021 【武器】投石、【行為】召喚
異世界の英雄を呼ぶ儀式は、今まさに結実しようとしていた。
「さあ……、出でよ!」
魔法陣が発光する。その中心から灰色の煙が噴出し、視界を覆った。それが晴れた時、そこには一人の男が立っていた。筋骨隆々とした大男である。その風貌は、伝説の古文書に描かれている通りのものだった。
「成功した……っ!」
小躍りして喜んだ。対照的に、召喚された男は落ち着いている。それどころか、こういう事態に慣れているらしかった。
「ふむ……。今回の主人はお前さんか」
「ほう、私の言葉が分かるのか」
「術式に、そういう仕掛けが施されていてな。一通りの常識は刷り込まれる。が、お前さんが俺を呼んだ理由までは知らんぞ?」
「そうだな、では早速命じよう。我が軍に加勢してもらいたい」
現在、隣国との戦争の只中にいる。数で劣るために、じりじりと追い詰められつつあった。事態を憂慮した軍の参謀から、英雄の召喚術式を研究している彼に声がかかったのである。
「武器防具の支援は任せてくれ。好きな得物はあるか?」
古文書には彼がどう戦うのか、一切書かれていなかった。それでもこの男を選んだのは、最も優れた戦力であるとの記述を見つけたからである。どんな戦いぶりなのか、気にならないわけがなかった。
そう期待していただけに、答えには愕然とした。
「防具は適当でいい。武器は、手頃な石があればそれでいい」
「……は?」
「ん、知らないのか? 俺は投石専門の戦士だ」
「投石って……。つまり石を投げて戦うっていうのか」
「そうだが」
気勢がしぼむ。いくら何でも、石ころを投げて戦争がどうにかなるわけがない。鎧もあれば弓弩もあるのだ。落胆のあまり脱力しそうになる。それでも無理に笑顔を作って、この英雄を参謀に引き合わせた。参謀もまた、引きつった顔をしていた。
「弾よけくらいには、なるかなぁ」
何もかもを投げたくなる気持ちで、自宅に戻った。
だが暗い予想とは裏腹に、彼は目覚ましい活躍を遂げた。何の変哲もない小石も、彼の手にかかれば矢の数倍の速度となって敵兵にぶち当てられた。並大抵の甲冑では食い止められない。しかも弾や矢と違い、補給にも困らない。休み知らずの弾幕のお陰で、戦力差を見事に盛り返し、勝利することができた。
誰よりも驚いたのは、召喚者である。戦争終結後、英雄にこう聞いた。
「本当に、石だけで勝てたのか」
「そういう英雄として召喚されているからな」
「何というか、その……申し訳なかった。投石の達人という触れ込みを、どうにも信用できなくて」
「そりゃ、そうだろうなぁ」
ふっと笑った。彼が笑顔になるのを、初めて見た。
「お前さんが匙を投げるのも、分かるさ。でも仮にそうなったとしても、俺はお前さんのために石を投げるんだよ。お前さんが召喚したのは、そんな男さ」




