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058 【武器】ナイフ、【器物】戦記

「今年はまた、随分と傾向がはっきりしているな」

 出版社の編集長が、書類に目を通しながら呟いた。今年度の新人小説大賞の応募作品一覧である。ジャンルの欄には、同じ文字がずらりと並んでいた。

「戦記ものが、半数に達しかねないほどどとは」

「間違いなく、大河ドラマの影響でしょうな」

 秘書の男が、用の済んだ紙をまとめながら言った。

「今の時代にあって、視聴率が二割を下回った回がないなど、奇跡と言うより他はないでしょう」

「ああ、私も見ていた。なかなかに見応えのあるものだったよ」

「おや、編集長もですか」

「そりゃチェックは欠かさんよ。……しかし、こう言っては何だが、大半は箸にも棒にもかからんものだろう?」

 一覧表の右端には、総合評価が数値で表されていた。ほとんどが3点か4点、時折6点が目に入る程度。1や2、果ては0もちらほら見かけられた。

「10点満点中でこれとは。人気だから、というだけでジャンルを選んだ奴が多かった証拠だろうな」

「まったくですね。数は多いですが、ジャンルごとの点数の平均を求めたところ、戦記ものが最低でした」

「あらゆる意味で経験不足なのだから、書き慣れたものを書けばいいものを」

 渋面の編集長は、ぼやきながら書類を捲る。そこで、ある一行に目を止めた。眉間の皺が、にわかに解れた。

「おい、この応募作……随分と高評価のようだな。9点とは……合格ラインに十分入っているぞ」

「お、それですか。選考委員の間でも、注目を集めているんですよ」

 嬉々とした様子で、秘書は語り始める。

「ジャンルとしては戦記ですが、正確に言うなら架空戦記ですね。それも、群像劇風の」

「群像劇か……、新人賞でやるには少しリスクがありそうだが」

「マイナス1点になったのは、それが大きな要因みたいですね。逆に言えば、それ以外の瑕疵がほとんど見当たらない。文章は上手く、句読点の打ち方も過不足なく、描写や説明も分かりやすい。テンポもいいですし、キャラの個性と魅力も十分引き出せています。恐らくですが、普通のラブコメを書かせても結構いいものができると思いますよ」

「君がそこまでベタ褒めするのも、珍しいな。それで、どんなストーリーなんだ?」

「一言で言えば、一本のナイフを巡る物語、ですね。ふとした手違いや偶然、あるいは必然等々からいろんな人の手に渡り、それぞれの持ち主と共に艱難辛苦を乗り越える……大体こんな感じです」

「ふむ。しかしそれだけではないのだろう?」

「勿論。ナイフを手にする登場人物は、皆、歴史上で活躍した人たちばかりでしてね。革命家、軍の指導者、救国の英雄などです。そんな彼らが、たった一本のナイフで運命が変わっていくんですよ」

「ほう」

「暗殺されかかった時の護身具として使われたり、木にメッセージを掘るのに使用されたり、路銀に換金されたりと、用途は色々ですけどね。ともあれ、そのために歴史全体が少しずつ、しかしはっきりと史実から離れていく。その様が、何気ない描写の端々や事件の顛末を通じて描かれていく。……そんなIFの戦記です」

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