013 【自然】太陽、【科学】タイムトラベル
その教授が発表した論文は、世間を、あらゆる意味で騒がせた。
「太陽にロケットで突入すれば、タイムスリップできる!」
本気で信じる者がいなかったのは、言うまでもない。学会は荒唐無稽として一切取りあわず、彼を除名処分とした。新聞社はこぞってゴシップ記事を飛ばし、笑い物にした。
これで目を覚ませばよかったのだが、残念ながらこの男、行動力に関しては右に出る者がいない。中古のロケットを購入するなり、自ら太陽に向けて旅立ってしまった。
最も、そのことを知った人は少ない。既に話題にもならなくなっていた頃である。新聞の片隅の三行記事にしかならなかった。
それよりも、もっと憂慮するべき事態が起きていた。月面植民地と地球連邦政府との間の緊張が高まっていたのである。テロやデモが報道されない日はなかった。いつ本格的な武力衝突になってもおかしくない。少しでも情勢に詳しい人ならば、誰もが口を揃えてそう言った。
懸念は、残念ながら現実になってしまった。小競り合いから始まった紛争は、瞬く間に全面戦争となった。地球も月も、戦場にならなかった場所はなかったと言われている。
戦いは核兵器の解禁と共に、終わった。勝者も敗者もない。月は何百発と炸裂した核爆弾で木端微塵となった。地球もまた核の炎に包まれた。地表の九割が致死濃度を遥かに超える放射線で汚染され、草木や動物の大半は死滅した。人間も無事では済まされていない。辛うじて生き残った者達は、飢えと渇きと病魔に喘ぎながら、限られた土地で生きることを強いられていた。
さて、ここで話は冒頭で述べた教授に戻る。彼は太陽にまっすぐ向かう航路を、のんびりと進んでいた。急ぐ必要はない。そもそもギリギリの燃料しか調達できなかったから、速度を上げたくても上げられなかった。
暇で暇で仕方がなかったので、例の論文を読み返すことにした。それ以外に読み物もなかったからだが、そこで彼は計算ミスを犯していることに気が付いた。
「これはまずいな。論文を書きなおす必要がある」
間違った理論のまま太陽に突入しても、成果は得られまい。急遽転進することにした。そして地球に帰ってきた教授が見たのは、荒廃しきった地球の姿である。それを見るなり、開いた口が塞がらなくなった。
「なんということだ」
そして顔を紅潮させ、大笑いした。
「まさか太陽に突入しなくても、文明が滅び去るほどの未来にタイムスリップできるとは!」




