表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤ルア(テスト用)  作者: あせこ
四日目
72/81

11-8 青紫の嘲笑




 先程の喧騒も一段落し、空腹を感じる程度には気持ちに余裕が出てきた。

 いろいろ感覚が麻痺しているが、現実には人間が二人も殺害されているのだ、精神的に不安定になるな、という方が無理だろう。

 落ち着くと現金なモノで、今から運ばれて来るだろう朝食に期待し心躍るのだった。

「なんだかんだで、あの娘達のお陰で食事が華やかになって助かるよね」

「そうですね、いつもなら味気ない携帯食料を一人消費してるだけでしょうし」

 やっぱりなんだかんだ言っても、一人で味気無い食事をするより、皆でワイワイ食べた方が美味いのだ。

 それも可愛らしい女の子が用意してくれるとあれば、格段にそのレベルは跳ね上がる。

 ……とか言ったらイロイロとロイに弄られそうだったので、ついつい視線を泳がすと、

 ゼルと目が合った。 


「それにしても、ありゃ本当に中身が嬢ちゃん……妹の方なのか?」

「――え?」

「いや……オレも出会ってから少ししか接点ねーから、ハッキリとは言えねーが」

「そうだね、思ってた印象(イメージ)となんか違うよね」

 俺が感じた違和感、最初(いだ)いていた印象(イメージ)と違う点。

 漠然としか言えないが、妙にテンションが高い。

 やけに積極的でアグレッシヴなのだ。

「やっぱり、そう思いますよねぇ……」

 そこで疑問にブチ当たった時に頼れるヤツに自然と視線が集まる。

「む?珍しくも無いと思うが……」

 ヤツはヤツで、こちらが何故疑問に思っているかわからない、という感じだ。

 何かの条件があれば、ああも積極的に変貌するのだろうか?

 今までの行動を思い返してみる。

「うーん……もしかして」

「おや、心当たりあるのかい?」

「勝手な憶測ですけど……『リルドナが居ないから』じゃないでしょうか?」

「あーっ、それはあるかもねぇ」

「あん?自分の姉貴の前でネコ被るのかよ?」

 ゼルにはイマイチ、ピンとこなかったらしい。

「違うよ、誰の前でも相手にあったネコを被るモノなんだよ」

「多分、リルドナの居る居ないで、被っているネコ……というかキャラが微妙に違うんじゃないでしょうか」

「まぁ、多感なお年頃なんだろうね、それで今更思い出したけど」

 掌の上に握り拳をポンと鳴らす、古典的なリアクション見せる、

「あれってさ、もしかしたら推理小説に出てくるキャラの模倣じゃないかな?」

「肯定だ、リウェはアレを熱心に熟読してたな」

 推理小説の登場人物……はて、あんな感じなキャラいたか?

 俺の知りうる探偵達は誰もが個性的だが……イマイチ該当しない。

「おや、ムノー君は知らない?『灰色の脳細胞を持つ変態探偵』シリーズ」

「ナンデスカ、そのデスペレートすぎる題名(タイトル)は……」

「結構長寿作品らしいから、今度探して読んでみるといいよ」

「それで、その小説に出てくる探偵があんな感じなんですか?」

「うーん、そうだねぇ。その探偵は女の子なんだけど、一〇代半ばくらいの外見で青い髪と瞳の可愛らしい娘なんだよ」

 髪はともかく、瞳の色が同じ青色か、案外そこが感情移入しやすい原因か?

