Invasion③
《ユキワリ》の足の刃と《アイビー》の盾が衝突。甲高い音が空へ響く。
「っ、なるほど!」
拮抗したのは刹那。《ユキワリ》の蹴りが《アイビー》を押し返し、吹き飛ばす。更なる追撃を仕掛けようと駆け出すが、行手を《マストタイプ》へ阻まれる。
「データシェア、使える様にしたの? さすが技術開発チーフなだけある」
「このくらい出来なきゃ務まらないの」
《ユキワリ》が《マストタイプ》を相手取る隙に、《アイビー》はスピアを3本生成。盾に番え、矢の様に射出。
「それはもう見た!」
別方向からそれぞれ飛来する矢へ向け、《ユキワリ》は跳び退きながらプレシオウィップを振るう。3本の矢を一薙で絡め取り、《マストタイプ》の群衆目掛けて投げ飛ばした。
「っ!」
爆散する《マストタイプ》には目もくれず、《アイビー》は小さく歯噛みする。援護射撃を指示しつつ再びスピアを生成すると、今度は接近戦を仕掛ける。
「やっぱりあなた」
《マストタイプ》の銃撃ではもう《ユキワリ》の装甲に傷をつけられない。安易に体術で迎え撃つことはせず、プレシオウィップを振るって迎撃。
《アイビー》はすぐにそれを防御。そうすることを予測していた《ユキワリ》が大きく跳躍。
「ぅっ!?」
それが見えていない《アイビー》ではない。だが防御した時の衝撃から体勢を立て直すより早く、《ユキワリ》は彼女の背後へ着地。
「このっ ──」
「はっ!!」
「っぁ!!」
身体を大きく捻って放たれた旋風脚が《アイビー》の背中を捉える。鈍い音と共に空気を全て押し出された《アイビー》は、苦悶の声を上げながらよろめく。
「戦いに関してはほぼ素人ね。初めて会った時から、システムに頼り切った戦い方に見えてた。データシェアで解析したら案の定だった」
「うる、っさい!」
振り返りざま、《アイビー》は盾を裏拳の様に振るう。だが《ユキワリ》はそれを躱すと、両足で《アイビー》の身体を挟み込み、地面へ引き摺り倒した。
「もうこんなことはやめなさい」
「うるさいって言ってるでしょ!!!」
《アイビー》は力任せに拘束を振り払うと、立ち上がりながらプラグローダーに手をかけ、出力を上げようとする。
「あぐっ!?」
しかしプレシオウィップがその手を絡め取ると、一気に引き寄せられる。そのまま《ユキワリ》のサマーソルトキックが胸を打ち抜いた。
落下した《アイビー》は少しの間のみ四肢を投げ出して倒れていたが、すぐに立ち上がる。
「私達を許せだなんて言うつもりはない。けど関係ない人間を巻き込んで復讐したって何も……」
「……じゃあ、今すぐ返しなさいよ」
《アイビー》の声は震えていた。
「スレイジェルに殺されたパパとママを! 返してよ!!」
「パパと、ママ……ぐっ!?」
その言葉は、蒼葉の心を大きく揺さぶる。それ故に《アイビー》が突き出した盾を躱せず、《ユキワリ》は大きく吹き飛ばされたのだった。
まるで蜂の様に《ネメシア》を追い立てる《クレマチス》の翼。速度こそ《ネメシア》の方が優っているものの、変則的な機動で裏をかくように狙う翼達に本来の速さを活かせていない。
「どうした、所詮はその程度か!」
「早計ね」
熱線を回避し、一度ビルの壁へ着地。《クレマチス》はそこを集中砲火する。それが《ネメシア》の狙いだった。
翼が熱線を吐き出した瞬間、その僅かな隙間を潜り抜けるように飛び立つ。《クレマチス》も気づいて残りの翼から迎撃しようとするも、トップスピードに達した《ネメシア》には当たらない。
「貴様!」
自身が手にしたライフルのトリガーに指を掛けるが、既に《ネメシア》は《クレマチス》の眼前へ到達。
「っ!?」
「どうも」
《ネメシア》の踵が振り下ろされた。反射的に身を捩った影響で頭ではなく肩を蹴り抜かれたが、《クレマチス》は錐揉み回転を繰り返しながら地面へ落下していく。
背中のジェットが炎を吐き、激突する寸前で滑るように移動、体勢を立て直す。
「偶然噛み合っただけで調子づくな!」
《ネメシア》を追尾させていた翼を呼び戻し、ライフルと共にビームを発射。尚も追跡してくる《ネメシア》を迎え撃つ。
それに対し《ネメシア》は自らの身体を回転させる。翼が自身を守るように身を包み、放たれたビームを散らした。
「少しくらい褒めてくれてもいいんじゃない?」
「誰が貴様なんか!!」
更に速度を上げる《ネメシア》。《クレマチス》のジェットも負けじと炎を噴出するが、差は瞬く間に縮まっていき、
「そうじゃないと!」
「っつぁ!? は、離せ!!」
「人が離れていくわよ!!」
