人形の様な金識町の住民達がいる。
「彼等はこの理想の世界で永遠に生き続ける。苦痛も孤独も無い、楽園の中でな。囚われているのではなく、選ばれたのだよ。そしてそれはすぐに世界中に広がる。貴様ら以外は晴れて楽園の住人だ」
「私達は楽園を追放された罪人ってわけ。そんな資格があるなんて更々思ってなかったけど……」
紅葉の周りを飛翔していたアルゲンタヴィスフォンが手のひらに着地。朝顔を威嚇する様に警告音を発する。
「あなた達が選別する側にいるつもりなのは……少し烏滸がましいんじゃなくて?」
「……はっ! お喋りはここまでだ!」
《Purification Complete!》
《Shoot Air Raider MK.Ⅱ Plug in 》
紅葉はリワインドローダーを、朝顔はプラグローダーを起動。交錯した視線の間に嵐が逆巻く。
「「変身」」
《High! Wing! Flight! Memory Revive!! Wake up Sky!!》
《英雄 雄大な翼で世界を統べよ Flying the Hero》
紅い旋風が《ネメシア》を、深緑の竜巻が《クレマチス》を包み、弾け飛ぶ。
そんな2人を見守る様に、モノリスは翠の光を淡く発し続けていた。
「彼岸さん!! ねぇ彼岸さん!!」
大量の弾丸が空を飛ぶ中、身を屈めながらトリケライナーを駆る山神は叫んでいた。
「なんでこんな目立つ道を案内してるんですか!? 普通は見つかりづらい路地裏とかじゃないんですか!?」
『トリケライナーでは小回りが効かない。加えてブレイクソードを積載してる分で更に劣悪になっている。これでも敵が少ないルートを進んでいるんだが』
「クソぉそこまで言われたら何も反論思いつかねぇ!」
話す間にも《マストタイプ》達からの攻撃は止まない。トリケライナーの装甲にも傷が目立ち始めている。
「桜はまだ大丈夫か……? 位置情報の点だけじゃ何してるか分からねぇんだけど」
『存命なのは確かだ。だが、動きが不自然に思う』
「不自然だぁ?」
『多数の敵を相手している動き方ではない。これだけの数の《マストタイプ》が街にいるというのに、まるで誰か1人と戦っている様な』
「……確か、桜と一緒にいた奴等がいたよな。今は一緒じゃねえってことか」
『黒幕について何か分かったのかもしれない。だから別行動を……っ、山神真理!』
その時、火花を吐き出す音に気づいた彼岸が警告する。咄嗟にハンドルを切った刹那、山神の視界の端にあるものが映った。
「ロケランって……!?」
爆風に煽られる。大きく揺れるトリケライナーを倒れる直前で立て直し、何度か回転しながらも停車してみせた。
「トリケライナー壊れちまう……彼岸、大丈夫か?」
『問題ない。だが今の攻撃は……』
「やるじゃな〜い! 百発百中って言われてたあたしのロケランを躱すなんて〜!」
空を震わせる様な声と共に、山神へ姿を曝け出す襲撃者。肩に発射筒を担いだネルソンは、まるで旧友に会った様に手を振りながら近づいて来る。
「キャラが濃い野郎だな……」
「あら、野郎だなんて失礼しちゃうわね。あたしは乙女であり紳士でもあるのよ」
「そんな奴が挨拶も無しにロケランぶちかますかぁ?」
「挨拶みたいなものなの! ……で、あなた達のことはあたしの指揮官から聞いてるわ。ノアカンパニーからのお客さんでしょう?」
発射筒を投げ捨てると、ネルソンは袖を捲ってプラグローダーを露わにする。アクセサリーを見せつけるかの様な動きだったが、それは戦線布告を意味するもの。
「個人的な怨みはないけど、この楽園を潰そうっていうなら容赦はしない」
「そりゃこっちの台詞だよ。うちの会社襲って、俺の友達閉じ込めて、好き勝手やったからには容赦しねぇぞコラ」
対する山神もまた、パキケファロソナーを肩に乗せて返す。甲高い警告音を放つパキケファロソナーも臨戦態勢である。
