警戒の範囲外
「へぇ〜里見くん、コーヒー派なんだぁ。好みのメーカーとか種類とかある?」
「ああ、店で飲むならブルーマウンテンとか好きだけど……」
「「「「キャーッ! 素敵!」」」」
「いやー……ハハハッ」
副部長の七瀬を初めとするテニス部女子達に褒められ、照れたように頭に手をやりつつ、俺は内心思っていた。
なんて中身のない会話なんだ……。
長年染み付いた習性で、つい女子達には彼女達の望む理想の王子様像を演じてしまうが、正直かなり疲れる。
例の二股事件により、周りからは遠巻きにされ、人間関係は狭くなったが、りんご、恭介、そして宇多川に対してでさえ、思った事だけを口にしていればよかっただけに、余計そう感じた。
風紀委員の査察の時も、王子役を演じていたが、あの時は西園寺が怖いから、そんな事を考える余裕もなかったな。まぁ、風呂場を覗くような変態と相対するよりマシかもしれんが、などとと思っていると……。
「んーっ。ふぅっ! はぁっ! そばに寄らないで下さいましっ!」
…!! ||||||||
いつの間にか、望まず思い浮かべていた西園寺(西園の姿)が談話室に入って来ていて、部長の松平に噛みついていた。
俺は動揺しつつ、女子達との会話を続けながら、様子を伺った。
「あなたのせいで、余計に具合が悪くなりますわっ!!」
西園寺の視線が松平の下半身に行き、ハンカチで口元を押さえたのを俺は見逃さなかった。
やはり、脱衣場に忍び込み松平と出会した不審者は西園寺で確定……!!
「な、何だよ。西園。 男子部員が腐っているから、気分を変えようと自販機で皆の飲み物を買いに行ってやろうと通りがかっただけだったのに……。
分かった、すぐ行くよ……」
松平は被害者にも関わらず、加害者の西園寺に理不尽な物言いをされ、本当に気の毒だった……。
近くでその様子を見ていたらしいりんごと宇多川も、呆れた表情になっている。
「あの、私も飲み物運び要員になります!」
「お? 森野、悪いな」
……!
その直後、りんごは松平にそう申し出たので、俺は目を見開いた。
宇多川に、具合が悪そうな西園寺の世話を頼むと、りんごは松平と談話室を出た。
まぁ、りんごはよく気のつくいい奴だし、この状況を気の毒に思って、松平を手伝うのは不思議ではないのだが、男子が苦手な筈のりんごが敢えて松平と廊下で二人きりになる選択をした事に少し引っかかりを覚えた。
「あれ〜? 今、部長、森野さんと談話室出て行かなかった?」
「えっ。もしかして、二人って、そういう……??」
山部、海津を始め、部屋の隅に固まっていた男子部員達がざわついていた。
「えっ。森野さん、松平くんと外へ出て行っちゃったの?」
その空気に流石に七瀬達女子部員も気付いて、驚いていた。
「っ……!」
俺が否定したい気持ちでいっぱいでいると、宇多川が大声を出した。
「皆さん、違いますよ! りんごは、飲み物を買いに行く部長を手伝いに行っただけで、そういうんじゃっ……」
宇多川は大きく両手を振り、否定しようとしたが……。
「いいえ。松平部長は間違いなく森野さんに気がありますわね!」
「「!?」」
西園寺(西園)が声高らかに宣言した。
「今日一日、松平部長は森野さんの事をずっと見ていましたもの! 森野さんの側にいたのに気づきませんでしたの〜?」
「なっ……!!」
……!!
西園寺が宇多川を煽るように言った言葉に、俺も胸を突かれた。
そう言われてみれば、松平は、いつもりんごにきつい練習を仕掛けに言っていた。
合宿の間は男女別で練習となっているのに、今日なんか副部長の七瀬に怒られてまで……。
テニスには熱くなってしまう奴だからとそこまで深く考えていなかったし、西園寺が現れてからは、そちらに気を取られてしまったが……。
『くだらん!! お前ら、軟派な話ばっかりしよって! 色恋沙汰なんて、もっとテニスで実力をつけてからにしないか!』
風呂の時、りんごの話が出た時に松平の様子がおかしかったのは……!
「森野さんなんて、私は趣味が悪いと思いますし、興味もありませんが……、やはり女性は慎み深く上品な私のような……」
ガタンッ! ダッ!
「さ、里見様っ!?」
「里見くんっ!?」
西園寺(西園)はまだ何か言っていて、七瀬にも止められた気がしたが、もう俺はそれどころでなく、席を立ち、談話室の戸口へ走り出した。
*あとがき*
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