Crossing①
「フラグメント……」
『あぁ。今ログを受け取ったが……まさか奴等、ノアの残骸を強奪していたとは』
送られたユナカ達の証言、データを纏めつつ、蒼葉は彼岸へ状況を伝える。
食事、入浴、睡眠を取り、完璧なコンディションを取り戻した蒼葉はバラバラな情報を繋げていく。
「でもこれで繋がった」
金識町に蔓延る《マストタイプ》、そしてそれらと共にノアカンパニーを襲撃した謎の生命体。この2種を構成する物質がモニターへ浮かび上がる。
「姿は全然違うけど、基本構造は同じ。スレイジェルとジェノサイドのハイブリッドをフラグメントエネルギーで制御してる」
『そんな事が可能なのか?』
「2つの分野に精通していれば、或いは。どちらもかなりの知見が要るけど」
モニターに睡蓮が回収した破片、そして蒼葉が交戦した《アイビー》が追加される。
「アイビーの完成度から逆算していくと、最初に生み出されたのはこの……仮に《プロトタイプ》とでもしましょうか。これを発展させたのが、リンドウ擬きとアイビーってことになる」
『これは』
表示された組成データを見た彼岸はあることに気づいた。
『プロトタイプの方が、フラグメントエネルギーの比重が高い……つまり黒幕は、錬生術師である可能性が高いな』
「最初はスレイジェルとジェノサイドの完全再現は間に合わなくて、リンドウのガワだけを借りた。プロトタイプを生産して、それを基にリンドウ擬きを作ったってこと?」
側で話を聞いていた紅葉が問う。すると蒼葉も考えは同じだった様で、小さく頷いた。
「そこまで分かれば大丈夫。データシェアも起動できるし、彼奴等にはもう負けない。でも一番の問題は……」
『どうやって金識町を覆う結界を破るか、だ』
桜達を援護しに向かおうにも、あらゆる物理的な干渉を封じてしまう結界がそれを阻む。連絡すら困難な中、どのようにこれを突破するのか。
「実は案が1つあるんだけど……」
蒼葉の視線が紅葉の方へ向く。何故かと彼岸が問おうとしたが、それより早く紅葉が答えた。
「ブレイクソードでしょう。それは私じゃなくて、彼岸に許可を取るべきじゃない?」
『……なるほど。可能性はあるか』
ブレイクソード ── あらゆるものを破壊する力を秘めた武器。その中には彼岸のデータが内蔵されている。即ち彼岸の本体に当たるものである。
『俺は構わない。現状、最も可能性がある方法だ』
「…………」
『……ん、何か問題があるのか?」
当たり前の様に了承する彼岸へ、蒼葉は呆れた様な視線を向ける。何故なのか理解できない様子を見て遂に口を開いた。
「ブレイクソードを使うって事は、貴方に何か影響が出る可能性もある。そうなったら私達も心配だし、誰より紅葉が」
「いいの蒼葉」
だがそれを紅葉が止めた。
「彼岸は大丈夫。私は知ってるから」
「……らしいわ。じゃ、そのプランで行くから、戻って桜達にも伝えてくれる?」
『あぁ、すぐに……っ!?』
その時、彼岸の顔に焦りが現れる。何事かと蒼葉と紅葉が問うより早く、答えを呟く。
『向こうの端末が破壊された……!!』
金識町に残された端末へ行く道が、消失したのだ。
彼岸からの連絡を待つ最中、ユナカ達は《マストタイプ》の追撃を逃れながら町を駆け巡る。
「トライアングルホースは自動運転で走らせてるけど、どれだけ誤魔化せるか……」
「どのみち陸路で逃げ切るのは無理がある。もしもの時は……」
ユナカの視線がザクロと晶へ向く。まだ自分は変身できるほど回復出来ていない。いざという時は桜が変身し、2人だけでも逃がす様に。事前に桜へ伝えている。
「闇雲に逃げてもキリがないが……今はとにかく敵がいない場所を進むしかない」
端末を持つザクロは走りながらも、中に保存された情報を元に考察を続ける。
(……ダメだ、何も繋がらない! コネクトチップの情報がノイズになっている! 錬生術師にそんな高度な真似が出来る人間がいた覚えも…………いや……?)
ある人物の名が頭の中に浮かぶ。錬生術師でありながら、人形に命を吹き込もうとしていた男がいた。
「ソロモン……そうか、あの男なら」
「どうしたザク ──」
考え事に集中していたからか、もしくは逃げる事に気を取られていたからか。
空から飛来した影がザクロを連れ去るのを、誰も止められなかった。
「っ、ザクロ!!」
「何処から!?」
影は遠くへ飛び立つ事なく、ユナカ達の前へ降り立った。その姿を見た桜は思わず呻く。
「リンドウ……!? じゃあこいつが、ユナカが言ってた……!」
「確か炎の錬生術師は、力が半分に分かれているんだったか。ならこの女でも問題ない」
灰色の《リンドウ》は端末を握り潰すと、ザクロを片手で拘束したまま謎のチップを取り出す。
「ザクロを離せ!!」
「無理な話だな」
灰色の《リンドウ》に気を取られる中、後ろから響く鉄の足音が桜の耳に届く。
(後がない……なら奴を倒してザクロを助け出す!)
桜がプラグローダーを起動しようとした時だった。
「私に構うな! 敵の本拠地を探せ!!」
ザクロの声がそれを止めた。
「っぐ……この、異変の元凶は……っ、ソロモン、だ! きっと町の何処かに ──」
その言葉が続く前に、灰色の《リンドウ》はザクロの首へチップを突き立てた。
瞬く間に粒子となってチップへ吸収され、ザクロは跡形もなく消えてしまう。
「っっっ!!」
「ユナカ、駄目だ!!」
変身出来ないことすら忘れ、ユナカは灰色の《リンドウ》の元へ向かおうとする。
「バカな真似を」
「がはっ!?」
「ユナカさん!!」
だが敵う筈もなく、喉元を蹴り上げられて吹き飛ばされる。桜が受け止めるが、元々負っていた傷も重なり意識を失っていた。
「もうお前達に用はないが……楽園から追い出された奴等を生かしておく理由も無い」
「……そうか。でも俺達にはまだ、生きる理由がある!!」
《Shoot Air Raider》
《強襲空撃 穿てターゲット One Shot Break Down!!》
「うわぁっ!?」
桜が変身。シュートエアレイダーとなってユナカと晶を抱え、一気に空へ飛翔。すぐに灰色の《リンドウ》も追ってくるだろうと予想し、2人の負担が大きくならない程度に速度を上げて離脱した。
だが、追ってこなかった。
変身が解けてからもしばらく立ち尽くす影春。任務が頭から抜け落ちる程の激情。
「リンドウ……彼奴が……!!」
近くにいた《マストタイプ》へ、ザクロを封じ込めたチップを無理やり渡した。でなければ、怒りのままに砕いていたかもしれない。
《リンドウ》は、日向桜は、影春の運命を大きく変えた存在なのだから。
最後のモノリスが完成し、楽園完成までのカウントダウンが始まる。
金識町のとある場所にある巨大なサーバーが起動。4人の錬生術師の力を取り込んだモノリス、接続されたノアの残骸、そして遠方のサーバーセムからデータを構築し、楽園のシステムを一気に組み上げていく。
システムの完成まで、あと24時間。