「彼岸、トリケライナー貸してやるから先に行っててくれ。こいつは俺が引き受ける」
『あぁ。だが……桜の所ではなく、もう一人の方へ行こうと考えている』
「あ? なんで……って、お前が何も考えてない訳ねぇな。桜なら大丈夫だろ、俺が保証する」
『俺も同意見だ。……頼んだぞ、山神真理』
彼岸はトリケライナーを走らせ、その場を去って行く。小さく笑うと、肩に乗せたパキケファロソナーを手に取った。
「聞かないと思うけど忠告だけしておくわ。武装解除して降伏すれば命は保証する。少しの間だけ眠って貰うことになるけど」
「忠告ありがとうよ。じゃ、てめぇにおねんねして貰うことに決めた」
「言うじゃないの。そういうタイプの方が好きよ。でもね……」
ネルソンはプラグローダーを起動。山神もまた、リワインドローダーを起動する。
《Crash Warrior MK.Ⅱ Plug in 》
《Purification Complete!》
「素人相手に負けるほど、あたしは甘くないわ」
「好きに吠えてろ、こっちだってプロだからな」
「「変身!!」」
《Quake! Fist! Rush! Memory Revive!! Wake up Ground!!》
《英雄 無双の力で全てを粉砕せよ Breaking the Hero》
《ホウセンカ》と《タンジー》。体格に大きな差はあれど、両拳を軽く叩く姿と気迫に全く優劣は表れていない。
「お先にどうぞ、坊や」
「いい度胸してんじゃねぇか。ならお望み通り!!」
《タンジー》からの挑発に、《ホウセンカ》は声を張り上げながら突っ込んで行った。
電波塔の扉を蹴り破り、ユナカと晶は中に転がり込む。ユナカがすぐに付近のもので扉を塞ぐ中、晶は普段訪れない電波塔の内装を見渡す。
受付といくつかのモニター、そして奥には最上階へ繋がるエレベーター。金識町で一番高い建物だというが、有名な観光スポットにならない理由がなんとなく分かった様な気がした。
「ここに……」
「きっとソロモンは電波塔の最上階にいる筈。晶くん、辛いと思うけどもう少しだけ……」
その時だった。停止していたモニターにノイズが走る。そして、
『ここまで来ることは想定済みだった』
機械音声が混じった様な男性の声。ユナカと晶が目を向けると、そこには若者の姿が映し出されていた。
漆黒の長髪に走る白いメッシュライン。瑞々しい肌とは裏腹に酷く虚な瞼。その隙間で光る碧の瞳と、欠けた紋章。
「お前がソロモンか」
ユナカは晶を背に庇いながらモニターへ歩み寄る。
『そうか、私の名を覚えている者がいたか。そうだ、私がソロモン。君が現代の炎の錬生術師だな』
若者 ── ソロモンは何故か遠くを見る様な目をしたが、すぐに視線をユナカ達へ戻した。
『初代の男と何処か雰囲気が似ている。今でも覚えているよ、私の絵空事の様な研究を、彼は……』
「そんな話をしに来たんじゃない」
ユナカはソロモンの話を無理やり打ち切り、更に詰め寄る。
「今すぐ街の結界を解け。拒むならお前を探し出して装置を破壊する」
『やめた方がいい。君が仲間を真に想うなら』
ソロモンのモニターから、更に投影画像が映し出される。それは4人が囚われているモノリスの様な装置。
『この中に君の師匠と仲間がいる。無理やり装置を破壊すれば、サーバー諸共4人の魂と身体は消滅してしまう』
「何……!?」
「そんな……!」
動揺するユナカと晶。それを見たソロモンの表情は何処か物憂げだった。
『私としても楽園が完成しないのは本意でない。炎の紋章が分かれていたのは想定外だったが、君の師匠のおかげでこうして話す時間も出来たのだ。どうかこのまま、楽園の完成を見守って欲しい』
「どういう意味だ……」
