022 【人物】王/皇帝、【人物】美形
「この国で最も美しい娘を、我が伴侶として迎え入れよう」
貧富や出自は問わない。美醜だけを見る、という。
皇帝の布告に、国中の女性が湧いた。容姿端麗にして文武両道、政治手腕にも長けた名君主である。その花嫁となるべく、何十人もの女性が城に押し掛けた。貴族の令嬢から辺境の町娘まで、枚挙に暇がない。
その中で選ばれたのは、中堅どころの商人の一人娘だった。国を挙げての結婚式の末に、二人は結ばれた。
――これでめでたしめでたし、になれば良かったのだが、話は続く。
前述したように、皇帝は善政で広く知られていた。それは婚姻の後も、しばらくは変わらなかった。隣国との関係は良好で、国内の問題にも即座に対応する、名為政者として玉座にいた。夫婦関係も問題ない。紳士的な皇帝と奥ゆかしい夫人の仲睦まじさは、国民の誰もが知っていた。
そこに陰りが生じはじめた。
皇帝が病に罹った。宮廷医師をもってしても完治は難しいという。寝込みがちになり、公務が滞りはじめた。細かな失政が重なっていく。大臣や国民から不満の声が上がった。それは日に日に大きくなり、皇帝の心から余裕を奪い去っていった。
そんな中にあって、老化する妻を気遣うゆとりなど、あるわけがない。若かりし頃の美しさも、年齢には逆らえない。化粧や健康法にどれほど気を遣おうとも、皺や白髪は遠慮なく現れる。皇帝はそれを見つける度に、鬱憤のためか、つい指摘してしまう。
夫人は戦々恐々となった。このままでは捨てられるのではないか、という危惧だった。食事が喉を通らなくなる。眠れない夜も増えた。そのために老いが加速し、小言を言われ、ますます精神が疲弊する、という悪循環の中にいた。
尋常ならざる精神状態の中、夫人はある日、ついに決断する。今辛うじて確保できている美しさが、これ以上老いで損なわれるのは、見るに堪えない。そう言い残して、寝室のバルコニーから飛んだ。数秒後、七階分の高さを落下し終わった彼女は、宣言通りそれ以上老化することなく、石畳の上の血飛沫と肉片になった。
皇帝は気が触れた。病と政情不安で落ち込んでいた矢先に、伴侶を失ったのだ。一晩中、泣き喚いた。涙が枯れた頃、彼は配下に命じる。妻の代わりを探して来い、と。他国との外交問題や危うい国政を顧みることはなくなった。逆らう者、邪魔立てする者を悉く地下牢送りにしながら、国中に兵士を放った。暴徒の増えた街中にて、宣告を広めさせるために。
「この国で最も美しい娘を、我が伴侶として迎え入れよう」




