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042 【器物】網、【生物】精霊

 教授が取り出した瓶の中には、人の形をした物体が入っていた。大きさは、掌に乗る程度。弟子はその姿から、故郷の母が作ってくれたクッキーを思い出した。三等身であることといい、顔には黒い丸が三つついていることといい、そっくりである。違う点はといえば、白くて半透明である上に、まるで自らの意思を持っているかのように、円柱状の狭い空間内を動き回っていることだった。

「これは?」

「現在、私が研究しているものだ」

 弟子の問いかけに答える。

「自然界の気質が結集したもの、というのがひとまずの定義だ。霊魂の一種ではないか、と私は考えているが、まだ答えは出ていない。何せ、物理的性質と霊的性質を両方併せ持つから、我々としても何と定義したらいいのやら」

「名称はあるんですか?」

「まだ、ないな。各々の研究者や魔術師が、好き勝手な名前で呼んでいるよ」

「なるほど。……で、その隣にあるこれは?」

 次いで指差したのは、バケツのような形をした小型の炉である。中には火のついた木炭があった。そして格子状に編まれた針金が、上に乗せられていた。

「シチリン、と言う東方の品だそうだ。旅好きな友人に譲ってもらった。本来は魚や肉を焼くためのものらしい。」

「なぜ、そんなものが?」

「こうするためさ」

 と、教授は言うなり、瓶の中身を炉の上に出した。熱せられた金属の上で、人の形をしたそれがぶるぶると震える。熱さに悶えているようにも見えた。

「い、一体何が……」

「まあまあ、見ていたまえ」

 じっと見つめている内に、変化が起きた。少しずつではあるが、動かなくなっていったのだ。十分も経つ頃には、大の字のまま凝固してしまった。不思議なことに、焦げ目は一つもついていなかった。

「よし、完成だ」

「あの、これは一体」

「これで熱するとこういう形になるんだよ。霊的性質を失い、結晶状になる。そしてこれに、ちょっとした呪術的加工を施すことで、強力な魔導具の素材となる。上手く扱えば、自然の力を意のままに操れるほどさ。どういう理屈かは知らないが、このシチリンとやらで焼かないとこうはならないんだよ」

「なんと……。しかし、よくこんなの、発見しましたね」

「なに、色々と試している内に発見したのさ。十年はかかったかな」

「十年……」

 それだけの間、挫折と失敗を味わいながら、手を変え品を変えて研究を続けていたのだろう。でなければ、たまたま貰った料理器具で炙ってみるなどという発想には至るまい。

 縦横無尽に張られた執念の糸が、大自然の神秘の一端を捕えたのだ。

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