Encounter②
《マストタイプ》が一斉に銃火器を構える。だがスラスターブレイドから炎を煌めかせ、それらより速く《リンドウ》は集団へ突貫。
「今更だけど、何でコイツらリンドウそっくりなんだ!?」
疑問を吐きながらもスラスターブレイドを一閃。一体、また一体と斬り伏せ、背後から襲い来る個体には斬撃の勢いに身を任せたキックで応戦。
「あ、ちょっ、待て!」
しかし一部の《マストタイプ》達は《リンドウ》を無視し、ザクロと晶へ向かい始める。冷気を纏ったスラスターブレイドを投げつけると、地面に突き立った瞬間に周囲を凍結させる。
足を凍らされた《マストタイプ》達へ、《リンドウ》は新たな武器、大剣と大砲を兼ねたヴァイティングバスターを叩きつける。打球の様に弾き飛ばされたことを見届け、刺さったスラスターブレイドを抜いた。
「……やっぱ全部倒すのは無理か」
そう呟きながらも、《リンドウ》は再び集団の中へ突入していく。
「凄い、あの人……!」
「だがあのままじゃ押し切られるぞ」
『そうだ。だから早急にこの場を離脱しなくてはならない』
「そうですね……って、今喋ったの誰!?」
何気なく会話に混じってきた声に思わず晶は驚く。
『バイクの方を見ろ』
「バ、バイク……!?」
それは青年が乗ってきたバイクから、正確にはバイクに接続されたスマートフォンから聞こえてくる。ザクロが近づくと、画面には1人の男性が映し出される。
「君は?」
『詳しく説明できる状況でない。日向桜、お前達を助けて戦っている男の仲間だ、と伝えれば信用できるか?』
黒髪の間から覗く赤い瞳は、液晶越しだというのに有無を言わさぬ迫力を放っていた。だがそれは負の意志によるものではない。
「……今は信じよう。どうすれば?」
『バイクに乗れ。安全地帯は発見済みだ、そこまで俺が運転する』
ザクロは晶の方を見て頷く。晶もまた頷くと、2人で三輪バイクへ跨る。
発進直前、《リンドウ》の攻撃をすり抜けてきた《マストタイプ》が数体立ち塞がる。
《Crush Warrior》
《一撃粉砕 不撓不屈 Destroyer of Rigid Arms》
それらは突如として空から降り注いだ、重鎧を纏う腕と足で圧し潰される。強靭な装甲を角を備えた《リンドウ》の形態、《クラッシュウォリアー》である。
「俺が道を作る! 彼岸、2人を頼んだ!」
『問題ない、やってくれ』
《リンドウ》はスマートフォンの中の男、彼岸へ呼びかけると同時に装置をスライド。
《Now Loading……Now Loading》
装置から流れ出したエネルギーは《リンドウ》の頭部と肩の角へ伝わり、赤熱。右足を大きく引き、
《Update Complete Crush》
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
一気に駆け出した。鈍重そうな姿からは想像もつかない様な速さで突進する彼の後ろには、《マストタイプ》が爆ぜつつ道が出来上がっていく。
『掴まれ、最高速度で突っ切る』
喋ると同時に三輪バイクの後輪が唸りを上げ、《リンドウ》へ追従。やがて群衆を抜けると、《リンドウ》の速度が落ちていく。
「あのお兄さんが!」
『心配はいらない』
《Shoot Air Raider》
《強襲空撃 穿てターゲット One Shot Break Down!!》
すると先程は後方にいた筈の《リンドウ》が並走。見れば重鎧を纏った姿から、スラスターを纏った様な姿に変わっている。
「流れ弾が怖いから伏せといた方がいいよ!」
「は、はい!」
晶へ助言すると、《リンドウ》は急上昇しながら先行。待ち構えようとしている《マストタイプ》達を手にしたライフルで撃破していく。
『このまま目的地まで急ぐぞ』
「待ちたまえ。その前に私の弟子を回収したい」
『構わないが、場所は分かっているのか?』
ザクロからの提案に彼岸が尋ねると、彼女の眼の紋章が僅かに輝きを増す。
「あぁ、私なら追える」
手負いの状態では、見つかるのは時間の問題だった。
「っ、はぁ、はぁ……!」
道端の障害物を倒し、少しでも時間を稼ぎながら逃走する。銃弾の嵐を避ける為に小さな物陰も利用し、よく知る町の中を必死に駆け回る。
変身さえ出来れば切り抜けるのは容易だろう。だが先の戦いで負った傷は浅くない様で、フラグメントゲートのセーフティ機能がそれを許してくれない。
「このままじゃ……っ!」
追いつかれる。ユナカがその言葉を呑み込んだのは、現実になってしまった為だ。
狭い路地を埋め尽くす様に《マストタイプ》達が現れた。前だけでなく、後ろからも。
藁にも縋る思いでフラグメントゲートを起動させようとするが、沈黙を貫くだけ。武器を構えながら迫って来る《マストタイプ》達を、ただ黙って見ることしか出来ない。
(ここまで、なのか……!?)
