12-6 命懸けの偵察
身体に恐怖を覚える程の重力を感じ、視線を真下に向けると、
(うわ……)
地上とそこに『乗っかっているモノ』みるみる縮小されていく。
――つまり、それ程の速度で上昇しているということだ。
かつて、断崖地帯でリルドナが打ち上げられたときは、情けない声を上げながら天へと昇っていったものだが、俺は声すら上げる余裕が無い。
見ても恐怖が増すだけの不毛な行為と知りつつも、どんどん離れていく大地を見下ろし続けていた。
そのお陰で『それ』が見えてしまった。
(……、やっぱり狙ってくるか)
俺を追いかけるように次々と火線が走る。
その正体は例の魔法弾の砲撃だ。
誰かが操作しているのか、自動なのかはわからないが、確実に動く物に反応している。
救いなのは、やはり反応が一呼吸ほど遅いことだ。
常に垂直軸移動をし続けている俺には当たる心配が無さそうだ。
――といっても所詮『まな板の上の鯉』でしかないのだが……。
(いやいや、今はそうじゃなくて!)
そもそもの目的――頂上付近の地形の目視・確認をキッチリこなさなければいけない。
うっかり『よくわかりませんでした』などと言おうものなら、ヤツに『ならば、もう一度見てきてくれ』と容赦なく再度蹴り上げられるに決まってる!
こんな体験しない方が良いに決まっている。
出来ることなら一回で済ませたいのが普通の人間の心理だ。
正面の視界では下へと流れる土色はまだまだ続く、……これが途切れた時が『抜けた』瞬間となる。
その瞬間を見逃さず、しっかりと目に焼き付けてやる!
…………、
……、
――っ!
「見えたッ!」
視界が一気に開ける。
まだまだ俺の上昇する速度は衰えていないのか、頂上付近すら一気に眼下に望むことになった。
(さて、目的のブツは何処にある?)
視線を素早く頂上全域へと走らせる。
嫌でも真っ先に目に入るのは巨大な屋敷の厳重な門構え。
それは圧倒すらする、最早屋敷というより城壁こそ無いが、まさに『城』だった。
その屋敷の膝元とも言うべき前庭のような空間には、所狭しと金属の柱が並び立っている。あまりに量に数える気すら失せるほどだ。
(多すぎだろ……)
一見すると乱立しているように思えたが、ある一点に向かってそこを護るように配置されているのがわかる。
(あれ……か?)
そこは前庭の奥、下から見上げても見えない範囲だろう。
強固な支柱に護られるように、丸い硝子製品のみたいなオブジェが鎮座している。
恐らくあれが、ルーヴィックの言う『スフィア』なのだろう。
あれを破壊すれば全て止まる、そう強く確信し、頂上付近の永続の配置物を正確に記憶することに尽力した。
今、この状況で俺自身が標的を破壊できるのなら、それがベストだが、残念ながらそんな腕もそれを活かす手段も乏しかった。
余計なことをして下手を打つよりも、それを出来る人間に繋げることこそが大切なのだ。
──そう、次に繋げ……れるのか!?
(……ヤバイよな)
なぁ、皆。物理は好きか?
俺自身は高等部中退なので、ほぼ独学で勉強する羽目になったが、理解できてくるとなかなか面白いし、知識があればまた別の角度から世界を視ることが出来ると思うんだ。
放物線運動、という単語を聞いたことはないだろうか?
物体を投げるときに、どの角度で投げればより遠くまで届くかを考え、物体を投げる角度をθそして初速度をV0として計算するというヤツだ。
それを今この俺の状況に当てはめてみよう、俺は真上に打ち上げられているので、角度θはほぼゼロ度とみて良い。つまり余弦は『0』で計算する。
まぁ、今はそんな計算している場合でも無いので次へ行こう。
そもそも、何故そんな動きになるか、それは重力があるから。
大地を蹴り跳躍しても再び大地へと落下するのはその為。
それは跳躍した時にだけ掛かる力ではなく、常に大地、つまり下方向への力が掛かっている。
力が掛かってはいるが、地に足が着いている限り、接触し停止している。つまり運動エネルギーは発生していないのだ。
それが跳躍してみるとどうだろう?