『本来ならば4つ紋章が揃った時点で私が起動し、楽園はすぐに完成、世界中に広がる筈だった。だが炎の紋章が分割されていた所為で、私は起動出来たがシステムは不完全なまま。おかげで今も補完に追われているよ』
ソロモンの熱が無い声色とは裏腹に、声の起伏は恨み節ではなく、賞賛の色が含まれていた。
『君の師匠は私を炙り出すためにわざと取り込まれたのだ。何処まで把握出来ていたのかは定かではないが』
「っ……」
晶は息を呑む。だからザクロはあの時ユナカを制止し、黒幕を探せと言ったのだ。
「冗談じゃない。このまま黙って世界が止まるのを見てろって言うのか」
『君も少しの間、楽園を体験した筈だ』
ユナカの口と足が止まる。夢の中で見た光景がフラッシュバックする。
「あれが……楽園……?」
『苦痛も、争いも、悲哀もない、その個人にとって最適化された世界。今、この街の人々はそれぞれの楽園で生きている』
拳が強く握りしめられる。爪が肉に食い込むほどに、震えるほどに。
「俺は…………ザクロがいない世界なんか望んでいない」
『望む望まないの話ではない。演算結果を元に最適な世界を構築している。その人が幸せに生きる為の』
「俺にとっての楽園は!!!」
脳裏に浮かぶのはこれまで生きてきた道筋。喜劇よりも、きっと悲劇の方が多かった。悲劇のない最適化された世界は、きっと心地良いものなのかもしれない。
「誰も欠けずに、今を生きられる世界だ……!」
だがそれは、今までに紡いだ全てを投げ捨ててでも手に入れたいものではない。
その言葉を聞いた晶もまた、大きく頷いた。
「ユナカさんは大切なものを取り戻す為に、何かを犠牲にすることも、何かを奪うことも選ばなかった! 人の心を救って取り戻すことを選んだ!!」
モニターの向こうへ叫ぶ。
「だからお前が言う楽園なんて受け入れない……僕も、全部持って今を生きていたいから……!」
『……』
それを聞いていたソロモンの顔は、いつの間にか俯いていた。やがて、垂れた髪の隙間から答えが返ってくる。
『残念だ。君達なら私の研究を理解してくれると思ったのだが』
扉が破られる。その先から流れ込んでくるのは無数の《マストタイプ》達。すぐにユナカはフラグメントゲートを出現させた。
「変……っ!?」
その言葉の先を遮ったのは、《マストタイプ》を蹴散らして内部へ侵入してきた1台のバイクだった。フロント部に長剣が備わった奇妙な外観。しかしそこから聞こえる声はユナカと晶が知るもの。
『やはりここにいたか、輝蹟ユナカ! 天河晶!』
「え、彼岸さん!?」
「どうやってここまで……」
『《マストタイプ》の流れを追ってきた。手短に要件を言うぞ。俺を最上階まで連れて行ってくれ』
突然の再会、そして突然の要求。一刻を争う中で、
「ぼ、僕が! 僕が連れて行きます!」
「晶くん……」
『頼む。輝蹟ユナカ、足止めを頼めるか?』
「……分かった。晶くん、気をつけて!」
「はい! って重っ!?」
勇みよくトリケライナーからブレイクソードを取り外すが、あまりの重さによろめいてしまう。
『引き摺っても構わない、行け!』
「はぃぃ……!!」
鋒で床を抉りながら晶は走る。エレベーターが起動していないことに少し絶望しかけたが、すぐに階段へ進路を変えた。
「ここは絶対に通さない」
《リーパー・フラグメント》
《イグニスサラマンダー・フラグメント》
《リアクション!!》
晶達を追撃しようとする《マストタイプ》の行手を炎が塞ぐ。ユナカの眼の紋章が、豪炎のように揺らめいた。
「変身!!」
《ゲート カイホウ!!》
《炎舞・バースト!! イグニス・リーパー!!》
《リーパー・サラマンダーの法則!!》
石門から溢れ出した炎が《マストタイプ》を押し返す。正しく地獄の門番と化した《リーパー》はヴィトロサイズを構える。
「来い」




