025 【組織】ハーレム、【属性】色(黒色)
「王子様のハーレムに、迎え入れてくださるなんて!」
娘は胸の高鳴りを押さえられなかった。直筆の手紙が届いても尚、信じられない。
相手は見目麗しいと評判の美男子である。国中の女子は誰もが、側室でいいからお近づきになりたい、と夢見る人だ。娘も例外ではない。そして同時に、叶いっこないと半ば諦めてもいた。特別、容姿や気立てに自信があるわけでもない。
それでも声をかけてもらったのだ。舞い上がらないわけがなかった。
条件はただ一つ。
「黒い服を着て、城に来てほしい」
言われた通り漆黒のドレスを用意し、目一杯のおめかしをして、向かった。そして通された応接室で、ついに憧れの王子と対面した。
この時点で、天にも昇る心地だった。
「来てくれて、ありがとう」
「い、いえいえ。わたくしこそ……」
「あまり固くならなくてもいいよ。気楽なままでいい」
「は、はい」
そうは言っても、緊張はなかなか拭えない。ぎこちない動きで、出された紅茶を飲むのが精一杯だった。
「手紙でも書いたように、王室は閉鎖的だからね。ご家族との連絡は基本的に断らせてもらうけど、いいかな?」
「大丈夫、です。もともと、仲の悪い母くらいしかいませんので」
「そう。それはよかった」
しばらく話をしている内に、肩の力が抜けていった。茶の香りと、王子の柔らかな物腰に、気持ちが落ち着いてきたのだろう。自分から質問するだけの余裕も出てきた。
「ところで、どうして黒い服を所望されたのですか?」
何気なく訊いた。王子は微笑を浮かべたまま、こう言った。
「僕の好み、だからさ」
娘は何も反応できなかった。突然の甘い言葉に心を奪われた、のではない。急激に意識が遠のいたからである。視界がぐるりと回る。おかしいな、と思った時にはもう昏睡状態に陥っていた。茶のカップが絨毯の床に落ちた。
王子は娘が動かなくなるのを待ってから、そっと立ち上がり、脈を測った。途絶えている。ついさっきまで幸福そのものだった顔も、色を失っていた。
「最期の瞬間を、僕の一番好きな色で飾る。素敵、だろ?」
聞くもののいない台詞を囁いてから、王子は使用人を呼んだ。劇薬入りの紅茶の処分と、今毒殺した娘の処置を頼むために。
――数日後、王子は城の地下室にいた。そこには何十もの人の姿があった。
ただし、その中で生きているのは王子だけ。
後は全て、女性の遺体だった。防腐処置を施され、殺された時のままの姿を維持している彼女らは、一人残らず喪服を着せられている。顔の白とドレスの黒が、蝋燭の灯の下、互いに互いを強調しあっていた。
死者のハーレムに、新人が一人、加えられていた。王子はその頬を、愛おしそうに撫でていた。