 でも、『変態探偵』とか酷いネーミングだ……。

「ただちょっと、真実を追っかける姿勢というか執念が異常で、そこが変態的と言われる所以(ゆえん)なんだよ、どんなのかは、未読の人に言うのはタブーだろうし、あえて言わないね」

「そりゃどうも……なんか憧れるモノが多少歪んでるような気もします」

「ま、そりゃ個人の自由だな――て、なんでぇその凄い色の液体は?」

 ゼルが怪訝そうに見つめるソレは、先程俺がリウェンに指示されて調合した『紫陽花の青虫(プルプァ・ペヨトル)』。

 やはり、その個性的な色は興味を引いたらしい。

「えっと、これがリルドナの錯乱を鎮める為に調合した『紫陽花の青虫(プルプァ・ペヨトル)』って薬湯です」

「うげ……赤紫(プルプァ)の芋虫かよ、毒々しいなオイ、何食わしたらそんな色になるんだ?」

「いえ、紫陽花をイメージしたそうですよ、ペヨーテを使ってるんで『青虫(ペヨトル)』って付いてますけど」

 名前なんて意味を履き違えれば、全くの別物になるものだ、特にリウェンの使う言語は多国に渡る。

 博識すぎる故に、他の人間が着いてこれないという弊害とも言える。

「紫陽花……ハイドランジアか、また珍しい花のチョイスだな」

「……?名前はハイドランジアでいいんですか?」

「この国じゃその名前だがーな、別名あったか?」

 ちょっと待て、何かひっかかる。


『こちらの地方でしたら『水の容器(ハイドランジア)』と呼んだ方がわかり易いでしょうか?』


 なんでそんな回りくどい言い方をした?

 彼女は独国語(プロイツェン)をよく使うが、基本的に言語は英国語(クイーンズ)、そもそも獅子の王国(ブリテン)出身の筈だ。

 変に拘りすぎたから?言葉遊びの失敗なのか?

 そもそも紫陽花という名前を付けた?そして紫陽花とはどんな花だった?

「ハイドランジアって色が変わるんですよね?」

「らしーな、あんまり見たことねーしな。何が含まれてるからだっけか……」

「アルミナ……じゃないですよね?」

 ちなみにアルミナというのは酸化軽銀……酸化アルミニウムだ。

 鋼玉(コランダム)の主成分であり、含有する不純物によって赤くなったり青くなったりする鉱物だ。

 その変化した色によって、『ルビー』と呼ばれたり『サファイア』と呼ばれたりするワケだ。

 そしてアルミナ自体は、青灰色だ。

「わっかんねーな」

「うーん、どうだろう?ボク達も専門知識はないしね、土壌が酸性なら青、塩基性なら赤って言うのが一般的な見解だけど、でも……」

「……そこで『でも』ですか」

「うん、酸性だけど青くならなかったり、最初は青かったけど、花が散る頃には赤く染まっていたてこともあるみたいだしねぇ」

「なんだか不安定な性質なんですね。花言葉が『心変わり』だとかで、転じて『錯乱した心を変化させ鎮める』という概念で構成したとか言ってました」

「へぇ、詩人だな~。ボクの知ってる花言葉だと『無情』『冷淡』とかだけど、きっと青い時の花を見た人が付けたのかな?ホントいろいろな意味もってそうな花だね」


 おかしい。

 こんな不安定な花で……それも様々な意味が混在する花言葉を持つのだ。

 心に変化を促すことがあるとしても、『鎮める』とはイメージが合わない。

 特性を概念としているのなら、少し性質が的外れなモノになっていそうだ。

 気持ちが悪い。

 何か喉の奥に(つか)えたような嫌な感覚。

 答えが出掛かっているのに、上手く表現出来ない。そんな感覚だ。

「しっかし、すっげぇ甘い香りだな……こんなの飲めるのか?」

「あ、ペヨーテの苦味がキツイらしいんで、蜂蜜で甘くして飲みやすくしたんですよ」

「そりゃ、本末転倒てヤツじゃねーか?甘すぎるだろ?コレ」

 ゼルがゲンナリした様子で薬湯の入ったティーポットを見つめる。

 そして気になる言葉を放った、


「大体、あのねーちゃんなら、苦いお茶も大好きだろう?」


 ……え?

 苦いお茶が……好き?


「あ、あれ?リルドナって凄い甘党だったんじゃ……」

「んにゃ、お茶菓子は甘いのが好きらしいけど、お茶の方はそれを引き立てる苦いモノが良い時がある。とか言ってたぞ」

「あー、昨日の紅茶談義の時言ってたね、東方では甘い豆のジャムがあるらしいんだけど、それに合うとか言ってたね」

 どういうことだ?

