Encounter③
「錬生術師にフラグメント……アトラム……」
ユナカから事情を聞いた桜の顔は青白くなっていた。怖気付いたのではない。
「ちょっと待ってね……今、頭の中……整理してるから……」
彼の脳内容量、そして情報処理能力を超えた為だ。それを見たザクロは呆れた様に溜息を吐いた。
「しっかりしたまえよ、こんな時に」
「無理もないだろ。正直、まだ俺だって向こうの事を飲み込めたわけじゃない」
ユナカはフォローすると、彼岸の方へ視線を向ける。
「2人はどうして金識町に? ここには君達が言ってた……スレイジェルやジェノサイドなんて怪物はいなかった筈」
『数日前、スレイジェルとジェノサイド、双方の性質を持つ反応がこの町に出現した。だがそれには、加えて未知の性質も混じっていた』
「スレイジェルとジェノサイドって、今まで草木ヶ丘市の外で出た事がないんだ。それだけでも変なのに、もっと変な要素を持った何かが急に現れた……」
桜と彼岸、2人の口から語られた事情を聞いたユナカは小さく頷く。こちらが同じ状況でも同じ選択を取るだろう。
『輝蹟ユナカ、そしてザクロが話した内容で解答は得られた。俺達が察知した未知の性質……それはフラグメントエネルギーだ』
「……3つの性質を併せ持った、全く新しい存在」
そして彼岸の答えを聞いたザクロの脳内で、一連の騒動の中で抱いていた疑問が解消されていく。
「そうか、だから奴等の攻撃に微弱なフラグメントエネルギーが含まれていたのか……だが」
『新たな問題は、首謀者がどうやって3つの力を手に入れたのか。そして、それらを利用した首謀者の目的は何なのか』
「……あまりにも情報が少なすぎる」
ザクロの言葉が現状を表していた。生き延びることに手一杯で、状況を変えるために必要な情報が少ない。
「……彼岸、蒼葉達に連絡を取ろう」
「無駄だ。この空間、町内ですら連絡手段は使えなかった。君達の技術力は大層なものらしいが、外部と連絡を取るのも不可能だろう。残念だがな」
桜からの提案を一蹴するザクロ。何処か棘のある物言いをユナカが咎めようとした時だった。
『いや、連絡は可能だ。俺達の仲間にだけは、だが』
「えっ、そうなの?」
彼岸の言葉に驚愕の声を上げたのは、他でもない彼の仲間である桜だった。訝しむユナカ、馬鹿を見る目で睨むザクロ、怪訝な表情で見つめる晶の視線に晒され、桜は慌てて誤魔化す。
「いや違う聞いて! 彼岸ってほんと何でも出来るから、俺もたまに知らない能力使ったりする時があって……」
『俺の能力というよりも、ノアカンパニーのサーバー機能だ。その中でも特に秘匿性とファイアウォール機能に優れたライン……俺専用の道を使えば』
「?」
「つまり、君しか通れない秘密の電波を使えば、この結界の妨害を受けずに外と連絡が出来る?」
『あぁ』
何のことか分かっていない晶にも伝わる様にユナカが要約すると、彼岸は端末の中で背を向ける。
『時間が惜しい。少しの間、端末を頼むぞ』
「あぁ。大丈 ──」
桜が言いかけた時、その場にいた全員が硬直する。
見る見るうちに彼岸の身体が縮小、更には解像度も極端に下がっていき、レトロゲームのキャラクターの様なドット絵へ変化。端末の中に出現した土管の上に乗ると、吸い込まれるように消えていった。ポップな音と共に。
「えぇ……?」
「別に笑わせようとしなくても良いんだが」
もはや真面目に反応する事すら億劫になっている晶とザクロ。
「……今のも、彼の能力?」
苦笑いで見送った桜へユナカが問う。
「いや、これは多分……し、仕様?」
その時、通路の奥から足音が聞こえる。一つではない、集団の足音だ。
「早いねぇ。もう嗅ぎつけるとは」
「離れよう。なるべく、音を立てない様に」
「そうか、残りは炎の錬生術師だけ」
ユナカ達の捜索を継続していた影春は、灼夜からの報告を受けていた。
『手が足りないなら他の2人も向かわせる? それとも私が……』
「いや、灼夜達は制御サーバーの警備に専念してくれ。ノアカンパニーの連中がこのまま黙っているとは思えない」
『物理的な干渉も通信手段も遮断してる、この結界を破るのは……いや、あの会社なら持ち合わせてても不思議じゃないか』
「そうだ。ノアカンパニーを相手にする以上、万全を期して計画を進めていく」
『……うん』
この計画に参加した4人には、楽園を創りたいと願う理由がそれぞれある。しかしそれとは別に、影春と灼夜には戦う理由があった。
『楽園を完成させて、ノアカンパニーに復讐する……私達から全てを奪った彼奴等から、今度は私達が全部奪う……!』
灼夜の声が僅かに震える。ノアカンパニーへ残骸を奪いに行く役目を担った彼女。その時、内に押し込めていた激情が溢れた証だった。
「楽園の創造にはノアカンパニーの抹消が不可欠。それが″ソロモン″の導き出した計算だ。奴等のサーバーから必要なデータを抜き取り次第、ノアカンパニーの全てを消す」
通話を切ると、影春は歩き出す。《マストタイプ》達の動きは端末で全て追跡している。動きの流れが変わった地点へ回り込む様に移動する。
「今度は逃さない」




