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赤ルア(テスト用)  作者: あせこ
四日目
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12-2 続・憂鬱な登坂




 屋敷へと延々と蛇行して伸びる石段。

 それを用心深く注意を払いながら歩を進める、もう秋だというのに日差しはきつかった。

 警戒を余儀なくされる為、心的疲労は倍増していた。

「それにしても……厄介だな」

 と、ため息交じりのこれはブルーノ。その言葉にロイが応える。

「そうですね、ダミーの石段も注意深く見ないと区別付かないと思います」

「つってもよー……こんなペースじゃ、日が暮れちまいそうだぜ?」

 ゼルの言い分は(もっと)もだ。頂上までの標高はかなりあり、その上迂回するように蛇行した石段だ。普通に登っても相当時間が掛かる段数だろう。

「でも、万が一仕掛けを踏んでしまっても、魔法弾の発射まで若干タイムラグがあるのが救いですね」

 と、これは俺の発言。今まで二回発動させたトラップは、どちらも魔法弾発射までに少なからずの猶予があった。

 これからも絶対にそうだとは言い切れないが……多少の失敗は許容されるという、心的余裕を持たせたかったのだ。

「だなー。踏んじまって即アウトとかはカンベンしてほしーぜ」

「そうだね、コレを仕掛けた人は意外と慈悲深いのかな?」

 ゼルがボヤき、ロイが冗談っぽく相槌を打つ。

 ……。

 確かにそうなのだ。

 侵入者を阻む罠ならば、回避できる猶予を与えるのもおかしい。

 まさか、本当にロイが言うとおりで慈悲深いのだろうか?

 それとも……何か別の狙いが?

 だが、そんな俺の思考を中断してくれるのは、やはり彼女だった。

「ねーねー、あたし思いついたんだけどさ」

「……よし、一応聞いてやる。言ってみろ」

 どうせロクでもないことに違いない、が聞いてやることにした。

「仕掛けを踏んづけてから、弾が飛んでくるまで時間あるわよね?」

「そうだな、体感で数秒……。ニ、三秒前後ってトコかな」

 これは罠としてかなり猶予がある方ではないだろうか?

 そんな俺の考えよりも、この女の発想は斜め上を行っていた。

 いや、短絡すぎるだけも知れないが、

 彼女はこう言った。

 自信満々にこう言いやがった。



「じゃあ、一気に走り抜けちゃえばいいのよ!」



 うん。

 俺は無言でリルドナの顔に手を伸ばす。

「うりゃ!」

「ふひゃ~!?」

 無言で彼女のほっぺをびよ~んと両側から引っ張った。

 バカなこと言う口はコレか、コレなのか?

 しばらく引っ張った後、パッと手を離すと、ぽよん♪と元に戻る。

 実に弾力のあるほっぺだ、うん。

「よし、ツッコむぞ」

「にゃにすんのよぉ……」

 リルドナは若干涙目になりながら抗議するが、かまわずツッコミを始める。

「たとえ走り抜けて、仕掛けを踏んだ本人が避けれたとしてもだ……三秒遅れてそこを通過する人間が食らうだろうが」

「あ……」

 三秒というのはあくまで暫定的な数字だが、ニュアンス的にはそんな感じだ。

 そして、三秒後に通過しようとして食らってしまう不幸な人間はきっと俺になると思うんだ……。

「まだあるぞ、」

「な、なによ?」

 こっちのほうがより現実的な問題だと思う。

「こんな超長階段をだな……ノンストップで走れるか!」

「む、無理かしら?」

「出来ん!少なくとも俺には無理だ」

「もう、体力無いわねっ!」

 俺でなくて息が続かないと思うが……。

 むしろ……

「大体だな、お前と違って皆重い装備してるんだ、長距離走れってのが酷だぞ」

「うーん……」

 彼女はグルッと視線を一周させてうな垂れる。

 俺やアビスは比較的軽装だが、そもそも俊敏じゃない。

 そして屈強な男達である彼ら。ブルーノはフルプレート。ゼルとロイは鎖帷子だし、ガディも金属鎧だ。

 あと他に誰か居た気がするが、別に忘れても問題なさそうなので割愛。

「じゃあ、どうすんのよ、このままゆっくり歩くの?」

「うーん、そうだなぁ……ん?」

 何故か周りの人間は俺の発言に注目している。

 まさかとは思うが……俺の意見がそのまま採用されるのだろうか。

 いつから俺は作戦参謀になったんだ?