 リルドナ自身は苦いお茶でも飲める、つまりワザワザ甘くする必要は無かったんだ。

 それなのに、蜂蜜一瓶使ってまで甘くした。

 その理由は――、


「……最初から、自分で飲むつもりだった……?」


 それは意識を失っている人間に飲ますこと前提だから、リウェンが仕方なくリルドナの身体に入って動かすしかなかった……、

 いや、そもそもそれがわかっているなら、何故経口摂取が必要な薬湯という手段を選んだ?

 姉の身体に乗り移るという手段前提で、何故薬湯を飲ませようとした?


「……逆か?」


 身体に乗り移るのが手段じゃない……身体を乗っ取るのが(・・・・・・・・・)目的だったら(・・・・・・)

 では、リルドナの身体を使って何がしたかった?何をしていた?


『このまま薬効を利用して、頭の中の不純物を取り除いていきますね』


 あの時は、その場の勢いで深く考えなかったが、そもそも『不純物』てなんだ?

 普通に考えて脳内に物理的な異物が入るとは思えない、脳内分泌物質ならあり得るが……『不純物』ではない。

 それはリルドナを錯乱させている因子か?それとも概念か?

 彼女の身に何が、どういう異変があったんだろう?


『……むむ、視界が真っ赤です』


 これは何の比喩だったんだろう?

 脳に、頭に悪影響を及ぼすモノ、『赤』とはなんだろう?

 頭痛に悩まされる、それも風邪などの疾患が原因でなく、精神的なモノで来ることは俺もよく経験している、『心配』『不安』『焦燥』様々な感情の大前提にあるモノは

 …………『記憶』か?

 悪い記憶を、嫌な記憶を……どうするんだ……。


『何食わしたらそんな色になるんだ?』


 待て……。


『うげ……赤紫(プルプァ)の芋虫かよ』


 待て待て……。


『名前には意味があり、概念を成します』


 そう意味がある……。

 これが、ペヨーテの入った紫陽花……ではなく(・・・・)赤紫の芋虫(・・・・)……だったとしたら(・・・・・・・)

 そして芋虫というのは、一般的に植物の葉を()んで育つ。


『姉のことだから綺麗サッパリ忘れてるかもしれませんよ?』


 リウェンには確信があったんだ、リルドナの頭からソレが消え失せていることに……。

 薬湯を『葉』を蝕む芋虫とするなら……その『葉』は――っ!?


「すみません、ちょっとリウェンの様子を見てきますっ!」

 突然の言葉にゼルもロイも首を捻っていたが、説明している時間が惜しかった。

 俺は一人、リウェンの元へと駆け出していた。



 厨房のドアノブに手を掛け、ゆっくりと回す。

 別に息を殺して、そっと忍び寄るつもりは無いのだが、コートの裾に隠し持ったソレの居心地が悪く、ついつい慎重な動きになってしまっている。

 ドアを静かに開け放つと、こちらに背を向け作業をしているリウェンの姿が目に入った。

 朝食の準備はほぼ整っているようだ。

 彼女は振り向かずに、静かに問いかけてくる。

「おや、つまみ食いですか?」

「そうだな、真っ赤な真っ赤なストロベリージャムが欲しくなってな」

「あら、それは残念です、スッキリ青いブルーベリーにしちゃいましたよ」

 そう言い、静かに振り返る彼女の瞳は


「――っ」


 ……すっかり赤見が抜けて青紫(・・)へと変貌していた。

 彼女は冷淡に嘲るようにくすくすと笑う、


「やっぱりニブイですね?もう少し早くに来ると思いましたが……間に合いませんでしたね?」


 芋虫が蝕んでいたモノ、

 ――――それはリルドナの『記憶』だ。





デスペレート…やぶれかぶれ という意味です。

変な横文字多くてごめんなさい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