047 【器物】調味料(ハチミツ)、【器物】ペン/筆記具
「今度こそ、凄いものを発明したぞ」
父が唾を飛ばしながら、そんなことを言ってきた。俺は大袈裟な溜息をついた。
「それで、今度はどんなゲテモノを?」
「ゲテモノとは何だね。失礼な」
「点けた瞬間に爆発するライターとか、トゲトゲだらけで掴むことすらできないカラーボールとか、超小型ジェットエンジンのくっついたスリッパとか……まあ要するにこういう、実用性のないものだよ」
「浪漫に口出しするとは、無粋な奴め。いいから後で、俺のところに来い」
捨て台詞を吐いて、部屋に籠った。親父はいつもこうだ。訳のわからないものを自由気ままに作っては、周囲の人々に押し付けてくる。家族も例外ではない……どころか、いの一番に狙われる。
(逃げたいなぁ)
内心とは裏腹に、俺の足は親父の部屋へと進んでいく。ここで顔を出しておかなければ、十中八九、機嫌を損ねる。そうとなると、何をしでかしてもおかしくなくなるのだ。就寝中に叩き起こされ、文句を言おうとした口に謎の白い液体を流し込まれた時は、原因不明の高熱で一週間も寝込む破目になった。親族に殺意を覚えたのは、あれが最初だ。そして願わくば、最後であってほしい。
どうせ逃げられないのなら、せめて十全な体調と覚悟で挑みたい。ある種の諦念を胸に、俺は親父の元を訪れた。
「で、今回はどんなのだ?」
「これだよ、これ!」
初見では、何の変哲もないマーカーにしか見えなかった。妙な突起やボタンもない。開け放たれた扉が後ろにあるのを確認してから、受け取る。重さも感触も、冷たいプラスチックのそれに他ならない。
説明を求めると、紙に何か書いてみろと言われた。実行してみて初めて、俺は発明品がどんなものかを知った。黒いインクの代わりに、粘り気の強い黄金色の液体が出てきたのである。甘い香りが、ほのかに漂ってきた。
「名付けて、ハニーマーカーさっ」
親父は得意気な顔をしている。俺は、さぞや苦々しい表情をしていたことだろう。
「……これ、何の役に立つんだ? 物を書いたところで腐敗なり虫なりで台無しになるから、保存性も糞もない。調理用として使うとしても、先端がちょっと硬すぎる。これじゃあ、パンやワッフルが裂けるだろう。どんな使い道があるんだよ」
「うむ、使い道か。その発想はなかった」
「……それとな。似たような指摘、もう何十回目なんだよ。いい加減覚えろって」
「元より忘れやすいのでな」
「じゃあメモか何かで残しておけ」
「ん、そうしよう」
すぐさま手近な紙片に書いたよ。俺の手から奪った、ハニーマーカーとやらで。
「いやだから、それだと意味ないんだって。蟻や黴でトラブりたいのかよ?」
「おおっと、そうだった。いかんいかん。またこんな初歩的ミスを犯してしまうとは……。発明道とは、こいつのように甘々ではないなっ」




