Decisive①
倒れる影春の身体が地面に着くより早く、《リンドウ》は抱き止めた。同時にアウェイクニングローダーが砕け散り、変身が解けた。
「俺は…………」
「ずっと、償わなきゃいけないと思ってる」
その声は先程までと違い、小さかった。
「どんな理由があっても、事情があっても……お前にとっての俺は、両親を殺して、弟さんを助けられなかった仇だから」
「…………違う」
影春は静かに桜の手を解き、自らの足で立った。
「お前は……俺と、弟の命を救ってくれた恩人だ……辛い現実から逃げ出して、お前を……」
その時、自分達を覆う影に2人は気づく。空を見上げると、無数の《マストタイプ》が空を舞っていた。
「なんだあれ!?」
その流れを目で追うと、《マストタイプ》は電波塔の頂上へ集まっていた。
「電波塔……楽園の、メインサーバーがある場所だ」
影春はその場に座り込む。
「行け……俺なんかに構ってる場合じゃないだろ」
「良いのか?」
「お前のおかげで目が覚めた。弟にはまた……俺と弟が生きている世界を見せてやりたい」
「……分かった!!」
桜の元へ、街中を囮となって駆け回っていたトライアングルホースが駆けつける。それに跨りスロットルを全開にしようとしたところで、
「あっ、忘れてた!!」
桜は振り返る。
「名前! 教えてくれないか!?」
「……橘、影春だ」
「影春、だな! 俺は日向桜!」
こんな時に自己紹介か、と影春は困惑した表情を浮かべる。だが、
「あとは任せろ」
そう言い残し、走り去って行った背中を見た影春の表情は、小さな笑みへと変わった。
「システム構築の進捗……残り1時間。このままでも完成するが……楽園に君達は不要だ」
晶と彼岸の元へゆっくりと近づいて来る《ソロモン》。ブレイクソードを持ち上げようとするが、
「いったた……!」
『天河晶!』
全身を打った時の傷は浅くなかった。蹲る晶に対し、彼岸はどうすることも出来ない。
「重大なバグは削除しなければ、っ!」
《ソロモン》の行手を、飛来した炎の鎌が防いだ。
「下の敵が急にいなくなったと思ったら……」
「ユナカさん!」
ユナカの手にヴィトロサイズが戻る。《ソロモン》に傷はついていないが、煩わしそうに斬られた場所を払う。
「炎の錬生術師……楽園を受け入れる気はないようだな」
「何度も言うつもりはない。ソロモン、お前の楽園を終わらせる」
「君ならば楽園を理解してくれる筈だ。そこの強者を気取る者達とは違う」
《ソロモン》が言葉を発する度に、ユナカの心臓を大きく揺さぶられる錯覚に陥る。
「君が望んだ世界が楽園にはある。君はそこで生きる資格がある」
「……っ」
真っ直ぐ《ソロモン》を睨んでいるにも関わらず、目の前の景色が歪んでいく。
「なんだこれは……」
「人間はどんなに意志を強く持とうと、本心には抗えない。望んでいるのだろう? 血の繋がった唯一の家族が生きる世界を」
手を伸ばす《ソロモン》。だがユナカの背後から響く足音に気づき、止める。
「やっと着いた」
「桜さん!」
階段を駆け上がったせいか息が上がっている桜が並ぶ。苦痛に表情を歪めるユナカの肩を軽く叩いた。
「っぁ!?」
「変な術でもかけられた?」
「いや、もう大丈夫。ありがとう」
未だ軽い浮遊感が残っているが、ユナカは首を振って意識の外へ追い出す。
「日向桜か。私が考える限り、最も楽園から遠く、楽園の障害となり得る存在」
「随分な物言いだな……その通りだけど」
桜とユナカは同時に構える。もう話し合うつもりはない、という意志を2人は行動で示す。
「よせ……と言っても聞かないか。仕方がない」
《ソロモン》は両腕を結晶で覆う。右腕は突撃槍、左腕は両刃剣の様な形状となる。
《Pure Armor Plug in 》
《リーパー・フラグメント》
《イグニスサラマンダー・フラグメント》
《リアクション!!》
桜はプラグローダーへチップを、ユナカはフラグメントゲートへフラグメントを装填。
「「変身!!」」
プラグローダーがスライド、フラグメントゲートが開かれる。天輪の光と、燃え盛る石門の炎の光が混じり合った。
《 英雄 物語の始まりを刻め The birth of Hero!!》
《ゲート カイホウ!!》
《炎舞・バースト!! イグニス・リーパー!!》
《リーパー・サラマンダーの法則!!》
《リンドウ》と《リーパー》が並び立つ。同時に走り出し、《ソロモン》へ仕掛ける。
《リンドウ》の拳を両刃剣で、《リーパー》の蹴りを突撃槍で防いだ《ソロモン》は、そのまま両腕で2人を払い除ける。
「そんな力では通用せんよ」
「ぐぁっ!?」
