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023 【場所】荒野、【組織】バンド

「こんなとこで野外ライブができたら、さぞ楽しいだろうなぁ」

 旅芸人の一人が、サンドイッチを頬張りながら、そんなことをふと漏らした。その隣に座る相棒も、そうだな、と相槌を打った。

 場所は荒野を横切る街道の脇。そして円形の湖のほとりでもあった。澄んだ青の水面と赤茶けた大地が、真昼の太陽の下、くっきりとしたコントラストを浮かび上がらせていた。

「満月の夜とか、想像してみろよ。……あー、上手く言葉じゃ言えないけどさ。なんかこう、素敵だろ?」

「満天の星空でもいいよなあ。……いっそ、俺らだけでもやってみるか?」

「ギター二人だけでか? まあ、それはそれで悪くないか」

 夜まで待つこともなく、二人は演奏を始めた。最初は暇つぶし、あるいは腹ごなし程度のつもりだった。だがいざ弦を鳴らしながら知っている歌を口ずさみ始めると、街道の通行人が数人、足を止めるようになった。

「こんなとこで、路上ライブかい」

「懐かしい歌だな」

「どれ、休憩がてら聴いていこうか」

 演者達が拒むわけがない。襟を正して、音楽を奏でた。聴衆が少しずつ増える。拍手と、おひねりも。

「なかなかいいね、うちの故郷を思い出したよ」

「一曲、リクエストしてもいいかな」

 即興の演奏会は、日没まで続いた。それ以上は体力が持たなかったからだ。惜しむ声を受けながらも、ひとまずはお開きにした。

「皆さん、聞いてくれてありがとう」

「いいってことよ、兄ちゃん。明日もやるんだろ?」

 だが、一日限りの催し物でいい、と考える者は少なかったらしい。翌日も、そのまた翌日も、晴天下の演奏会は催された。観客も日に日に増えていった。その中にいた一人の男が、ドラムセット一式と共に参加を申し出てきた。

「俺も、一緒にやらせてくれないか。腕は保証するぜ」

「構わないとも」「これでバンド結成、だな」

 曲のレパートリーが増えたために、客は更に集まった。やがて聴衆目当ての露天商が現れたり、小屋を建てて寝泊まりする者が出たりした。集落の誕生である。その中心には、湖を背に楽器と歌声を響かせるバンドがいた。

 やがて、バンドの男達は亡くなった。だが音楽が途絶えることはなかった。旅人や行商人の溜まり場は、既に一端の村と呼んで差し支えない規模にまで成長していた。そこに居着いて、子を成す世帯もある。この子ども達が、楽器を引き継いだ。

「ギターとドラムが村を作ったんだ」「絶やすわけにはいかないね」

 世代交代を重ねながら、湖畔の村は栄えていった。しかし誕生より百数十年後の今、存亡の危機に立たされていた。

 特大級の台風が接近している。間違いなく直撃するだろう。万に一つも、無事で済む可能性はない。

 避難する家庭も、いくつかあった。だが、大半は残った。中でも今代のバンドのメンバーは、誰の説得にも応じようとしなかった。

「この村はバンドが主体になって作ったんだ。そしてバンドと共に生きてきた」

「演奏しない日なんて、あっちゃいけない。そんなの、この村じゃない。台風なんか来なくたって、滅んだも同然さ」

「それなら吹き飛ばされるその時まで、ギター掻き鳴らすまでだよ」


 嵐が去った後。村の家屋は悉く壊されていた。生きている人の姿はない。基礎の面影が僅かに残る程度である。そう遠くない内に、荒野に戻るだろう。

 湖には木材や備蓄食糧、農具などがいくつも浮かんでいた。

 その中に、傷だらけのギターやドラムと、その持ち主もあった。ずたずたに裂かれた腕は、死しても尚、楽器から手を放していなかった。

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