Side Soulist′s②
「……なんとかやり過ごしたか」
情けない話ではあるが、あの場ではこの選択が最善だと判断した。
ユナカは立ち上がろうとするが、胸を貫く様な鋭い痛みで再び座り込む。想像以上にダメージが大きい様だ。
「ザクロと晶くんに合流しないと……」
この場にいてはいつか見つかるだろう。異変の正体を探るにせよ、単独行動は危険過ぎる。
(灰簾さんと琥珀くん、翡翠ちゃんも探さないといけないけど……そこまで手が回るか)
未だに痛みが走る身体へ鞭を打ち、ユナカは歩き出した。
「連絡がつかなくなった……やっぱりこの結界が」
灰簾はノイズが走るスマートフォンに目を落としながら街を歩き回る。不気味な笑みを浮かべたまま固まる街の人々に目をやりたくないというのもある。
(一回ジュエルブレッドに戻る……その方が良いかも)
踵を返そうとした時、灰簾は立ち止まる。
「早速見つかるなんてね。あなたは……水の錬生術師の方か」
棚引く碧色の髪、小さな紋章が刻まれた紫の瞳、右腿に巻かれた見慣れない装置。その全てを持って、少女が敵であると灰簾の勘が告げる。
「一応、名前だけ教えてくれない?」
フラグメントを装填しながら、灰簾は少女へ問う。
「いきなり喧嘩腰なんて、聞いてたよりも野蛮じゃない。それとも歳の所為?」
対する少女 ── 灼夜はコネクトチップを装填する。
「なんで歳のこと知っ……じゃなくて!」
《レイス・フラグメント》
《アクアウンディーネ・フラグメント》
《リアクション!!》
《Innocent Shirder Mk.Ⅱ Plug in 》
「変身!」
「変身」
《ゲート・カイホウ!!》
《水渦・カタラクト!! アクアレイス!!》
《英雄 砕けぬ意志で敵を屠れ Anbreak the Hero》
灰簾は《レイス》へ、灼夜は《アイビー》へ変身。
戦いの口火を切ったのは《レイス》。ヴィトロスタッフからうねりを伴った水のレーザーを放つ。《アイビー》は手にした盾でなんなく受け止め、弾くと同時に跳躍。生成したスピアを投擲。
それを走って躱した《レイス》はヴィトロスタッフを振るい、水弾を発射する。散弾の様に降りかかる弾雨を、《アイビー》は先程と同様に盾で受け止める。
だが当たらずに通り過ぎた水弾が空中で動きを止め、すぐさま急反転。《アイビー》の背中へ襲いかかる。
「さすがに」
《アイビー》もまた向き直り、盾を振るって水弾を弾く。だが一部が右肩と腹へ着弾。
「年季が違うってこと」
しかし《アイビー》の装甲に傷はない。
「見た目通り本体も硬いってわけ……!」
「予定より早く仕事が終わったから手伝いに来たけど……ハズレの残り物を引いたかな。でも単騎でいるのは幸運か。他の錬生術師がいると厄介だし」
「……あなた、私達のことを何処まで、っ!?」
突如、《レイス》を無数の銃撃が襲う。振り返るとそこには、《アイビー》に似た集団が無数に並んでいた。手にした銃火器類は現実にもある様な見た目。だが攻撃を受けた《レイス》はある事に気づいていた。
(今の銃弾、少しだけどフラグメントのエネルギーが……!?)
逡巡した事が間違いだった。いつの間にか接近していた《アイビー》は跪いた《レイス》を盾で殴打。
「ぐっ!?」
「《リンドウ》の量産型……《マストタイプ》の性能向上にも付き合ってくれる? 私、こう見えて指揮官任されてて」
吹き飛ばされ、立ち上がろうとした瞬間を《マストタイプ》達が一斉に銃撃。再び地面へ倒される。
「リン……ドウ……?」
《レイス》はよろめきながらもフラグメントエクステンダーを取り出す。
「それはダメ」
「ぁっ!?」
それを《アイビー》が見逃す筈がない。スピアを投擲し、《レイス》の手からフラグメントエクステンダーを弾いた。
「そんなものがあったら楽園の人柱に出来ないじゃない」
「うぁぁぁ!?」
《アイビー》が作った隙を突き、《マストタイプ》達は一斉に銃を掃射。ヴィトロスタッフを握る事すら出来なくなった《レイス》は力無く立ち尽くす。
「テストは終わり」
《Now Loading……Now Loading……》
《アイビー》は装置をスライドさせ、盾を弓へ変形。新たに生成した3本のスピアを矢の様に番え、
《Update Complete Innocent Void Finish》
一気に解き放つ。灰色のエネルギーを纏いながら螺旋を描く3本の槍は、《レイス》を射抜くと同時に爆発。
「っ…………!!」
声を上げる事すら出来ず変身が解け、灰簾は地面に倒れ臥す。動かなくなった彼女を見た《アイビー》は《マストタイプ》へ停止指示を出すと、自らも変身を解く。
「水の錬生術師、確保」
灼夜は懐からあるものを取り出す。それはフラグメント・Vへ無理やりコネクトチップを接続した歪な物体。
それをかざした瞬間、灰簾の身体は粒子となり、内部へ取り込まれた。白色だった謎のフラグメントが青く染まる。
「あれを持ってきて」
灼夜の指示で、《マストタイプ》達は装置を持ってくる。フラグメントゲートとプラグローダーを組み合わせ、それらを中心に幾何学模様が刻まれたモノリスの様なもの。
「これから頑張って。楽園の柱として」
