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Encounter①

 

 街の中を闊歩する機械兵士の集団の後を翡翠は尾行する。


 ユナカ達と連絡がつかなくなってすぐ、この謎の集団が何処からともなく現れた。最初は交戦しようと考えたが、アトラムやダルストンズ、錬生術師とはまるで異なる雰囲気を纏う彼等に違和感を覚えた。

 彼等に取って自分たち錬生術師は障害なのか、それとも目的なのか。判断はつかないが、情報を得ないまま交戦や合流を行うのはあまりにも危険すぎる。翡翠は自分の判断を信じることにした。


(あれって人間……? でもアトラムじゃないし、機械って言うには……)


 終始無言で哨戒を続けている為、会話から情報を得る事は出来ない。何か動きがあるまでひたすら尾行を続けていると、彼等が不意に足を止める。

 そこには巨大なモノリスが聳え立っていた。周囲には他の場所から集まったと思しき機械兵士が集まっている。

(怪しすぎる……絶対ろくでもないもんでしょあれ……ぉ?)

 翡翠の耳は機械兵士の集団の中に人間の声を拾い上げる。


「……春…………指……夜は……」

(なんか聞こえづら……声が篭ってるな……)


 更に距離を詰める。声と共に、紛れていた姿がはっきりとする。


「なら後は炎と風だけということか。光と闇は捨て置いて良いのだな? ……コネクトチップの調整は問題ない。今の我なら炎だろうと風だろうと、誰にも負けん」


 声は少年にも少女にも聞こえる中性的なもの。声が篭っていたのは口元を隠す黒く長いマフラーによるものだった。ライムグリーンのウルフカットにダークグリーンのメッシュが走る。白いダッフルコートの隙間から覗く足は黒タイツに包まれている。


(コネクトチップ……とは? なんぞや?)

