033 【心理】ブラコン、【自然】洪水
神は激怒した。必ずかの恥辱背徳の街を正さねばならぬと決心した。
何度使者を寄越そうとも、何度預言者の口を借りようと、誰もある戒律に従おうとしないのだ。
「なぜこの街は、近親相姦者ばかりなのか」
指導者から浮浪者に至るまで、身内と交わらぬ者はいなかった。子と親が同衾するのも、兄弟姉妹の間で恋愛感情が生じるのも、まったく珍しくない。その最たるものが成人の儀だ。処女及び童貞を兄弟姉妹に捧げて初めて、少年期から脱したと認められるのである。この街でしか通用しない、異端にして背教の風習だった。
神とてそれを、黙って見ていたわけではない。だが種々の対策は、馬耳東風とばかりに聞き流された。ほとほと困り果てた神は、東方から敬虔な信徒の家族を呼び寄せることとした。模範的な信仰者とは何かを知らしめるためである。
「この一家を見て、自らの行いを恥じるがいい」
何といっても、数百年前から教義を厳格に守り続けている家だ。中には、律法にそぐわない行いをするくらいなら自ら舌を噛む、そう毅然と言い放って異教徒を追い払ったという英傑もいる。その血は今代にも受け継がれているはずだ。家父とその嫁、及び子どもである兄妹の四人は、神に導かれるまま、かの街に降り立った。
結論から言おう。目論見は外れた。
三日も経たぬ内に、妹が兄と寝た。その次の夜も、そのまた次も。一週間が過ぎる頃には昼夜を問わなくなった。両親はそれを止めなかった。逆に、自分達も混ぜろと衣服を脱いだという。
もう、お手上げだった。自省を促す試みは、ことごとく失敗した。もはや土地に呪いがかかっているとしか思えない。それも、神の手にすら余るような。
かくなる上は、強硬手段をとるまでだった。
「洪水で、何もかも沈めてしまえ」
天罰は下された。街並みも城も、山をも飲み込む濁流の前では一溜まりもない。ふしだらな者どもは、一人残らず、瓦礫と水圧の下敷きとなった。残されたのは、彼方まで広がる水平線のみ。
その、はずだった。
四人、助かった。神が誘致した、かつて信心深かったあの家族である。堕落する前に積んでいた徳のためか、流木にしがみつくという無様な姿だったが、一命は取り留めた。神はそれを喜ぶべきか否か、悩んだ。
その間に、兄妹は事を済ませていた。いち早く水から上がるなり、両親を突き落したのだ。憔悴しきっていた父母が、若い男女の力に勝てるわけがない。弱々しい水飛沫を上げながら、溺れていく。水面に消えていく生みの親を、兄妹は見ていなかった。
ずたずたに引き裂かれ、半裸となった彼らは、どちらからともなく抱き合った。
「これで、二人っきりね」
「ああ。好きなだけ、愛し合おう」
「誰の邪魔も、入らないわ」
青ざめた顔のまま、貪るような口づけを交わす。神はその光景を、見ていられなかった。背徳者に下す神罰の洪水により、禁断の兄妹愛を助長してしまったという現実を、受け入れたくなかったから。




