Decisive②
《イグナイトリーパー》は炎を纏う蹴りを何度も叩き込む。
「これが、炎の錬生術師の真の力か!? だが!」
「くっ!?」
両刃剣が《イグナイトリーパー》の足の刃を噛み、空いた右腕に掘削機を生成。回転させながら《イグナイトリーパー》を削り払う。
見れば《ソロモン》の水晶の様な装甲には焼け跡が刻まれていたが、すぐに剥がれ落ち、新たな装甲が生長していく。
「君は楽園に行く資格を失った。……残念だよ。君は彼とよく似ていた。私の理想を理解してくれた彼に」
「誰の事だ」
「初代炎の錬生術師……私の師匠、だろう?」
その時、《ソロモン》の背後、晶達のすぐ後ろから声が響いた。
「私の事なんて覚えていないと思うが。かくいう私も少し前まで忘れかけていたよ。現代の言葉で言うなら、フラグメントの技術を用いた仮想空間技術」
ザクロは晶の方を見て小さく頷くと、《ソロモン》へ再び向く。
「もっとも、私が師匠に連れられて会った時は何処まで構想していたか知らないが。君の本分はフラグメントエネルギーを用いた自律人形の研究だった筈だ」
「私は君の事をよく覚えているよ。私の研究に対しては冷めた目で見ていたが、彼と同じく理論をよく理解していた」
《ソロモン》は右腕の掘削機でザクロを指差す。
「故に残念だよ。君も私の楽園に行く資格があった。そのつもりなど更々無いようだが」
2人が話している隙に《イグナイトリーパー》は手元へヴィトロサイズを出現させ、半ばから分断。ハーフサイズ形態へ変形させると、《ソロモン》へ斬りかかる。
「当たり前だ。フラグメントエネルギーは万能じゃない。それだけでは楽園なんて実現不可能。そこで目をつけたのが」
《ソロモン》は体と両刃剣で2つの炎鎌を受け止め、掘削機で迎撃。《イグナイトリーパー》は掘削機を蹴ろうとするが、回転で弾かれ、足の装甲を削られる。
「コネクトチップと、サーバー」
今度は両腕を鉈へ変え、連続で《イグナイトリーパー》へ斬りつける。ヴィトロサイズの二刀流で対応するも、手元からはたき落とされ、《イグナイトリーパー》は突きと斬り払いを立て続けに喰らってしまう。
「現代の科学力も中々なものだ。そしてそれに目をつけた君も。君がどうやってこの時代まで生き延び、コネクトチップの存在を知ったのか。おおかた予想は付いている……が、それは今、論ずる事じゃない」
だが構わずにザクロは話し続ける。そして《イグナイトリーパー》も彼女の意図を汲んでいるかの様に、再び立ち上がって《ソロモン》へ挑み掛かる。
「話が長いのは師弟で同じか。議論は良いが、雑談は趣味ではなくてね」
「今更それを言うかい? ……だが、君が自分の話を聞いて欲しがってたおかげで」
その時、ある方向から鈍い輝きが《イグナイトリーパー》と《ソロモン》を照らす。
「今度は何だ……?」
「残念ながら私はコネクトチップについて専門外だ。その道の専門家に任せるとしよう」
ザクロが不敵な笑みを浮かべる。《イグナイトリーパー》は狙いが一緒だったことに思わず笑い声を溢した。
「さぁ、ヒーローの出番だ、桜くん」
《ソロモン》に吹き飛ばされ、一瞬意識を失っていた《リンドウ》。
地に足がつかない感覚ですぐに夢を見ていると気づく。だがどんなに意識を現実へ浮上させようとしても醒めない。身体が動かない。
「まずい、こんなことしてる場合じゃないのに……!」
が、その時、目の前に気配を感じる。忘れたことはない。《リンドウ》として戦ってきた歴史の、1つの決着。その相手。
『君は変わらないね、日向桜』
「ノア……!?」
かつて人間を支配し、管理しようとしていた存在。桜とその仲間達と戦い、敗れた。だがその中で確かに分かり合えた、桜にとってずっと忘れられない存在。
ノア。
「どうして……!?」
『私の残骸に突っ込んで来たのは君の方だろう。あぁ、だが運が良かった。君が突っ込んだのはサーバーの記憶領域。僅かに残された私の意思がある場所だ』
ノアの口調は穏やかだった。最期に語らった、あの短い時間に聞いた時と同じもの。
「そうか……こんな状況じゃなきゃ、ゆっくり話したかったんだけどな」
『どのみち記憶領域の損傷も激しい。すぐに機能は停止する。こうして話せているのも奇跡に近い』
「それは残念だ。みんなにもまた会わせたかったんだけど」
『私の残骸が未だに被害を生んでいるというのに……だが、消える前に話せて良かった』
と、桜の身体が徐々に浮かび上がっていく。意識が醒めようとしている。
『困っているんだろう? 現実の世界に私からの土産を残す事にするよ。大事にしたまえ」
「み、土産? 分かった! この戦いが終わったらみんなにも分ける! お前からの土産!」
ズレた回答をしながら浮き上がっていく桜を見送りながら、ノアは笑う。
「じゃあなノア! またいつか会おう!!」
『……それでこそ』
『私を救ってくれた英雄だ、日向桜』
「……あ」
目醒めた《リンドウ》は自らの左手、プラグローダーを見る。そこにはかつて奇跡を起こしたものと同じ形、それでいて無機質な灰色をしたローダーが接続されていた。
「土産ってこれのことか」
刹那、ローダーが鈍い輝きを放つ。周囲に散らばるサーバーノアの残骸が中へ吸収され、輝きは灰色から恒星の輝きに似た銀色へ変わる。
「……ありがとう、ノア!!」
「なんだ、その装置は……?」
《リンドウ》は立ち上がり、一歩踏み出す。左手のローダー ── アークローダーを見た《ソロモン》の声が歪む。
「贈り物だよ。俺の友達からの、な!」
《Connection Server Noah》
7つの端子が中央装置に浮かんだピュアチップへ接続される。
《Server Cem approve Arc Sistem Connection》
《リンドウ》の両隣に並び立つ、天使と悪魔の影。それは《ソロモン》はおろか、彼岸すら知り得ない新たな力。
『この気配は……ノアの力か!?』
「ノ、ノア?」
「変身!!」
《英雄、煉獄の主と共にありて!! 理想郷を破壊し己が正義を示せ!! Inferno the Hero!! 我らの贖いは、果てなき未来の最奥まで》
その姿を、彼岸だけは知っていた。かつて《リンドウ》が変身した究極の形態、《セブンスロード》のもの。その色は正義を示した気高い白ではない。正義の中に罪と贖いを背負った、灰色。
《リンドウ》の新たな形態、《セブンスロードルイン》。
「どんな姿になろうが、私を倒す事など……」
「だろうな。だからお前には俺達と同じ土俵まで降りて貰う」
「何を言っている?」
《リンドウ》のアークローダーが光を放つ。光は波動となって周囲を伝わる。だが《イグナイトリーパー》達には何の影響も起きない。
「ぐぉぉっ!? な、にを、し……ぁぁぁ!?」
光の波動はただ1人、《ソロモン》のみに牙を剥く。水晶の装甲は見る間に剥がれ落ち、真の姿が露わとなっていく。
「サーバーソロモン、たった今お前を停止させた。俺達人間と同じ場に降りてこい、楽園の創造者」




