表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/60

048 【武器】盾、【属性】美しさ

「……へぇ。街道強盗が頻発している、と?」

「おうとも」

 酒場の主人の話を、女冒険者は神妙な顔で聞いている。

「ここから隣町までの間にある森のどこかに、根城を構えたらしい。商人や旅人を片っ端から襲って、金も物も人も掻っ攫っていっちまうんだ。何度か討伐隊が派遣されたが、なかなか撲滅には至っていないな」

「なるほど。ありがとね」

「構わんさ。お譲さんみたいな別嬪さんは、特に気をつけておけよ?」

 礼と共に退出する。その足で向かったのは、服屋だった。扉を潜るなり、この店で一番高価なマフラーを、と頼んだ。店主の老婆が、眉を顰めた。

「……あんた、見たところ旅の方かな」

「ええ、そうだけど」

「街道を突っ切るのかい」

「明日の朝、出発する予定ね」

「強盗の話、聞いていないのかえ」

「いいえ、知っているけれど」

「ならば、何故。自ら追い剥ぎしてくださいと言わんがばかりじゃないか」

「んー、そうでもないよ?」

 女冒険者は胸を張りながら、堂々と言った。

「目立った方がいい場合もあるってことよ」


 翌朝。街を出て百歩も歩かない内に、六人の野盗に取り囲まれた。十二個の血走った目が、真っ赤なマフラーに釘付けになっている。

「なんだぁ、こいつ? 鴨が葱を背負ってやがんぜ」

「顔もいいし、着ているもんも上等! こりゃいい獲物だぜ!」

「そらぁ、死にたくなかったら持ち物有り金ぜんぶ置いていきなぁ!」

 一斉に襲いかかられる。だが彼らの拳や短剣は、一つとして女冒険者に届くことはなかった。一番手の突きをひらりと避けつつ、薄汚い顔面に裏拳を叩きこむ。血を流して仰け反る男を尻目に、二人目の鳩尾を蹴りで狙い打った。悶絶し倒れ込む頃には、思わぬ反撃に硬直していた者が二人、それぞれ肘鉄と踵落としで撃沈している。

 時間にして、五秒も掛からなかっただろう。女冒険者は息ひとつ乱さないまま、赤マフラーを風に棚引かせていた。

「あら、こんなもの? 存外、ひ弱なのね」

「ひ、ひぁ……」

 生き残りは完全に色を失っていた。奥歯をがちがちと鳴らしながら、震える足で後ずさろうとしている。片方が転倒した。そして次の瞬間には顎を蹴り上げられて、意識を喪失した。

「さぁて、残りは一人、と」

「た、助けてくれぇ! 命だけは……命だけは!」

「あ? 誰が殺すって言ったのよ」

 フードを脱ぎ払いながら、女は言った。秀麗な眉の下に収まった紺碧の瞳が、野盗をねめつけた。

「代わりに、帰って仲間に伝えなさい。この顔、この赤マフラーを記憶なさい。私は逃げも隠れもしない。来るなら来い、ってね」


 数日後、酒場の主人は吃驚仰天することとなる。見覚えのある美女が、前に見た時よりも目立つ装いで現れたからである。真っ赤なマフラーはもとより、金の刺繍が施された深紅のコートなど、とてもではないが旅装には見えなかった。

「あんた、街道を往復してきたんだよな?」

「ええそうよ。もう用事は済んだから、後は帰るだけ」

「何でまた、そんな派手な格好で? よくそれで狙われなかったな」

「いや、狙われたわよ? というか、そのために着たわけよ」

「……おいおい。どういう絡繰なんだ、そりゃ」

「んー……そうね、ヒントだけは上げようかな」

 麦酒を煽ってから、そっと呟いた。

「綺麗な薔薇には棘がある、ってね。身を守る手段は一つじゃないのよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