そんな思考が一瞬だけ巡る。だがユナカの魂は未だ諦めていない。五感が極限まで研ぎ澄まされ、生存の可能性を探り続ける。
その時、彼方で響く甲高い音をユナカの聴覚が捉えた。
(飛行機……いや)
音の方向を見上げた。つられる様に《マストタイプ》達も同じ方向へ視線を向ける。
「掴まれ!!!」
正体を確認する間など無かった。だが僅かに見えた影と、以前に聞いたことがある声に導かれ、
「っ!」
ユナカは差し伸べられた手を取った。
急激に身体が持ち上がり、浮遊感を感じた時には既に眼下へ町が広がっていた。しかし恐怖心はない。
「間一髪だった……!」
「君は確か……リンドウ、だよね」
そう、ユナカは彼を、自分を窮地から救ってくれた名を知っていた。
「そういえば、変身する前の姿を見るのは初めてだった。ま、自己紹介は安全な場所でやろう」
《リンドウ》、桜もまた、彼の事を知っていた。
「さて、まずは礼を言わせて貰う。私達の救出、そしてユナカの救出について」
安全地帯として案内された地下水道。三輪バイク ── トライアングルホースにもたれかかる桜へ、ザクロは礼を言う。だがすぐにその表情が厳しいものへ変わった。
「で、まずは君達の素性を明かして欲しい」
「ザクロさん、まずは僕達からの方が……」
「状況が状況でね、こちらも情報開示には慎重にならざるを得ない」
晶からの提案を柔らかく拒否し、再び視線を桜へ向ける。疑われているにも関わらず桜の表情は笑顔を保っている。
「町があんなんじゃ無理もないよな……俺は日向桜。2人も素顔で話すのは初めてだけど……」
と、少し困った様な顔でスマートフォンへ、正確にはその中にいる彼岸へ目を向ける。
「俺の職業ってなんて言えばいいんだ?」
『ノアカンパニーの社員で伝わるだろう』
「ノアカンパニー……インターネットサーバーの管理会社か。確か草木ヶ丘市に本社があったような」
ユナカは1年前に訪れた時のことを思い返す。草木ヶ丘市は大規模な都市であると同時に、世界規模のデーターサーバーを有するノアカンパニーがある。そして、世界を揺るがす様な事態が起きた事でも有名だ。
「なるほど。で、私が一番気になるのはもう片方の」
「え、俺の自己紹介もう終わり? いやこれ以上話す事ないけどさ……」
ザクロは桜を押し退けると、彼岸が映るスマートフォンを取り上げる。
「彼岸と呼ばれていたな。君はなんなんだね? 人工知能か? それとも遠隔で通話する為の端末か?」
『どちらも違う。話せば長くなるが……出来るだけ簡潔に纏めよう』
彼岸は語った。人間の遺伝子を改竄し、怪物へと変貌させるジェノサイドウィルス。そしてそれを撲滅する存在として生み出された機械生命体、スレイジェル。それらを基に生み出された兵器、コネクトチップとプラグローダー。
そして、スレイジェルである自身と、ジェノサイドである桜について。
「うぅ……頭が痛い」
『深く理解する必要はない。重要なのは、俺達が奴等の仲間ではない事。そして』
「俺達もここから出られなくて困ってる事……」
「ふぅん……」
頭を抱える晶と、何処か納得しきっていない様子のザクロ。協力しよう、と切り出しづらい雰囲気に苦い表情を浮かべる桜だったが、
「……なら、次は俺達だな」
「っ!」
黙って耳を傾けていたユナカが腰を上げた。
「ユナカ」
「お前のことだ。裏切りの可能性を考えているんだろうが、それならわざわざ助け出す意味もないだろ。あのままだったら俺達は……」
諌める様な視線を向けたザクロへ、ユナカは自分なりに考えを伝える。すると彼女は小さく溜息を吐いた。
「そんなこと分かっている。まったく、君のお人好しにも困ったものだ」
『問題ない。こちらの日向桜もお人好しだからな』
「何が問題ないの? ねぇ?」
ズレた事を真顔で話す彼岸に、ゲンナリした表情でぼやく桜。
詳しい事情は未だ呑み込めていない。だが、決して悪人ではない。
それが分かった気がして、晶は小さく笑った。