「それにしても水と土は大したことがなかったとは。楽が出来て何よりだったな」

「えっ、マジ!?」


 一斉に視線が向けられる。


「やべボリューム間違え」


 そして一斉に銃声が響く。咄嗟に跳躍して回避するが、その身を完全に晒すこととなる。

「盗み聞きとは姑息な真似をする。見た目からするに貴様は風の錬生術師か」

「っとっと……その言い方じゃ、こっちの事は把握済みってことかな!」

 翡翠はすぐにフラグメントを取り出し、装填。


《スピリット・フラグメント》

《ヴェントスシルフィーネ・フラグメント》

《リアクション!!》


「とりあえず適当に戦って逃げさせてもらう! あっ、と……お坊ちゃん、じゃなくて、お嬢、ちゃん?」

「……我の名は、蕾切らいきり朝顔あさがお

 途端に人物、朝顔の纏う雰囲気が変わる。

「我は種族を、性別を……全てを超える存在! 楽園の守護者になるべく、選ばれた存在だ!!」

 そしてコートを脱ぎ捨てる。中から現れたのは肩から胸に掛けられた謎の装置。

「楽園の人柱になれ、風の錬生術師」

 朝顔はその装置へコネクトチップを装填、カバーを閉じた。


《Shoot Air Raider MK.Ⅱ Plug in 》


 2人の間を風が通り過ぎる。刹那、それぞれの装置を起動させる。


「変身!」

「変身!」


《ゲート カイホウ!!》

《風迅・ストーム!! ヴェントス・スピリット!!》

《スピリット・シルフィーネ理論!!》


 翡翠は《スピリット》へ変身。そして、


《英雄 雄大な翼で世界を統べよ Flying the Hero》


 朝顔の身体を灰色の装甲が包む。背中には翼の様に広がるスラスター、手には長大なライフルを備え、全身をダークグリーンのエネルギーラインが走る。


「錬生術師、じゃ、なさそう」

「《リンドウ・クレマチス》の前に沈め、風の錬生術師」

 《クレマチス》の翼から炎と突風が吐き出され、一気に飛翔。《スピリット》はすぐにフラグメントマグナムとヴィトロガンの弾幕で追跡するが、

「無駄だ!」

 《クレマチス》は手にしたライフルから熱線を照射。道路を焼き尽くしながら迫る。弾幕を途切れさせずに《スピリット》は跳び上がり側転。これを回避する。

 だが攻撃は空からだけではない。地上の《マストタイプ》達も一斉に銃撃を始める。

「めんどくさいなぁもぅ!!」


《フェルム・アルミラージ!!》

《ローデッド コンプレッション!!》


 フラグメントマグナムへ《フェルムアルミラージ・フラグメント》を装填。飛び退きながら《マストタイプ》の集団へトリガーを引いた。


《アルミラージ!! コンプレッションブラスト!!》


 フラグメントマグナムから、角が生えた鉄のウサギの群れが出現。《マストタイプ》達へ体当たりし、蹴り飛ばし、銃撃を止ませる。

 更にフラグメントマグナムから取り出した《フェルムアルミラージ・フラグメント》を、今度はフラグメントゲートへ装填。


《フェルム・アルミラージ!! オールマイティジャンプ、決めて魅せろ!!》


 両足へ鋼鉄の装甲を纏うと、街灯、そしてビルを踏み台に大きく跳躍。

「自分だけ空飛んで狡いっての!」

 エネルギー弾を放ちつつ、風で造り出した足場を跳ね回りながら《クレマチス》を追い回す。

「愚か者め、わざわざ空で戦いを挑むとは」


 刹那、《クレマチス》の背中の翼の一部が分離。それらが飛翔しながら熱線を放つ。


「そんなのありぃ!?」

 熱線を躱しながらも、翼を撃墜すべく銃撃を放つ。だがまるで意思を持っているかのように翼は銃撃を回避。

 やがて熱線の一つが足場を撃ち抜き、《スピリット》の体勢が崩れる。

「しまっ!?」

 落下していく《スピリット》を、更に熱線が追い打ちをかける。

「所詮、錬生術師なんてこの程度か」


《Now Loading……Now Loading……》


 装置をスライドさせた《クレマチス》は、熱線を浴びながら落ちていく《スピリット》へ銃口を向ける。


《Update Complete Shoot Void Finish》


 ライフルから螺旋を描くダークグリーンの光条が放たれる。脅威が迫る中、空を仰ぎながら墜ちていく《スピリット》はあるものを捉えた。

(あれ……結界の流れ……?)


 光条が直撃。黒煙を上げながら道路に叩きつけられ、変身が解除される。激痛に呻きながらも、翡翠は自分でも驚くほど冷静に思考を巡らせていた。

(尾行に夢中で忘れてたけど……ここって金識町の端っこだよね……)

 降り立つ《クレマチス》には目もくれず、結界の流れを見つめ続ける。

 やがてその流れとは別の方向から、新しいエネルギーの流れが合流している地点が目に入る。そこは、

(もしかしなくても……っ、一か八で!!)

 残る力を振り絞り、翡翠はフラグメントマグナムを空へ向けて乱射する。

「恐怖で乱心したか。無理もないが、なんとも哀れよな」

 それを見た《クレマチス》は嘲笑。だが構わず翡翠は銃撃をやめない。

(先輩か彼奴なら気づいてくれる筈……今はこれが精一杯……後はお願い……!!)

「時間が惜しい。疾く贄となれ、風の錬生術師」



 翡翠を謎のフラグメントへ封印した朝顔は、翠色の輝きを放ち始めたそれをモノリスへ挿し込んだ。


「楽園の完成まで、あと一つ……ふふふ、はっはっはっは!!」





 ユナカと別れてすぐ、機械兵士 ── 《マストタイプ》の集団に追い回される。ユニコーンストライカーならば難なく振り切れるが、通路を塞ぐようにして徐々に追い込まれていく。