「あの、やっぱり完全に仕掛けを回避するのは難しいと思うんです」

 敬語に切り替えたのは、発言がリルドナだけに対してでなく、周囲の人間全員に向けるつもりで口にしたからだ。

「予防戦は困難、それならもう対処戦術……といえば聞こえはいいですが、仕掛けを踏んだら即座に迎撃しかないと思います。まさかこんな石段の上で夜を迎えるわけには行きませんし」

「ふむ……ならば万が一踏んだ時はお互い即座に報せるようにしよう」

 とブルーノが俺の適当な提案に賛同してくれる。

「て、こったぁ……またねーちゃんの魔法剣とやらに頼らねーとダメか」

「うーん、リルちゃんにだけ負担掛かりそうだね」

 飛んでくる砲弾は魔法の弾。普通の武具では防ぎようが無いのだ。

「あ、それなんですけど、やっぱりアレって魔法弾なんですよね?」

 その俺の問いにはアビスが答えてくれた、

「うむ、私も概ねそうだと判断している、発色からしておそらくは火属性……それも爆炎の魔力が込められていると思う」

「爆炎ですか……ますます食らいたくないですね。

 でも魔力の塊であるなら、ブルーノさんの『ソレ』も通じると思うんです」

 俺が『ソレ』を指差し、皆も釣られて視線を注ぐ。

「ふむ、なるほど……この『赤い剣の鞘』を使えば魔法を打ち消せる、か」

 そう言いながらブルーノは腰から鞘を引き抜き、剣のように構える。

「これで迎撃要員二名か……ちったぁ、ねーちゃんの負担も減るな」

「うーん、全体の人数的には……もう少し手が欲しいね、ボクも非物理的なモノを弾ける装備が欲しいよ」

 ロイが口惜しそうに呟いたところで閃いた。

 そういう手段(・・・・・・)を持っているヤツがいるじゃないか。

「なぁ、ルーク。お前の刃も『特別製』なんだろ?」

「肯定だ。一応は『斬る』ことは出来るが――」

「――が?」

 何か問題があるのだろうか?

 どういうことだ?と問いかけるよりも早く、


百聞は一見に如かず(みればわかる)――」


 とヤツは行動を起こした。

 いきなりグイっと俺の腕を掴み引き寄せ

「んなぁ!?」

 いきなりことでバランス崩し気味に石段を踏みしめる、

 いや踏み込めてしまった。

 ――て、おい?

 カチリと足元の一部が沈みこんでいるのがわかる。

「よく見ていろ、今から魔法弾を斬る」

「お、おう」

 なんだか嫌な予感がする。

 この男が親切に実演してくれるのだろうか?

 いいや、決して無いだろう、きっと何かある。

「――っ!」

 そうこうしている間に、魔法弾が射出されこちらへ飛来する。

 魔法弾……マジックパレットって、そもそもどんな魔術だ?

 たしか、魔力そのものを打ち出しても僅かの距離ですぐに霧散してしまうらしい。

 長距離飛ばすならば、魔力を保護し安定化させる必要がある、エーテルコートという技法が必要なはずだ。

 この場合のエーテルコートは言わば魔力を詰めた風船、それがマジックパレットという魔術の概念らしい。

 物理的に着弾し風船が割れれば、中身である魔力……いや、魔法か……が炸裂する。

 それを霊的に、とはいえ『風船』を斬ってしまったらどうなるのだろう?

 そして中身である魔法はなんだったか……。

 ……。

 いや、まさか。


「――ちょっと待てぇぇええェ!」


 叫んだが遅かった。

 何か銀色の光が走ったかと思うと、眼前に迫った魔法弾がパカンと斬られていた。

 直後、


「うぉおぅ!?」


 斬られた魔法弾が爆発。

 その爆風を受けて俺は無残に吹き飛ばされる。

 ちなみに、ヤツは神業的速度でとっくに退避している。


「ぬぉぉぉぉおおおおおぉぉぉぉォォォオオォォォォォ――――!?」


 そして俺は……延々と続いている石段を上から下へと無様に転がった、というかだな……

 またかよっ!

 前回と同様になんとか回転を止めて、嫌な痛みに耐えながら上を見上げる。

 転げながら他の仕掛けも作動させたのか、四~五発くらい魔法弾が俺の転げ落ちてきた空間を通過していった。


「――というわけだ」

「――お前の血は何色だ……」


 リルドナの魔法剣(?)は魔力そのものを吸収する。

 ブルーノの持っている『赤い剣の鞘』は魔術を打ち消し、魔力を霧散させる。

 しかし、ルーヴィックの刃は斬るだけなので、中身を無効化できずに爆発してしまう、というわけだ。

 多少なりとも中身の『爆炎』の魔術自体も斬られてるので威力は段違いに落ちていそうだが…・・・。

 予想できているなら、最初から言えよ……。

「と、とりあえずブルーノさんとリルちゃんに迎撃してもらうコトで進もう……かな」

 ロイがドン引きしている場をまとめるべく、誰に告げるわけでもなくそう呟いた。

 あえて傷口に触れない、こういう優しさもあるんだなぁ…・・・と何故か感動してしまった。




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