《ネメシア》の足が《クレマチス》を捕まえる。蹴爪の様な刃は《クレマチス》の肩の装甲をひしゃげさせ、速度を乗せながら回転。地面へ投げ落とした。
「くぁぁぁぁぁ!!?」
何度も地面を跳ねる《クレマチス》。やがて歩行者信号機へぶつかって止まり、地に伏せる。
「私達を悪人だと思っているなら難しいかもしれないけどね」
「当然……だ……! 貴様がどんな人間だろうと、関係ない……我以外の人間は全員弱者だ!!」
《クレマチス》は信号機を殴りつけ、よろめきながらも立ち上がる。
「だからこそ楽園へ導かねばならない! 弱者は滅ばない様に管理しなければいけないんだ!」
「弱者、ね。自分以外はみんな弱者だなんて、あなたと一緒に戦ってる仲間に失礼じゃなくて?」
「ふん……奴等だってきっと心の何処かで……っ、貴様には関係ないことだ!」
不意打ちで《クレマチス》が放ったビームを、《ネメシア》は翼で防いだ。
「……昔の私にちょっと似てるかも」
時が止まった街の大地が震える。その発震源は、ビルに頭がめり込んだ《ホウセンカ》だった。両手を壁に押し当てて引き抜こうとするがビクともしない。
「抜けねぇ……!」
「なら手伝ってあげるわ」
その言葉と共に《タンジー》が《ホウセンカ》の足を掴み、力任せに引き抜いた。それで終わる筈もなく、道路へ《ホウセンカ》を叩きつける。
「所詮は素人。警察官の坊やの方が手応えあったわね……あら?」
再び持ち上げて壁に埋め直そうと力を込める。だが《ホウセンカ》の身体が全く動かない。
「舐めてんじゃねえぞコラァ!!」
「あらま〜!?」
道路に指の跡を刻むと同時、《ホウセンカ》は逆立ちの様に身体を立ち上がらせる。足を掴んだままの《タンジー》は宙を舞い、《ホウセンカ》と同じ様に道路へ激突した。
「こっちは実戦で鍛えたんだよ!」
「ふふ、ちょっと見直したわ」
2人はすぐに立ち上がる。最初に仕掛けたのは《ホウセンカ》。真っ直ぐ小細工のない右ストレートを打ち出す。
「でもあたしのことも舐めないでちょうだい。軍人が喧嘩殺法に負ける訳にはいかないの」
《タンジー》はそれを掌で包む様に受け止める。敢えて勢いは殺さない。その理由を反射的に悟った《ホウセンカ》はすぐさま拳を引いた。
「野郎、関節狙ってやがったな」
「意外と詳しいじゃない。露骨すぎたかしら。あと」
「うぉっ!?」
足を払われ、《ホウセンカ》は転倒。《タンジー》の巨体が圧し潰さんと迫る光景を目にし、すぐに転がって回避する。
「野郎って言わないでって言ったでしょもう。あたし心は乙女、かつ紳士、それでいて母なんだから」
「誰の母ちゃんなんだよ!」
「そりゃ何処かで戦ってるあたしの仲間達のよ」
《タンジー》は立ち上がると、軽く身体の埃を払う。仕切り直しと言わんばかりに。
「あなた、戦争地帯なんて行ったことないでしょ? 兵士も、街の人も、みんな虚しい目をしてる。その日を生きることに精一杯なのに、未来を想うことだって出来ない」
「そりゃ悲しいな。で、いきなり何でそんなこと」
「なんでここを楽園って言ったか分かる? ここでは争いなんて起きない。皆が幸せな世界の中でいつまでも生き続けられる」
《タンジー》の声色は優しく、それでいて何かを諦めた様なものだった。
「あなたが実戦を積んでいるなら、理解できるんじゃないかしら」
「……かもな」
《ホウセンカ》は小さく呟く。だが決して肯定の言葉ではない。
「けどそんな悲しい声で語られてもな。本気でこの楽園なんてもんを信じてる様には聞こえないぜ」
「んふふ……結構鋭い事言うわね。でも」
《タンジー》は再び構える。
「今の世界より楽園が良いと思っているのは、本当よ」
「……よし、そこまで覚悟決まってるなら」
《ホウセンカ》はあるものを取り出した。《タンジー》の命を奪ってしまうかもしれない。それを危惧して封印していた力を解き放つ。
《Let′s Burn!!!》
《燃えろ!! 激怒バースト!!!》
「俺も覚悟を見せる!!」
《タンジー》の覚悟を信じ、ヴォルケーノレックスローダーを起動した。
《Ground Quake! Blaze Fist! Blast Rush! Memory Revive!! Wake up Extinction!!》
煮え沸るマグマを纏うパキケファロサウルス、トリケラトプス、ティラノサウルスを身に纏い、《ホウセンカ》の姿が変化。
紅蓮の鎧と炎の拳を備えた形態、《ラースバースト》へと変わる。
「来いよ!! 全身全霊で、お前をぶっ飛ばす!!」