中心部へ灰簾を封じ込めた鍵を挿し込む。ぼんやりと青い光を帯びるモノリスを、灼夜はただ黙って見つめていた。
「あとは影春達からの連絡待ちか」
それまでここを監視する。灼夜の新たな仕事だ。
「ダメだ……誰にも繋がらない」
町の中で一人、スマートフォンへ目を落としながら琥珀は溜息を吐く。
職場の仮眠室から出た時にはこの異変が起きており、金弥や銀一はおろか署内の全員が異様な笑顔を浮かべたまま静止。ザクロからの連絡でようやく事態を飲み込めたのだ。
だが頼みの綱だった連絡網すら通じなくなった。
「ユナカさん達と合流した方が……」
その時、目の前に現れた人影を見て琥珀は立ち止まる。立ち止まらざるを得なかった。
「あらぁ、もしかしてあなたが土の錬生術師かしら〜?」
柔らかな口調とは裏腹に、その男性の体躯は2mを越し、岩を削り出したかの様に荘厳な巨体。ブラウンのドレッドヘアーと、二重の瞼の間から覗くオレンジ色の瞳。
「運命ってあるのね。こんな広い街中で探すなんて無茶過ぎるでしょって思ってたけど、やっぱり引かれ合うってこと」
「……」
「あぁんもう待ってよ〜! もう少しお話したかったのにぃ!!」
琥珀は静かにフラグメントゲートを出現させる。その理由は明白。
男性の背後には大量の兵士、《マストタイプ》の集団が控えている為だ。
「ま、若いから血気盛んなのは仕方ないわね。あたし達の目的、理解して貰ってから人柱になって欲しかったんだけど」
男性は二の腕に巻いた装置のカバーを展開、1枚のチップを取り出す。
「最低限の礼儀として名乗らせて頂くわ。あたしはネルソン・ガーベラ。遠い外国の元軍人よ。誰も傷つかない楽園を作る為に、この手を汚させて貰う」
「簡単に汚せると思うな」
《ファントム・フラグメント!!》
《テラノーム・フラグメント!!》
《リアクション!!》
琥珀はフラグメントを装填。目の前に出現した石門を叩き開くべく、ゆっくりと拳を引く。
対するネルソンも、手にしたチップを装填。
《Crash Warrior MK.Ⅱ Plug in 》
地面を叩き、二の腕へ手をかざす。
「変身」
「変身」
《ゲート カイホウ!!》
《土涛・クラッキング!! テラ・ファントム!!》
《ファントム・ノーム結合!!》
琥珀は《ファントム》へ変身。そして、
《英雄 無双の力で全てを粉砕せよ Breaking the Hero》
虚空から出現した輪がネルソンを囲む。額と肩に巨大な斧の刃を備えた重厚な鎧は赤黒い不気味な光沢を放ち、全体をダークイエローのエネルギーラインが走る。
「さて、坊や。あたしに、《リンドウ・タンジー》に敵うかしら」
「さぁどうかな!」
出方を伺うことなどしない。《ファントム》はすぐさま駆け出し、大きく引いた拳を《タンジー》の腹の中心へ叩きつけた。
轟音が空気を揺らし、踏みしめたアスファルトに2本の線が引かれる。
「……っ!?」
《ファントム》の拳が驚愕によって僅かに緩む。
「良い一撃ね。文字通り、魂の籠もった一撃ってやつ。で、も」
《タンジー》の拳が固く握られる。自身の頭ほどもある拳が振り上げられる。まともに受けてはいけない。分かってはいるが、拳を打つべく伸ばし切った身体はすぐに回避に移る事は出来ない。
「あたしを揺るがすには足りないわ」
振り下ろされた《タンジー》の一撃は、隕石の様な衝撃を伴って《ファントム》を叩き伏せた。頑強な《ファントム》の装甲はそれを耐えるが、本体を伝わる振動が致命の一撃となる。
「潰れちゃったかしら? 筋は良かったんだけど残念……ん?」
《タンジー》は立ち上がる《ファントム》を見て一瞬呆気に取られる。頭を軽く叩きながら立ち上がると、再び構えを取ったのだ。
「おかしいわね、ちゃんと頭を狙ったのに」
「その程度じゃ、僕は殺せない」
《ファントム》はフラグメントメイスを生成。《タンジー》の頭部目掛けて薙ぎ払った。
打突部は寸分違わず《タンジー》の側頭部を叩いた。
「ごめんなさい。あなたを見くびっていたわ。戦場でそんな事したらいけないのに」
だがその首は一切揺るがず、《ファントム》を見据えている。
「ぐっ!?」
「今度こそ本気で行くわ。そんなんじゃ死なないって見込んで、ね」
《ファントム》の頭を掴み上げると、力の限り振り回す。そのままビルの外壁へ叩きつける。
「っっっ!!」
「これでもまだ耐えるのね。仕方ない」
《Now Loading……Now Loading……》
《タンジー》は装置をスライド。外壁に埋め込まれ、身動きの取れない《ファントム》へ、
「ダメ押しよ。死なないでね坊や」
《Update Complete Crash Void Finish》
肩の刃にエネルギーを纏い、タックルをぶつけた。《ファントム》の身体は外壁を突き破り、向こう側のビル2棟を貫通し、やがて衝撃音が止む。向こう側から再び音が聞こえる事はなかった。
「回収なさい。もう抵抗する力もない筈。ま、しようにもあなた達で十分鎮圧出来るでしょうけど」
《マストタイプ》へ指示を送り、その背を見送る。変身を解いたネルソンは小さく息を吐き、肩を軽く鳴らした。
「ほんとはフェアな条件で戦いたかったけど、任務に私情は挟めないの。楽園の柱として頑張って頂戴」




