059 【自然】音、【人物】女王
全国オヤジバンド選手権の控え室は、熱気と煙草臭さで満たされていた。定年間際の壮年男性が、十数人も詰め込まれているのである。半数近くがでっぷりと肥えていることもあって、人によっては息苦しく感じるに違いない。
だが当の男達は、特段気にする様子もない。それどころか、見ず知らずの相手と熱心に語りあい、また呵々と笑いあっていた。いい歳して音楽に打ち込む者同士、自然と会話も弾む。少々の狭苦しさなど、気にもならなかった。
話題は好きなアーティストに受賞歴、音楽歴など様々。だが最も多いのは、自慢話だった。語る方も囃す方も、まるで小学生のように目を輝かせていた。
「俺らは、古草町のクイーンと呼ばれていたんだぜ」
もじゃもじゃ頭の男が胸を張ると、耳を傾けていた者達が一斉に吹き出した。なんだそりゃ、手前味噌もいい加減にしろよ、という野次が飛ぶ。しかし当人も、その二人の仲間達も、眉一つ動かさなかった。小太り縮れ毛と細身のノッポが、続けざまに言った。
「ああ、確かに俺らは古草町のクイーンだったとも」
「ウィ・ウィル・ロック・ユーにショウ・マスト・ゴウ・オン、キラー・クイーン、アイ・ワズ・ボーン・トゥ・ラヴ・ユー……有名処はだいたい押さえてあるぜ」
熱狂は収まらない。むしろ、火に油を注いだようなものだった。ちょっとやってみろよ、というコールが巻き起こるまで、それほど時間はかからなかった。
「ふん、そんなに聞きたいか」
「こりゃあ、要望に応えないとなぁ」
「よし、いっちょやってやっか」
三人は目線を交わすなり、準備を始めた。慣れた手つきでキーボードの電源を入れ、電子ドラムを組み立て、エレキギターのシールドを年季の入ったアンプに繋ぐ。観衆が言葉にならない声で煽り立てる中、ギターを構えたもじゃもじゃ頭が高らかに宣言した。
「それじゃ、一曲いくぞぉ! ――アンプがオンボロだったから、音割れするだろうけどなっ!」
聴衆の一人は、後にこう語っている。
「ああ、間違いなくクイーンだったよ。耳鳴りが、ね」




