Defend③
《ヒガンバナ》の行動の結果は、金識町の至る所で発現する。
「っ、と!」
モノリスが崩れ去ると同時に、中からザクロが転がり落ちる。
「どうやら、ユナカ達はソロモンの元に辿り着けた様だな」
埃を払い落としながら立ち上がり、周囲を見渡す。姿こそ見えないが、周囲からは《マストタイプ》の足音が聞こえて来る。
「が、状況はまだ不利なままか。ソロモンがこの程度で諦めるとも思えない。きっと第二の手を出す筈……」
見渡した景色の中、電波塔がザクロの目に止まる。ユナカの気配を感じ取った為だ。
走り出そうとしたザクロだったが、《マストタイプ》の足音がこちらに迫っていることに気づき立ち止まった。
「まったく酷いものだ。人柱に成り損ねたらもう用済みとはね」
曲がり角から姿を現すであろう敵へ、ザクロはヴィトロガンを抜いて待ち構える。
しかしそこへ別の音が乱入。銃撃音が響いた刹那、数体の《マストタイプ》の残骸が曲がり角から転がる。
『ナイスショットだぜ相棒!』
「えへへ、当たっちゃった」
車椅子に乗った少年、黒華透。そしてその周りを飛び回るレヴァナントの姿があった。透が手にしたイリガルヴィトロガンからは黒いエネルギーの残滓が溢れている。
『うぉーい炎の錬生術師の弟子ぃ! こんな楽しいゲームから俺達をハブるのは違ぇだろぉ!?』
「闇の……」
『ったく、ほんとは主催者側で参加したかったのによ。仕方ねえ、今回はプレイヤー側で我慢すっかぁ。てなわけで、頼むぜ相棒!』
「うん」
透の左手に出現したミッシングゲート。その中へレヴァナントは飛び込んだ。
《テネブラエ・レヴァナント》
《アナライズ》
伏せがちな瞼の間から覗く瞳の紋章が怪しく光る。迫って来る《マストタイプ》の軍勢を前にして、透が浮かべた笑みは崩れない。
「変身」
《ゲート カイホウ》
《Open the Gate!! Resurrected from the DEAD!! Unleash Tenebrae Revenant!!》
透の身体を包んだ炎球が突如拡散。《マストタイプ》に降りかかると、それらは瞬時に骸の装甲を纏った四肢へ変化。身体を粉砕しながら合体した。
《Let the Exciting Game Begin!!》
「さぁて! 遅れた分のスコア稼ぎぃ、気合い入れてくぜぇ!!」
イリガルヴィトロガンを乱射しながら戦場へ躍り出る《レヴァナント》。
普段なら厄介な彼等も、敵を惹きつけてくれるのならばありがたい存在だ。ザクロは《マストタイプ》の相手を任せ、電波塔へ向かって走り出した。
「あっ、おいそこは『ここは任せたぞ』くらい言えよ! それだけでやる気出るのによ!」
《マストタイプ》を撃ち抜き、分離した両足でドロップキックを決めながら《レヴァナント》は叫ぶ。が、無限に押し寄せる軍勢へ再び興味が移る。
「これは……彼奴の研究かぁ? 相変わらずだなあの青二歳はよぉ」
灼夜の両親は、1年前にスレイジェルの手によって奪われた。
彼等の目的は人間をデータへ変換して管理する事。それはかつて、《ノア》と呼ばれる衛星に搭載されていた人工頭脳による計画だった。
衛星本体が破壊された後も、残骸の複製プログラムによってスレイジェルは生まれ続けていた。今は存在しない主の使命を果たす為に。
だが彼等は人間をデータに変える力など持ち得ない。本来の役目であるジェノサイドの駆逐を放棄し、ひたすらに無意味な破壊を繰り返すだけの機械人形と成り下がっていたのだった。
灼夜の両親が共に帰路に着いていた夕刻、突如として街の中心に降り立ったスレイジェルが破壊活動を開始。倒壊した建物の瓦礫に呑み込まれた。
