056 【器物】飲み物(ミルク)、【人物】忍者
ニューヨークはマンハッタン、タイムズスクウェアの片隅に、その飲み屋はあった。入店した記者を、経営者が笑顔で出迎えた。両者共、日系人だった。
「人種の坩堝と呼ばれるアメリカだからこそ、こういうバーが受ける」席につくなり、店主が言った。「私はそう踏んで、この店を始めました」
「なるほど」
記者は手帳にペンを走らせながら、店内を行き交う店員に視線を向けた。
「確かに、これはいいアイディアですな」
「まあ、うちが初めてってわけでもなかったんですがね。さて、一杯いかがです」
「頂きましょう」
呼び鈴が鳴らされる。無味乾燥な電子音ではなく、鼓の音が響き渡った。程なくして、若い女性の店員が駆け寄ってきた。
何よりも目を引くのは、その衣装である。所謂、忍者のコスプレだった。袖なしの黒い着物に、露わになった腕や太腿が映えていた。注文を聞いて去りゆく女忍者の、タイトスカートのように短い裾に、つい視線が釘付けとなる。
「いかにも、って感じでしょう」
店長の得意気な言葉に、記者は慌ててペンを持ちなおした。
「衣装、小道具、あと壁紙やインテリアなどの内装。とにかくジャパニーズって感じを出してみたら、思いのほか人気が出ましてね。男性だけでなく、女性にも多くのリピーターがいるんですよ」
「となると、女の子が目当てでやってくるお客もいるのでは?」
「それはもう。あの子が特に評判ですね」
指し示された先にいたのは、二十代前半と思しき日系の女性である。カウンターでカクテルを作っているところだった。配分を間違えないためか、グラスをじぃっと見つめながら、牛乳を注いでいる。
「おお、これは確かにいい」
「そうでしょう、そうでしょう。特に、照明に照らされたうなじのあたりが……」
「ああいや、そこではなく」
「と、言いますと?」
「日系人のあなたなら分かるでしょう、この状況」
「すみません、もう少しヒントを」
「ほら、洒落が効いているじゃないですか。ミルクを見るくノ一、なんて」




