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Crossing+Rush

 鈍い痛みで意識が覚醒する。ぼやけた視界がはっきりとしていく前にユナカは飛び起きた。

「ここは……!?」

「どこ、なんだろ? 逃げながら隠れてたからよく分かんない」

 錆だらけの壁と骨組みが視界に現れ、同時に桜の声がユナカの耳に届く。

 今は使われていない倉庫の様だった。桜の側では座ったままうたた寝をする晶の姿がある。

「……あれから、どれくらい」

「時間止まってるから正確には……ただ結構経ったと思う」

 ユナカは自らのフラグメントゲートへ目をやる。意識を失って眠っていたおかげか、もう一度変身出来るくらいまで心身が回復していたようだ。ならば、やることは決まっている。

「もう行くのか? まだ休んでいた方が」

「そんな暇はない」

 立ち上がるユナカを見た桜が諌める。だがユナカは構わず外へ出ようとする。

「それは……まぁ、確かにそうかも。でもそれでユナカが倒れたりしたら」

「俺が呑気に休んでたら駄目なんだ!」

 思わず声を上げてしまう。


 脳裏に浮かぶ記憶。ほたるが消えたあの日の光景に、囚われたザクロと、未だ安否が分からない仲間達の面影が重なる。


「手遅れになったら俺は……俺は、また……!!」

「……焦る気持ちは分かるよ。でもこれからどうするかだけでも」

「君に俺の何が分かるんだ!?」

 桜の肩へ掴み掛かる。理不尽なのはユナカ自身が一番理解していた。妹を失った過去は伝えていない上、桜の判断は誰が聞いても正しいものだから。

「俺は……君が言っていたようなヒーローなんかじゃない……君みたいに何もかも救えないんだ、だから!!」

「分かる」

 だがそんなユナカの手を、桜は掴み返した。


「偉そうに色々言ってたけど……救えなかったものも沢山あったから」


 その眼は真っ直ぐだった。同時に、胸を抉る様な哀しみの光を宿していた。燃えかけていたユナカの心を鎮めていく。

「…………ごめん。何も分かってないのは、俺も同じなのに」

「いや。ユナカの言う通り時間が無いかもしれないのは本当だから」

 掴んだ手を優しく解いた桜は小さく頷く。晶を起こさない様に背負い、ユナカと共に廃倉庫の外へ出た。

「端末が壊れたのは彼岸にも伝わってる筈。なら俺の仲間がもうすぐここに来てくれる。その間に俺達がやらなきゃならないのは……」

「ザクロが言っていた、ソロモンを探し出す事」

 ユナカはザクロからある程度錬生術師の歴史を叩き込まれてきたが、そんな名前の錬生術師には覚えがない。こんな事象を起こせる程の人物ならばザクロが教えない筈がないだろう。

