031 【器物】物語、【人物】家族(姉)
少年とその母は、ニュース番組のインタビューを見ている。
話題は、少年の姉が書いた小説について。
直川賞受賞者、というテロップが映っていた。
『――ということは、今回書いたのが初めての作品なんですか?』
『ええ、まあ。作詩の真似事くらいなら、気が向いた時にちょくちょくやっていたんですけどね。こういう形で作品を書き上げたことは、ありませんでした』
『では何か、参考にされた本はありますか? ハウツー本、もしくは既存の小説などに』
『いえ、特にないですね。正直なところ、技術面はからっきしだとは思います。それでも精一杯、頑張りました。まあ、身近なところにモチーフがあったので、一番参考になったのはそれかと』
『モチーフ、と言いますと』
『タイトル通り、姉のいる風景、が主題ですので』
『なるほど~、いいお姉さんなんですね。ありがとうございました。以上、今日のあの人インタビューでした』
コマーシャルに移ったテレビを見ながら、言葉を交わす。
「姉ちゃん、凄いね」
「なんていうか、あの子にそんな才能があったなんてねぇ。全然知らなかったよ」
そんな気配はまったくなかった。受賞の通知が来るまで、姉は普通の大学生でしかなかった。それがいつの間にやら、マイクとカメラを向けられるような人になったのだ。誇らしさや尊敬よりも、驚きの方が圧倒的に強い。
玄関が開いたのは、そんな時だった。居間に顔を出したのは、ついさっきまでテレビに放映されていた姉である。
「ただいま~」
「あ、お帰り~」
「あんた見たわよ、インタビュー。なかなか様になっていたじゃない。若手女流作家さん?」
母が冗談めかして言う。姉は、やめてよーと恥ずかしそうに言ってから、視線を部屋の隅に向けた。
「お姉ちゃんも、ただいま」
母の笑顔が固まる。姉が見ている先には、観葉植物が置いてあるだけだ。少年は背筋が寒くなるのを感じながら、言った。
「……何、言っているの? お姉ちゃん、誰に言ったの?」
「え、誰にって、私のお姉ちゃんにだけど」
何、当たり前なこと聞いているんだろう。首を小さく傾げている様から、そんな内心が読みとれた。そのまま廊下に出る。残された親子は、冷や汗の浮かぶ顔を見合わせた。
この一家に、少年と姉以外の子どもはいない。
いない、はずだ。
「それじゃあ……」
「身近なところにいる、モチーフにできるような、姉って……」
イマジナリーフレンド。空想、すなわち脳内物語の中の友達。
彼らがカウンセラーからこの言葉を聞くのは、もう少し先の話である。




