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Defend②

 

 《ロベリア》の肩のライフルが前方を向き、エネルギー弾を無差別にばら撒き始める。《リンドウ》はすぐにシールドを構えるが、

「なっ、ぐぅ……!?」

 弾丸は小さいにも関わらず、《リンドウ》は瞬く間に押されていく。前に進むことすら叶わなず、身体の装甲を見ると掠った箇所が抉られていた。

 エネルギー弾の雨を絶やさないまま、《ロベリア》は背中のブースターと両腕のスラスターブレイドを点火。一瞬の内に距離を詰める。

 振るったスラスターブレイドは《リンドウ》のシールドを弾き、よろめいた身体を交差に斬り払う。

「うぁっ!!」

「終わりだ!!」

 右腕を大きく引き、《ロベリア》は鋒を突き出した。噴射炎の加速を乗せた一撃を《リンドウ》は見逃さず、シールドを合わせたが、

「っ!」

 純白の盾が砕け散る。鋒は止まるものの、斧刃を備えた膝蹴りが《リンドウ》の腹部を打ち抜く。


 吹き飛ばされた先で装甲が剥がれ落ち、元の《ピュアフォーム》へ姿が戻ってしまう。見ればVUローダーにヒビが入り、破片が地面に落ちていた。

(蒼葉に怒られるなぁ、これ……)

 《リンドウ》は立ち上がると、《ロベリア》へ今一度向き直る。

「それだけの強さも覚悟もあるのになんで……!」

「遅かったんだ」

 刃が大きく震える。

「俺の大切なものはもう、この力じゃ助けられない……!!」

 《ロベリア》は絞り出す様に語りだす。《リンドウ》に聞かせるためではない。


 始まりは1年前。衛星ノアが落下した事件がようやく世間から収束しかけていた時だった。

 影春には家族がいた。父と母、そして弟。何処にでもいる、ありふれた幸せを噛み締める家族だった。

 しかしそんな幸せは、ある日突然、何の脈絡もなく奪われる時が来てしまった。


「父さんと母さんが、いきなり怪物に変わった……俺と弟と一緒に夕飯の買い物をしていた日に……!」


「怪物……ジェノサイドに……!?」

「もう俺たちの事なんか分かる状態じゃなかった。俺は奇跡的に助かったが……弟は1年経った今でもまだ目覚めていない……きっと、これからも……!!」

 肩のライフルが熱線を放った。《リンドウ》は呼び戻したスラスターブレイドで防御するが、防ぎきれずに彼方へ弾き飛ばされる。

「なら、君の父さんと母さんを倒したのは……」

「今でも忘れてない……意識が途切れる前に聞こえた怪物の断末魔と……お前の姿を!!」


 記憶が蘇る。


 衛星を破壊してからもスレイジェルやジェノサイドは出現し続けている。未だ回収出来ていない一部の残骸が意図しないままに複製プログラムを作動させている為だ。それ故に、『人間がジェノサイドに変異する』という現象は起きていなかった。

 だがある時、遂にそれが起きてしまった。スレイジェルやジェノサイドではなく、ジェノサイドウィルス自体を複製し、散布するサーバーの残骸。それが起動した影響で人間がジェノサイドへ変異する事例が再び発生し始めた。