その時現れたスレイジェルはノアカンパニーの捜索網を巧みに潜り抜け、最も被害が大きくなる時間と場所を選んでいた。
速報を見て駆けつけた時、既に事態は終息していた。今でも鮮明に覚えている。持ち上げられた瓦礫の下から、事切れた両親の無惨な姿が現れた光景を。
「どうしてパパとママが死ななくちゃいけなかったの……どうしてパパとママを助けてくれなかったの……」
《アイビー》は声を震わせながら盾にスピアを番え、吹き飛ばされた《ユキワリ》へ向けて射出。腕のブレードを振るって迎撃するが、僅かに体勢が崩れる。
それは《ユキワリ》の精神の揺さぶりによるものだった。
「あんな地獄が繰り返されるくらいなら!!」
続け様に放たれたスピアは空中で分裂。《ユキワリ》を包囲し、あらゆる方向から突き刺さる。
「ぅ……!」
データシェアによる対策プログラムにより、装甲を貫通する衝撃は少ない。だがまだ立ち上がることが出来ない。
「世界なんて楽園に変わればいい……!」
未だに忘れられないあの事件と灼夜の話が重なる。衛星ノアが落ちて以降では、スレイジェルが同時多発的に出現した初めての事例だった。
調査員であった桜、山神、睡蓮だけでは手が回らず、蒼葉も現場へ駆けつけた。スレイジェルの破壊は問題なく遂行出来たものの、街への被害は甚大なものとなってしまった。
そして灼夜の両親を瓦礫の下から見つけ出したのは、蒼葉だった。
「……ごめんなさい。助けられなくて」
瓦礫をどかして2人を発見した時に溢した言葉。無意識の内に出ていたそれは、《アイビー》の憎悪を更に激らせる。
「許す訳……ないでしょ!!」
《Now Loading……Now Loading……》
プラグローダーの出力を高め、輝くスピアの照準を《ユキワリ》へ定める。跪いたまま動かない彼女へ、《アイビー》はスピアを解き放とうとした。
「っつぁ!?」
だがそれを、何かが《アイビー》の手元を撃ち抜く事で阻んだ。スピアの軌道は大きく逸れ、民家を撃ち抜く。
自らの手から滴る水を目にした《アイビー》は、次いで見た目の前の正体に絶句した。
「どう、して……!?」
「あなたは……?」
「良かった。思ったよりも酷い状況になってなくて」
ヴィトロガンを下げる灰簾は小さく息を吐く。《アイビー》と同じく状況が呑み込めていない《ユキワリ》へ手を差し出す。
「事情は聞いてる。助けて貰った礼、返させてくれる?」
サーバーから解放され目覚めた灰簾の元へ最初に訪れたのは、ザクロが飛ばしたカラスの置物だった。
『時間がない上に状況は悪い。だから手短に伝える。近くに君達を助けた援軍がいる筈だ。手を貸してあげたまえ』
伝言と共にカラスは飛び立ち、灰簾を《ユキワリ》の元へ案内したのだった。
「……そう。彼岸達がやってくれたのね」
《ユキワリ》は灰簾の手を取り立ち上がる。自分達が助けた存在が、今度は自分達を助けるべく手を伸ばしてくれる。
彼女の英雄が信じている正義はきっと、こんな形で巡っていくのだろう。
灰簾は《ユキワリ》が立ち上がると同時に、自らの腕にフラグメントゲートを出現させた。
「……今更2人がかりで、この状況をなんとか出来るとでも?」
《アイビー》はそんな2人を嘲笑う。しかしその声に余裕の色は無い。
「それは今から分かること」
その声色を読み取った灰簾は構わずにフラグメントゲートを起動する。
「変身」
《ゲート・カイホウ!!》
《水渦・カタラクト!! アクアレイス!!》
灰簾の姿が《レイス》へ。《ユキワリ》の隣へ並び立つ。対して《アイビー》の背後には再び無数の《マストタイプ》の軍勢が並ぶ。
状況は変わるのか。それはこれからすぐに分かることだ。