「町の中心……は、ちょっと安直か……ん?」

 桜が何気なく向いた先。そこにあったあるものへ目が奪われる。


「ユナカの町の電波塔ってめっちゃ個性的な形なんだね」

「? いや別にそんなことは……」

 こんな時に何を言っているのかと、ユナカも桜と同じ方向へ目をやった。


 金識町の中心に立つ電波塔。それは町の中で一番高い建造物である。だが町へ電波を発信する塔の最上部のアンテナが、不自然な形に変形していたのだ。

 目を凝らすと、消えかけているものの風のフラグメントエネルギーの残滓が見える。


「あれはもしかして翡翠ちゃんが……」

「ちょっと分かりづらいけど、あそこから結界の色が変わってきてる様に見えない?」

 桜の言葉通り、結界は電波塔を中心にノイズがかかった様な不気味な色へ変わっていく。

「絶対あそこに何かある筈だ。電波塔の方に……っ!」


 だが行手を塞ぐ影が現れる。今までに見た事が無いような憎悪の表情を浮かべながら。

「無駄だ。システムはもう起動した。お前達の負けだ」


「ユナカ、彼奴は俺が引き受ける。先に電波塔に行ってくれ」

「……分かった。晶くん」

「ぇ……ぁ、は、はい、すみません、寝ちゃってた……」

 ユナカと晶が去っていく。本来ならば追うべきである筈の影春が身動き一つ取らないことに、桜は違和感を覚える。

「俺が言うことじゃないんだけどさ、追わなくてもいいのか?」

「無駄だと言った。メインサーバーには絶対辿り着けない」

「どうかな? もうじき俺の仲間もここに来る。すぐに町の結界を解いて……」

 桜の言葉は、影春がプラグローダーを起動する音に阻まれる。その瞳は真っ直ぐ、憎しみの光を込めて桜に向けられている。


「お前の仲間もすぐに消す。俺の仲間がな」


 桜も応えるようにプラグローダーを起動。

「どうしてこんなことを……」

「楽園を創る為だ。誰も傷つかない……誰もが望むような世界に変える為に、俺達は」

「あんなものが楽園には見えないな」

 止まった街と、道中で見てきた町の人々の異様な顔。あれが楽園だと口にした影春の言葉に、桜は思ったままの言葉を返した。

「人の大切なものを奪って創り上げた楽園に俺は行きたくなんてない」

「……お前に」

 桜が手にしたコネクトチップの輝きを否定するように、影春が手にしたコネクトチップが鈍く陰る。


「大切なものを奪ったお前に! ノアカンパニーの連中に!! そんな資格があるわけないだろうが!!!」


《Pure Armor Mk.Ⅱ Plug in 》


「っ!」


《Pure Armor Plug in 》


 影春の言葉に一瞬怯むが、桜もプラグローダーへコネクトチップを装填。

 2人の視線が交わる。


「「変身!!」」


《 英雄 物語の始まりを刻め The birth of Hero!!》

《英雄 物語に終止符を打て The End of Hero》


 白銀と灰色の《リンドウ》が相対する。姿形こそ同じだが、決して相容れない色。

「俺に怨みがあるなら、どうして同じ《リンドウ》に」

「だからこそだ。この姿を持ってお前の虚像の正義を否定する。俺とお前の《リンドウ》は違う」

 同時にスラスターブレイドを出現させる。


「《リンドウ・ロベリア》。それが俺の力の、本当の名前だ」






 同時刻。


「結界ってあれか!?」

「彼岸からのデータと一致してる、あそこで間違いない!」

「山神くん、準備お願い」

「了解っと!」

 蒼葉、紅葉、山神の3人が金識町へ辿り着いていた。睡蓮とエリカに留守を任せ、桜達を助ける為に。

 山神は自身が駆る大型二輪バイク、トリケライナーのフロントへあるものを接続する。

「……念の為に聞くけど本当に折れたりしないよな?」

『問題ない。だがブレイクソードではなくトリケライナーが耐えられないリスクはあるが』

「あぁ良かった、じゃねーよ!? 初めて知ったんですけどそれ!?」

 ブレイクソードが無事に接続、トリケライナーの前方に突き出した状態になる。が、直前になって明かされた可能性を聞いた山神が震え上がる。


 作戦は至極単純。3人のデータシェアによってブレイクソードの出力を極限までブースト、加えてトリケライナーの馬力を上乗せし、結界を破壊するというもの。

「よりにもよってラムアタックかよ……しかも失敗したら俺がやべぇって……」

 そう話している間にも、街を覆う結界が目前に迫る。山神は自らの頬を叩き、恐怖と迷いを払い落とした。

「じゃあ頼むぜ彼岸!!」


《データシェア リンクスタート》


 パキケファロソナー、プレシオフォン、アルゲンタヴィスフォンが繋がり、ブレイクソードへエネルギーが伝達されていく。

 山神はトリケライナーを加速させる。刃先に黒い電光を走らせるブレイクソードを信じ、結界目掛けて全速力で衝突した。

 投げ出されそうになる程の衝撃に耐え、更にアクセルを握り込む。だが結界に突き立ったブレイクソードはそこから先に進まない。

「この……これでも足りねぇのかよ……!!」

『あと僅か……ほんの僅かで構わない、エネルギーを一瞬でも増幅させれば……』

「って言ったってこれ以上どうすりゃ……」

 少し後方を着いてきていた蒼葉と紅葉に助言を求めようと、振り向いた時だった。


 蒼葉と紅葉を乗せたメガロストライカーが、真っ直ぐこちらへ突っ込んでくる光景が見えた。


「待て待て待て待て待て待て待て待て待 ──」


 山神の制止も虚しく、メガロストライカーはトリケライナーの後部へ激突。その衝撃でブレイクソードが更に押し込まれ、結界に巨大なヒビが入り、


『その手があったか、原始的なあまり思いつか ──』


 一部が砕け散る。勢いそのままに3人は中へ突入。

「おぁぁぁ危ねぇ危ねぇ危ねぇ!!」

 山神はトリケライナーをなんとか立て直し、蒼葉と紅葉はメガロストライカーを丁寧に停車させる。

「転校生と社長コラァ!! 俺はともかくブレイクソード壊れたらどうすんだぁ!?」

「どっちもそんな簡単に壊れない事を知ってるからやったの」

「ぐっ、信用されてんのに全然嬉しくねぇ……」

「結構無理矢理だったけど、今回はそれで正解だったみたい」

 紅葉が指差した先では、突破した結界が既に修復されていた。これでもう後戻りはできない。


「んまぁいいや、さっさと桜探すぞ……って何処にいるか分かんねぇんじゃ無理か」

「プラグローダーの位置情報探知があるからそれは問題ない。けど、もう一つ気になる反応があって」

 プレシオフォンに内蔵されたレーダーに映し出されたのは、巨大な波長を放つ物体。それは街の四隅に存在している。

「何だこれ?」

「多分この結界に関連するもの、だと思う。情報が無いからそれ以上は分からない」

「でも桜ほっぽり出してまで優先するものじゃなくないか?」

「……そういう訳でもないみたいよ?」


 曲がり角の向こうから響く大量の足音。それは今、3人から一番近い位置にある物体の方向から聞こえて来る。

 すると蒼葉はメガロストライカーから降りた。

「ここは私が。紅葉は別の反応の場所に。山神くんと彼岸は桜の所に行って」

「了解。危なくなったら連絡して」

「気をつけろよ。てなわけで彼岸、案内頼んだ」

『任せろ』


 トリケライナーとメガロストライカーが走り去ったと同時、曲がり角から無数の《マストタイプ》達が現れる。そしてその先頭に立っているのは、


「やっぱり影春の言う通りだった。でも好都合」


 灼夜だった。だが以前の気味が悪い作り笑いではなく、冷酷な表情。

「忌魅木蒼葉、まずは貴女から消してあげる。私と影春が味わった悲劇を繰り返さない為に」

「恨みを買う様なこと……してるわね。私が生まれてから今まで、数え切れないほどに」


《Filter Set! Rewind Start!》

《Innocent Shirder Mk.Ⅱ Plug in 》


「だから償い切るまで、私は生きなきゃならない!」

「無理な話ね。貴女達の罪は、命でしか償えない!」


「「変身!!」」


《Deep! Abys! Fang! Memory Revive!! Wake up Ocean!!》

《英雄 砕けぬ意志で敵を屠れ Anbreak the Hero》


 蒼葉と灼夜が、《ユキワリ》と《アイビー》へ姿を変えた刹那、2人の蹴りが交差した。




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