「まったく、こういうのは得意じゃないんだが!」

 縁石を利用して頭上を飛び越え、ビルや民家の外壁を走りながら躱し続けるザクロ。振り落とされまいと必死にしがみつく晶を気にかけつつも、追跡を振り切るべく奔走する。

「彼奴等、アトラムじゃないんですよね!?」

「だろうねぇ! ゆっくり腰を据えて考察したいところだが、生憎向こうはそんなことをさせるつもりはないらしい!」

 と、目の前の大通りを《マストタイプ》の集団が塞ぐ。避ける隙間も、利用できる地形もない。

「仕方がない、しっかり掴まれ晶くん!」

「はい!」


《走れ! 走れ!! スピネルユニコーン!!》


 バイク形態であるユニコーンストライカーを、ユニコーン形態であるスピネルユニコーンへ変形。炎の道を生成しながら空を駆ける。


 《マストタイプ》達は銃火器で追撃。それらを躱しながら走り続けるが、弾丸とは異なる音が2人の耳に入る。花火の様な音だ。

「何の音……ってザクロさん、あれ!!」

 晶もゲームでしか見たことがない代物。それらが群れを成して迫って来る。

「ロロロ、ロケットランチャーです!!」

「いやぁ笑えないねこれは!!」

 スピネルユニコーンを蛇行させながら回避しようとするが、避けきれなかった一つが炸裂。

「うわぁっ!?」

「やってくれる! ただの爆発物じゃない、フラグメントエネルギーが込められてる!」

 理由を考えたい気持ちを捨て、ザクロは暴れながら墜ちていくスピネルユニコーンの制御に集中。


「少し痛いが我慢してくれ、晶くん!」


 限界まで地面に近づけると、晶を抱えて飛び降りる。スピネルユニコーンは廃工場の壁に激突して爆散。2人はアスファルトと砂利の混じった地面を転がる。

「女子供相手に容赦がない……晶くん、大丈夫かい?」

「はい、僕はなんとか……ぁっ!」


 呼吸を置いたのも束の間、ザクロと晶の前に《マストタイプ》の集団が追いつく。

 晶を背にヴィトロガンを構えるザクロ。だがこの物量を前にそんなものでは抵抗すら出来ないことは理解している。

(考えろ……まだ方法はある筈だ……まだ……!)

 剣、槍、銃、ロケットランチャー。様々な武器を手にしてにじり寄る機械兵士を前に、ザクロの表情が険しくなる。


「……バイクの、音?」

「なんだって?」


 その時、晶が口にした言葉。それを探るべくザクロも耳を澄ませる。

 エンジン音。それは少し離れたところから聞こえ、一気に大きくなっていく。



 それは、《マストタイプ》達の後方から響いてくる。



「何か来る!!」

 刹那、後方の《マストタイプ》達が吹き飛ばされる。それに気づき振り向いた個体達へ、



「どりゃあああ!!」



 剣撃が閃く。火花と共に《マストタイプ》が弾き飛ばされた瞬間、三輪バイクが姿を現した。

 急ブレーキと同時に地面を横にスライド。ザクロと晶の前で停車すると、バイクに乗った人物が地に足を下ろす。

「ぇ……だ、誰、ですか……?」

 晶は問う。彼と面識が無かった為だ。だがザクロは何も言わず、驚きで目を見開くのみ。彼の姿を覚えていた為だ。


「なんとなく事情は分かってる。後は任せろ!」


 僅かに振り向いた青年は快活に笑って見せた。自信の表れなのか、2人を安心させる為なのか、あるいはその両方なのか。


 青年の左手の装置と、取り出された1枚のチップ。外観だけを見れば自分達を襲撃した《リンドウ》という輩が使っていたものと同じだ。

 だが晶には青年が敵に見えなかった。高潔に輝く白銀のそれらのおかげだろうか。

(いや、それだけじゃない……この人)


《Pure Armor Plug in 》


 装置へチップを装填。青年の双眸が黄金に輝いた。



(ユナカさんと、同じ心の色をしてる)



「変身!!」


《 英雄 物語の始まりを刻め The birth of Hero!!》


 青年がカバーを閉じる。銀色のインナースーツの上から純白の鎧が接合。天使の翼に似た青紫のアイレンズが光を放つ。



「さぁ、ここからはヒーローの……出番だぜ!!」



 青年は、日向桜は、



 《リンドウ》は《マストタイプ》達へ宣言した。



続く

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