跳躍するということは、重力という下方向への力に逆らい、身体という物体を上方向へと移動させる行為だ。
移動には相対速度があり、そこには運動エネルギーが発生し、移動した分の位置エネルギーも蓄積させる。
跳躍により発生した運動エネルギーは、常に重力という反発する力の作用により、加速度的に減衰していく、これを重力加速度と呼ぶ。
──難しいか?
跳躍したときの速度は重力により減速されるということだ。
速度は減衰し、それが正数から負数に移ったときが『落下』なのだ。
実にここが重要。
正数から負数に移る瞬間、確かに『0』が存在する。
速度0、つまり移動量が零。──状態で言うならば停止状態。
さぁ、そろそろわかってきたんじゃないか?
俺は垂直軸方向に移動していた、そのお陰で『ピラー』からの砲撃を免れていた。
そう、それが零になる。
「やっぱ、そうなるよなぁぁぁぁぁあああああぁぁ!!」
眼前に光り輝く巨大な弾が迫る。
悠長に解説していたように思えるが、この間僅かコンマ三秒なのだから驚かされるばかりだろう。
思わず逃げ出したくなるが、残念なことに俺の身は宙にあり、自発的に移動することは一切出来ない。
というか、絶体絶命だろォ!?
「──問題ない、」
聞き慣れた殺意を覚えさせるフレーズとともに、身体に走る拘束感。
そこで初めて身体に何かかが巻きついていることに気付いた。
「なっ!?」
グン!と身体に巻きついた何かに引かれ、俺は急降下する。
それはお馴染みとなったヤツのワイヤーロープ。
「──痛てぇ!」
俺という物体の重量を無理やり移動させるのだから、ワイヤーロープから身体に伝わる力は半端なくキツイ!
恨み言を言ってやろうとも思ったが、頭上ギリギリを光弾が通り過ぎるのを見て、直撃よりはマシか、と勝手に納得させる。
それよりも当面に別の問題が発生した。
先程も述べたが、重力は常に掛かっている、下方向への加速度は絶賛加算中なのだ。
それに加えて、ワイヤーロープの牽引による運動エネルギーだ。通常に落下するよりも相当な速度で大地に叩きつけられることになる。
ワイヤーロープでガッチリ拘束されている為、受身もまともに取れない、──否、それ以前にこの高さとこの速度じゃ無理だろォ!?
死ぬ。
絶対死ぬ!
なぁ、やっぱり俺へのダメージ要因は味方からの裏切りがメインだよなぁ。
しかし、諦めかけた俺の眼下で動きがあった。
「──では、頼む」
「人の武器を何だと思っている?まぁいい」
巨漢の剣士がその身体以上に巨大な剣を下段に構えこちらを見据えている。
まるで落下する俺を迎撃でもするかのような構えだ。
だが、剣の持ち方が歪だった。
角度がおかしい、あのまま剣を振れば、太刀筋に走るのは刃ではなく、の刃の腹、平面部分だ。
何をするつもりだ?と疑問する間に、彼は轟音に近い音を唸らせて刃を振り抜いた、
「ぐぬぉ!?」
瞬間、凄まじい大気の圧が押し寄せ、砂場に叩きつけられたような感覚に襲われる。
押し潰されるような感覚に耐えながら理解出来た。
ルーヴィックはガディの大剣を用いて突風、──否、大気の壁を起こさせたのだ。
それは落下する俺への運動エネルギーの緩衝となる。
衝撃のエネルギーは衝突に掛けた時間に反比例する。
少しでも時間を掛けて運動エネルギーを減らして行けば落下物である俺へのダメージは少ないわけだ。
「く、うぷっ」
大気の壁のお陰で勢いは減衰したものの、その所為で落下の軌道が少しズレた。
──まぁ、これは事故だろう。
落下の先が、俺を受け止めようと構えていたロイやゼルの方でなく、
「にゅ?」
ぐにゃりと脱力し尻餅を着いたノラ猫の方に行ってしまったのは……。
何?この予定調和は?
その後、お約束通り、彼女の前足が火を噴いたのは言うまでも無い。
まぁ、でも……ナイスクッション!
いろいろ前後のお話を思い出すのに苦労したあせこさんです、こんにちは。
すっごい間空きましたね、もう八ヶ月強です。
あまりにも間が空きすぎたので、なかなかエイン君の気持ちになれないでいます。
でも、この作品を未完のまま終わらせる気はないので、長い目で見守って頂けると幸いです(*'-')