 サーバー残骸の捜索、破壊を山神、睡蓮に任せ、桜はジェノサイドの撃破に向かったのだった。

「そうか……だから、ぐっ!?」

 《ロベリア》は両腕のスラスターブレイドで《リンドウ》を挟み、絞め上げる。


「お前が父さんと母さんを殺した……お前は弟を守れなかった!! お前達が!! 俺の家族を奪ったんだ!!!」

《Now Loading……Now Loading……》


 自動でプラグローダーがスライドされ、両肩の銃口へエネルギーが溜まっていく。

 《リンドウ》には拘束を振り払うことが出来ない。電光を走らせる黒い銃口が迫り、


「俺もお前も!! 楽園に行く資格なんかないんだ!!!」

《Update Complete Almighty Void Finish》


 至近距離から放たれた。薄い装甲しか持たない《リンドウ》は身体を焼き尽くされながら吹き飛んでいく。

 廃工場の壁に磔となり、それでもなお焼かれながら壁を突き破る。地面に落ちた時には《リンドウ》の装甲はほとんどが焼け焦げ、黒煙を立ち上らせていた。

「がっ……!? っ、まだ息があるのか……しぶとい」

 負荷で身体が傷つくが、《ロベリア》は構わず吹き飛んだ先へ向かう。赤く濁ったアイレンズは未だ《リンドウ》の命の鼓動が途絶えていないことを知らせていた。



 《リンドウ》は空を仰ぎ見ていた。《ロベリア》の過去、楽園の創造に加担した理由をずっと噛み締めていた。

(もう彼奴の父さんと母さんは助けられない……でも)

 だが、絶望した訳でも、悲観した訳でもない。

(彼奴自身と……弟は、まだ間に合う)

 それが2人の両親の命を奪った自分に残された役目であり、責任。

 息を切らせながらも立ち上がる。すると、彼方からこちらへ向かって走って来るエンジン音が耳に入る。


 メガロストライカー。車体は傷だらけで煙を僅かに吐きながらも《リンドウ》へ辿り着いたのだ。

 停車し、傾いた車体から何かが転げ落ちる。《リンドウ》は見覚えのある、否、忘れたことはないその装置を拾い上げる。

 同時にメガロストライカーから音声が流れ出した。


『VUローダーが壊れたら届ける様にプログラムしておいた。また無茶して危ない目に遭ってると思うから。試作品だからどれだけ保つか分からないけど、必ず生きて帰って来て』


「……分かったよ。みんなで帰ろう、必ず」

 廃工場の壁が破られた。炎の向こう側から歩いて来る《ロベリア》へ、《リンドウ》は振り返る。

「俺はお前の父さんと母さんを助けられなかった」

「……」

「これからもそれを背負って俺は戦う。助けなきゃいけない人達がいるから」

「まだそんなことを言うのか!」

「死んで償える罪じゃない。生きている限り戦い続ける。いつか死ぬ時まで誰かに手を伸ばし続ける」


 《リンドウ》は手にした装置 ── アウェイクニングローダーを掲げる。

「それが俺の正義……俺の、覚悟だ!!」


《Awakening Conect》


 プラグローダーと接続した刹那、《リンドウ》の胸から1枚のコネクトチップが飛び出した。

 恐竜が刻まれた漆黒のチップは、鎧を纏った竜が浮かぶ白と黒のチップへ姿を変える。それをプラグローダーの中へ装填。そのまま一気にスライドした。


《Awakening Load!!》


 《リンドウ》の装甲、そしてインナースーツが羽化する様に弾け飛ぶ。

「っ、その姿は……」

 中から現れた真の姿、鋭利な鉤爪を携えた《ディノニクスジェノサイド》を見た《ロベリア》は呻く。

 だが変化は止まらない。

「ウォォォアアアアアアッッッ!!!!」

 《ディノニクスジェノサイド》が咆哮を上げると、両手両足、そして頭部から身体の中心へ向かって天使の輪が通り抜ける。刹那の間に狂暴な恐竜の姿が、誇り高い竜騎士の姿へと変わった。