「うぉぉっ!?」
斬撃と刺突が《リンドウ》と《リーパー》を襲う。よろめきながらも怯まずに向かうが、
「ぅぅっ!?」
「ユナカ!? ぁったぁ!?」
《リーパー》の足が止まる。それに気を取られた《リンドウ》は《ソロモン》の両腕で交差に斬りつけられ吹き飛ばされてしまう。
「ユナカさん! どうしたんですか!?」
晶が呼びかけるが、《リーパー》は目を押さえながら動かない。それを見た彼岸はある事に気づく。
『ソロモンから異常な電波が放出されている……金識町の一般人を捕らえているものと同じだ』
「そんな! ユナカさんは錬生術師なのに……」
同じく半分しか紋章を持っていない晶は何の影響も受けていない。ならば何故ユナカだけが強い影響を受けているのか。
「俺には何の影響もないんだけど……って、んなこと気にしてる場合じゃない!」
《リンドウ》はスラスターブレイドとヴァイティングバスターの2本を呼び出し、《ソロモン》の両腕を無理やり押さえつける。
「ユナカ! しっかりしろ!」
「はぁ、はぁ……なんで……俺は、こんな世界……望んでないのに……!!」
遂に膝を着く《リーパー》。彼の目の前には、《リンドウ》も《ソロモン》も映っていなかった。
温かい陽の光に包まれたジュエルブレッドの中、朗らかに笑う仲間達、そして妹であるほたる。
だがその中に、ザクロはいない。
「違う、違う、違う!! こんな世界なんか俺は!!」
楽園の幻覚を振り払うように叫ぶ。だが理想の世界は《リーパー》の目に焼き付けるように映り続ける。
「気を強く持て! ユナカは強い! 楽園の幻なんか振り払える!」
「強者の理論に耳を貸すな」
《リンドウ》の拘束を捩じ伏せ、蹴り飛ばす。自らの本体だったメインサーバーへ叩きつけると、再び《リーパー》へ歩み寄る。
「君は強がっているだけだ。大切なものを理不尽に奪われた君は弱者。楽園で永劫の幸せを享受する権利がある」
「だ、めだ……耳を貸したら、ダメだ!!」
叫ぶ《リンドウ》を黙らせる為、《ソロモン》は右腕の突撃槍を射出。瓦礫と埃の嵐に呑まれ、《リンドウ》の姿が見えなくなる。
「さぁ受け入れたまえ。君にとって最適な世界、最も幸せな世界を」
「嫌だ……嫌だ……やめろ……!!」
《リーパー》の拒絶も虚しく、幸せな世界は全てを包む。
優しく微笑みながら手を伸ばすほたる。ユナカは彼女へ震えながら手を伸ばした。涙を流しながら。
「ほたる……ぁぁ、会いたかった……ずっと……!」
その身体を抱き締める。片時も忘れたことはない、愛する妹を力一杯抱き締める。
「お兄ちゃん」
「ほたる……そうだ……そうだよな」
それは気の迷いか、幻を見せられた影響か。ユナカは言葉を溢した。
「お前さえいてくれれば……もう現実なんか……」
その瞬間、ユナカを抱き締めていたほたるの目の色が変わる。そして、
「成、敗!!」
「ぶぐっ!?」
鋭い平手打ちがユナカの頬に刺さる。転がりながらパンが並ぶカウンターへ突き刺さる。
「ぁ、っつ……!?」
何が起きたの理解出来ず、目を丸くするユナカ。そんな彼に構わず、ほたるは足音を重く鳴らしながら近づくと、
「それでも私のお兄ちゃんか! 情けなーい!!」
「なっ……!? 俺はお前を……!」
だが次の瞬間、重い足音とは裏腹に頬を柔らかに包んだ。
「お兄ちゃんは、私のヒーローなんだよ。あとは分かるよね?」
「っ!」
夢から覚める感覚。それを認識した瞬間、目の前からほたるの姿が粒子となって消えていく。ユナカは手を伸ばす。
「いつまでも待ってる。だからお兄ちゃんの大切なもの全部、守ってね」
ほたるは、フラグメントへ姿を変えた。気高く輝く、不死鳥の炎へ。
「ぁぁ……そうだ……そうだったな!」
ユナカは迷わず手を伸ばし、その炎を掴んだ。
《ゲート カイホウ!!》
「なにっ!?」
《リーパー》の身体が突如、炎の竜巻に呑み込まれる。炎の翼を広げる、輝焔を纏う不死鳥へその姿を変化させた。
《業火絢爛!! Re バースト!!! イグナイト・リーパー!!!》
「ぬぉぉ!?」
《ソロモン》の首へ、炎の竜巻から突き出した蹴りが突き刺さる。
その視界に映ったのは、《リーパー》ではない。
《リーパー・サラマンダーの法則!! アペンド・フェニックス!!》
「楽園も、そう悪いものでもないのかもな」
《イグナイトリーパー》。
「ほたるにもう一度、火を点けてもらった!」
《イグナイトリーパー》は炎の翼を羽ばたかせながら突進。更に《ソロモン》へ蹴りを見舞う。
「くっ! 強者に毒されたか!」
「違う! 俺は弱いままだ! 弱くても俺は、ヒーローだ!!」




