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039 【器物】毒、【人物】仲間

「体に悪いものは、今後一切、体に入れないぞ!」

 ある日、男はそう宣言した。添加物や人工調味料の危険性を説いた番組を見た後のことである。口に入れるものは全て、徹底的に調べた。成分表に僅かでも自然でないものが含まれていれば、どれほど空腹であろうと、手を出さなかった。いかなる薬もサプリメントも、捨てた。

「健康的で自然な生き方のためだ、俺は間違っていない!」

 そうは言っても、選択肢が大きく制限されてしまうのに変わりはない。ストレスと拒食で体重がみるみる減っていった。周囲に理解ある人がいなかったがために、気も滅入っていった。

 その矢先に見つけたのが、インターネット上のコミュニティサイトである。天然成分しか摂取しない人々の集まりだった。男は欣喜雀躍し、掲示板に書き込んだ。瞬く間に会員と仲良くなり、所謂オフ会にも参加するようになった。

「大抵の人々は、こういうのに無理解ですからねぇ」

「毒物を好き好んで食べるなんて、みんなどうかしてますよね」

「その点、私たちは固い絆と清い食べ物に守られた、仲間ですから!」

 連日、盛り上がった。無論、単なる交流だけではない。共同出資で農場を経営するなど、理念を実現するための活動に精を出した。

 その矢先のことである。国内で稼働していた原子力発電所が事故を起こし、放射能が漏れ出てしまった。幸いにも大事には至らなかったがために、テレビや新聞でのバッシングも一月ほどで収まった。が、男とその仲間達にとっては、決して看過できぬ問題だった。

「放射線がばらまかれたって」

「あの、有毒なことこの上ないものが、か」

「外気に晒されたってことは、今私たちが吸っているこの空気にも……」

「なんということだ! 今すぐ、防護服を用意しなければ!」

 大慌てで業者に交渉し、型落ち品を融通してもらった。暑苦しい装備を纏いながら、彼らは顔を突き合わせた。

「これは由々しき事態になった。まさか空気が駄目になるとはな」

「しかも空気に触れないものはない。私たちの農場も、これでおしまいだ」

「ああ、ああ、なんという……」

 悲嘆に暮れている中、男が立ち上がる。こういう時こそめげるわけにはいかない、と。

「僕達だけで悩んでも仕方ない! 同志を募るんだ! 三人寄れば文殊の知恵と言うじゃないか! あと資金もあれば言う事無し!」

 絶望の中での熱い言葉は、たとえ中身や根拠がなくても心に響いた。すぐさま彼らは街頭に立ち、協力を呼びかけた。言うまでもなく、全身防護服のままで。

『我々はー、毒で満たされたこの世界で生き残るべくー、皆様の協力をお願いしますー。どうかー、知恵あるいは寄付をー』

 最初、市民は気味悪がっていた。だが一週間も経たない内に、慣れられた。興味ない者は素通りし、笑う者はけたけたと笑った。男とその仲間たちは、燦然と輝く太陽の下、憤慨して言った。

『あなたたちはー、我々の苦しみをー、理解されているのですかー! 放射能ですよー! 毒なんですよー! 少しでも触れたくないというのが、理解できないのですかー! 自分から毒を摂りたい人なんてー、いますかー! 真っ当な感性をお持ちならー、どうか我々の仲間になってくださいー! そしてー、我々をー、毒まみれのこの世界からー、救ってくださいー!』

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