《英雄 試練の果て 狂気を希望へ変えよ!! Awakening of Hero!!!》


 赤いX型のコアが光を放つ。《リンドウ》が示した進化の一つ、《アウェイクニングブレイダー》となった。


「何度も姿を変えて……お前も怪物だった訳だ!!」

 《リンドウ》を再び捕らえるべく《ロベリア》は加速。両腕の刃で挟み込もうとする。

「あぁそうだ。何処まで頑張ったって俺の正体は怪物なんだ」

 《リンドウ》は真っ向から刃を掴み、押し返した。そして《ロベリア》を大きく突き飛ばす。

「なっ!?」

「けどそんなこと、俺が戦わない理由になんてならない!」

 かざした右手にヴァイティングバスターが出現。大地を踏みしめながらゆっくりと近づいていく。

「クソッ!!」

 《ロベリア》は肩からエネルギー弾を放って牽制。しかし《リンドウ》は自らに飛来するものだけをヴァイティングバスターで払い落とし、確実に距離を詰めていく。

 スラスターブレイドを振り下ろすが、ヴァイティングバスターがそれを受け止めた。

「俺は、負ける訳には……!」

「お前がいなきゃいけないのはここじゃないだろ!」

「なんだと!?」

「弟はまだ生きてるんだろ!? 家族が、兄さんのお前がそばにいないでどうするんだよ!!」

「知った様な口を聞くな!!」

 《ロベリア》は力任せに押し切る。

「父さんも母さんもいない世界で目覚めるくらいなら……楽園の中でずっと……!!」

「しっかりしろ!! 弟のことを一番信じてあげられるのも、助けられるのも、お前しかいないんだぞ!!」

「っ、黙れ黙れ黙れ!!」

 追撃に振るった斬撃を《リンドウ》は後方に跳んで回避。アウェイクニングローダーを、ヴァイティングバスターの柄に備わった竜の顎へ噛みつかせる。


《Awakening Conect》

《ギガ ヴァイト!!》


 ヴァイティングバスターの刃はエネルギーを纏い、竜の翼に似た形状となって巨大化。着地と共に一気に踏み込みながら薙ぎ払う。


《ギガ プレディションストライク!!》


「ぐぁぁぁぁぁ!?」

 《ロベリア》の胴体に喰らいつき、建物の壁に引きずられた後に吹き飛ばされる。

 ふらつきながらも立ち上がるが、身体に電光が走って膝をつく。先のダメージに加え、コネクトチップの負荷も身体を蝕んでいた。


 《リンドウ》はヴァイティングバスターを投げ捨てると、プラグローダーをスライドする。

《Awakening Loading……Awakening Loading……!!》


 《ロベリア》も痛みを耐え、プラグローダーをスライドする。

《Now Loading……Now Loading……》


「俺達から父さんと母さんを奪ったお前が、俺達の何を知った気で……!」

「俺にはお前の父さんと母さんを人殺しの怪物にする前に倒す事しか出来なかった」

 言葉を溢しながら、《リンドウ》はプラグローダーを更に何度もスライド。その度にエネルギーは増幅していく。

「俺のことはいくら怨んでも構わない。でも……今を懸命に生きてる人達まで巻き込まないでくれ」


《Over Loading!!》


 拳に光を宿して尚、《リンドウ》は動かない。刃に黒いスパークを宿した《ロベリア》は、震えながらも走り出す。


《Update Complete Almighty Void Finish》


「俺の前から消えろ!! リンドウ!!!」

 突き出された鋒は《リンドウ》の胸部を捉えた。だが彼の心臓を穿つ事は出来ない。


「辛い事しかないとしても、俺はみんなが生きる世界を守りたいから」

「ぁっ……!!」


 鋒が、砕ける。


《Update Complete Awakening Finish!!》


 《リンドウ》の拳は真っ直ぐ、《ロベリア》の身体の中心を打ち抜いた。



 《ロベリア》のプラグローダーはバラバラになり、外装も剥がれ落ちていく。

 徐々に視界が落ちていく中、影春はあの日の光景と、本当の自分の心を思い出す。


(本当は……分かっていたんだ……)


 こんな事をしても両親は帰って来ない。弟は目覚めない。

 あの日、自分と弟の命が助かったのは、《リンドウ》が助けてくれたから。



 本当に許せなかったのは、何も救えなかった自分だった。



(怪物になっていたのは……俺の方だったんだ……)

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